第77話 レッツゴー冒険者③

「あっ!! 忘れてた!」


「どうかしましたか? トウヤさん」


 そうだよ、等級で強さがランク分けされるなら伝えなきゃいけない事があるじゃんか!


 そう。見た目では分からないが、今の俺は人形に受肉した状態......つまり前の俺より格段に弱くなっているのだ!


「実は――――」


 俺は話した。ガリア、ルーク、ライの三人は若干驚いていたが、ヴァラスは時々相槌を入れ、俺が話し終わるまで静かに聴いていた。


「――――なるほど......破壊者との戦いの後にそんな事が......災難でしたね」


「すまないッ!!!!」


 突然、ガリアが土下座をしてきた。


「ガリア!? お前っ! どうしたんだよ急に!」


「壊し屋の......お前は俺の象徴アトリのせいでその身体になっちまったって事だ......幾ら街を救う為とは言えこんなの......ッ! お前に荷を背負わせ過ぎた!!!!」


「やめろって! あの時はあれしか選択肢が無かった。だろ? 確かに、今は全力の半分も力が出ないけど、それはまた鍛えればいいだけだ!」


「だが――――」


 ガリアは納得できないようだった。


「これはは俺がもっと強ければ起きなかった。俺の未熟さが招いた俺だけの結果だ......だから謝らないでくれ。な?」


「ウゥ......!! すまない......ウォォォン!!!!」


 ようやく顔を上げたと思ったら、今度は号泣しながら俺の両肩を揺さぶり始めた。


「だから謝んなって......今度飯でも奢ってくれよ!」


「ッ――――!! ああ......美味いスイーツの店を教えてやろう! ズビッ!」


 鼻水垂らしながらだとなんか絶妙に間抜けだな。思わず二人で笑ってしまった。


 笑いも収まったタイミングを見計らって、ヴァラスが頷きながら口を開いた。


「中々良い物を見せて貰いました......そしてトウヤさん? 今のお話を受けて、私から一つ提案があります」


「なんですか?」


「その身体に慣れる為の試運転に、私からの依頼クエストを受けていただけませんか?」


「依頼......ですか?」


「はい! 勿論討伐の依頼ですし......慣らしにはピッタリの依頼を三つ程私が見繕いましょう」


「良いんですか!?」


「私からのサービスです!」


 ヴァラスさんめっちゃ良い人じゃん! 可愛いし、仕事も出来る......どこかのムラっけ女神様とは大違いだな。


「今トウヤすっごく失礼な事考えてなかった?」


 隣からじっとりとした視線が飛んでくる。


「いや別に?」


 いやまぁ、感謝しなきゃいけない事は沢山あるよ? けどさ、俺、未だに象徴アトリ貰えなかったのちょっと気にしてるからね?


「トウヤさんが象徴アトリに覚醒したら、直ぐに“特級”まで上がれると思うんですけどね......その為にも、沢山強い魔物と戦っていただかなくては! と言うか早くなって下さい!」


 え? ちょっと待って? さも当然のようにヴァラスの口からサラッととんでもない情報が飛び出したぞ? 


 特級って何!?


「ちょっとヴァラスさん!? 特級......って何ですか!?」


「あれ? 言ってませんでしたっけ?」


「聞いてないです......」


「ならば、わたくしの方から説明致しましょう」


 急に割り込んできたフェルメアにより、特級の説明が始まった。


 聞けば“特級”とは、勇者のみに与えられる時の如く特別な等級らしい。


 特級(勇者)になる為の条件は二つ。


 象徴アトリを所持している事。または――――個人で特級の魔物に勝利できる事である。


 どうやら俺は条件の2を満たしているらしい。


「なんでヴァラスさんは俺に特級になって欲しいんですか?」


「アイツら5人もいる癖に揃いも揃ってゴミカスで......クソカス集団なんですよ......これから会うことも増えると思うので、それまでに良いひと人口を増やしておきたくて......ふふっ、笑いますか?」


 らしい。この時、口では嗤っているのに、目が完全にマジだったヴァラスさんが今日一番怖かった。


「は、はは......そうなんですね......」


 ひえっ! ティーカップにビシりとヒビが入った!? 不吉だ。


 プリメーラとフィンなんかビビりすぎて瞳孔がかっ開いている。


 暫く思い出しそうだな......



――――



「そうですね......この三つが良いでしょう」


 ヴァラスはそう言うと、“依頼書”と書かれた三枚の紙を俺に渡してくれた。


 上から順に、【上位精霊の鎮静化】【プレーンドラゴンの討伐】【博打伺候アザルドナイトの捕縛】と書かれている。


「全て終わったら、正式に推薦を出します。頑張ってくださいね!」


「うす! 行くぞお前ら! 先ずは上位精霊だ!」


「「「おー!」」」


 壊し屋の新しい仕事は、身体を慣らしつつ依頼をこなす事! 目指すは特級! わかりやすい人間最強が見えてきたんじゃね? 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【第一部完結!】不遇転生から始まる最強魔王育成記〜魔王がちびっ子で弱かったので最強に鍛えます〜 ちょっと黒い筆箱 @tyottokuroifudebako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ