第32話 爆姫の行進③

「――――で、コイツどうすんの?」


 全身血まみれになり、小さな呻き声を出す事しか出来なくなった男を指さし、ルーク達に質問を投げた。


「魔獣取引業者の残党だって自分で言ってたから、まぁ回復してから幽閉だな」


「壊し屋の旦那ぁ、コイツ殴る時の顔ちょお怖かったですねぇ......ジブンに拷問してる時の副長みたいでしたぁ」


「あれはお前がどう考えても悪いだろうが!!」


 ライお前拷問されてんのか......


「な、なぁ壊し屋、その横にいる美しい女性は......まさか女g――」


「ねぇトウヤ聞いた!? 今絶世の美女だって言ってたわよ! ホラ! アンタも言ってみなさいよぉ!」


 何か言いかけたゴリラ...じゃなくてガリアは遮られてしゅんとなってしまった......嬉しいからって背中バシバシ叩くな!!


「そうだな。お前性格以外は男ウケ良さそうだもんな」


 性格以外は。な。


「でも......うにゅが死んじゃった......」


「フィン......」


 フィンは沢山の涙を零し、一生懸命お腹を撫でていた。


 そこへ一緒にしゃがみこむのはルークだった。


「コイツは、お前を守って死んだんだ......悲しいのは分かる。だが、まず言う事があるんじゃないか?」


 優しく頭を撫でられ、何かに気が付いたような様子をフィンは見せる。


「ありがとう......うにゅ......我を......我たちを守ってくれて、ありがとう......」


 俺には、フィンとうにゅが一日どう過ごしていたかは分からない。だが、フィンを守ってくれた。なら、俺が責任を果たす番だ。


「なぁルーク。この犬......うにゅの亡骸、壊し屋ウチが預かっても良いか?」


「本来は認める訳にはいかない......どうするつもりだ?」


「察するに、この男にどこかから連れてこられたんだろ? だから、生まれ育った場所で弔ってやりたいんだ」


「なるほど......お前のガキに免じて、特別に許可してやるよ。場所が分かり次第連絡してやるから感謝しろ」


 ルーク、話の分からないイカレ野郎どうるいだと思っていたが、案外良い所あるじゃんか。


「サンキュな」


「トウヤ、“とむらう”ってなに?」


「ありがとう。の気持ちをこめて、ゆっくり休めるようにしてやるんだ。今まで住んでた場所なら、うにゅも安心できるだろ?」


「とむらう......ゆっくりおやすみ......うん!」


「プリメーラ!」


 俺が何を言おうとしたか分かったのか、プリメーラはうにゅの体と頭を簡単な治癒魔法で繋げ、もう一つの魔法も発動させていた。


「任せて! 簡単な防腐処理もしといたわよ!」


 このグッドマークには感謝しなければ。これで、故郷が見つかる前に朽ちることは無いだろう。


「ああ。ナイス女神パワーだ」


 こうして、フィンの散歩から始まった一匹の友達とのお話は幕を閉じたのだった――――


「う......あ.......」


 俺が殴り飛ばしたはずの男の意識が戻った。だが、指先を痙攣するように動かすだけで何も出来ないようだ。


「なんだ、もう目を覚ましたのか? しばらく動けないんだから大人しくしとけよ」


「ライ、一応拘束するんだ」


「へぇい局長ぉ......」


 何かをぶつぶつと言っているが、何を言っているのかまでは分からない。


「お助けをォ!!!! “ヴィフラム”様ァァァァァァ!!!!」


 瀕死の男が余力を振り絞り発した絶叫。その場に居た全員が彼の方を見てしまった。


 瞬間、全員が背を向けたファストレア緊急警備局の建物が消し飛ぶ大爆発が起こる。


 そして先刻の首輪とは比べ物にならない炎と煙の中、上空に浮く人物が確認できた。


 爆破に使ったと思われる魔法陣の描かれた石を大量に抱え込む姿が、自分が犯人だと分からせる為の主張を怠っていなかった。


「はふぅ......やっぱり大きな建物だと映えるねぇ......」


 可愛らしい声のその少女は、空中で絶望を抱え、にこやかに俺達を見下ろしていた。

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