第73話 ファストレアのお嬢様①
「あっ! 壊し屋の皆さんお揃いで! 副長がお待ちですのでこちらへどうぞ!」
警備局舎へ着くや否や、俺が知っている警備局員共とは毛色が違い過ぎる青年が応対してくれた。
なんと言うか、平凡の極みって感じで......でもどっかで見た事あるような? やたらフレンドリーだし。
「えーっと......誰でしたっけ?」
「忘れちゃったんですか!? 僕ですよ僕!“アレクサンダー・ミルキーウェイ”ですよォ!!」
アレクサンダー・ミルキーウェイ......プリメーラもフィンもピンと来ていないようだ......いたっけそんな人?
――――あっ!! 思い出した!!
「最近彼女と別れたアレクサンダー・ミルキーウェイ(28)だ!」
「なんで、そこだけパッと思い出せたんですか? あと人の恋傷を肩書きみたいに使うのやめてくれません!?」
急な何者かからの精神攻撃により、アレクサンダーは涙目で俺の肩にすがりついて来た。
「アレクサンダー・ミルキーウェイ......何も悲しむ事はありません......」
何だ何だ!? 急にプリメーラが慈愛と神々しい後光を纏って天から今まさに降り立ちましたみたいな雰囲気醸し出してきたぞ!?
「うわぁ......」
「ミ゚ィ......」
見ろ! 普段のプリメーラを見ているフィンとショクがドン引きしてるぞ......
「――――でもぉ......彼女、僕より愛してくれる人がみづがっだっで......ごれをがなじまないでどうしろっで言うんでずがァァァァ......!!」
うわきっつ! 子供に聞かせて良い話じゃねぇだろこれ!
プリメーラは慈愛に満ちた表情で厳かに頷いた。
そうだ、アイツは仮にも女神なのだ。きっとアレクサンダーの心を癒すような素晴らしい啓示をしてくれるのだろう――――
「単純に貴方に魅力が無かっただけじゃないの?」
差していた後光がまっさらと消え去り、慈愛の欠けらも無い言葉がアレクサンダーの精神を貫通していった。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!! どうせ僕なんかぁぁぁぁ!! 僕なんかぁぁぁあぁぁ!!!!!!」
アレクサンダーは頭を抱えて涙を流し、凄まじい絶叫を上げながらその場にうずくまってしまった。
「トドメ刺してどうするんじゃいぃぃぃぃ!!!!」
「恋愛もした事ない元男子高校生は黙ってなさい! こういうのはね、はっきり言ってやった方がこの人の為になるのよ!」
「だとしても言い方ってモンがあるだろうが! あと俺だって恋愛の一つや二つした事あるんだからな!? 馬鹿にすんなよ!?」
「そんな事人生史に書いてありましたっけー? 私覚えてなーい!」
煽るプリメーラにトウヤは決死の抵抗を仕掛けるが、それは涙目敗走待ったなしだった。
「あっプリメーラてめぇ卑怯だぞ!?」
「ショク~、大人ってたいへんだね」
「ミ゚ッ」
「――――お前ら俺は急いでるっつったよな......何もたくさしてんだおいコラ」
場の収集がつかなくなったタイミングで、完全にキレているルークが登場した。
「早く起きろミルク......後でまじ殴りな」
「なんでですか副長.......」
ルークは完全に打ちひしがれ再起不能になってしまったアレクサンダーを一発ビンタした後に担ぎあげ、今度は自分に着いてくるように言った。
――――
局舎の裏口から外へ出て、街の中心まで歩く事数分。
普段は来ないエリアに俺達は案内された。
「でっけー屋敷......」
「でも、はかいしゃ見てるからそうでもないね」
それは言っちゃおしまいだろうよフィンよ。あとお前魔王城に住んでいたからか? スケールが違いすぎるのかもしれない。
しかし、屋敷の中は凄かった。
天井は不必要な程に高く、廊下には見るからに高価そうな壺や皿、なにかの魔道具の様な装飾品が並べられている。
どこからどう見ても間違いない。金持ちの屋敷だ。
いや、疑問はなんでこんな所に案内されているのかという事だ。
「ここだ。入るぞ」
ルークはそう言うと、一際大きな扉の前で立ち止まった。
「壊し屋の皆様を連れて来ました。失礼します」
なぁっ!!!? ルークが俺達に様をつけただとぉっ!?
そう思ったのも束の間、数回のノックの後、扉はゆっくりと開いた。
アホみたいに広い部屋の中にはガリアとライの他に、豪華なソファに腰掛ける少女と、その後ろに控える執事服の女性がいた。
中でも目を引く少女は目が醒めるような長い
俺を見るや否や、少女は立ち上がって優雅な一礼を魅せた。
一目で分かる......この二人――――
「――――貴方が“壊し屋”さんのトウヤさんですね? 私の名は“ヴァラス・ファストレア”。この街の領主をさせて頂いています」
強い......ッ!!
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