第33話 爆姫の行進④

「なに......?」


「いきなり建物が吹っ飛んだぞ......」


 俺とプリメーラは動けなかった。


 今俺の足元で高笑いをしている男の叫びに合わせて現れたあの少女。魔法陣が描かれた、うにゅの首輪を爆発させた石と同じ物を大量に抱えている......クソっ! 状況に理解が追いつかねぇ!!


 俺が固まっていた1秒に満たない一瞬、俺の思案を吹き飛ばすように顔の横を超速の釘が掠めて飛んで行った。


 その釘は爆発した建物の上空で静止する少女の眉間に向けて突っ込んで行くが、目測10メートル程離れた地点で釘は爆散してしまった。


「やっぱり駄目か......」


 吐き捨てるようにルークは呟く。


「こわ......たまたまそうだったから良いけどさ、もし私じゃなかったらどうすんのよ?」


 ぷりぷりと怒りながらルークを指さす少女。抱えていた石はもうどうでも良いのか、バラバラと地面に落としていた。


「自分がやりましたって白状してくれて助かる......次からは本気でぶち込めるからな」


 一発目よりも速く投げ出された釘五本も、少女に届く事は無く手前で爆発してしまった。


「もぉ~今は君たちと戦うつもりは無かったのに~。せっかくの一張羅が汚れちゃったじゃない......」


「舐めやがって......」


「よせルーク。それ以上は傷が開く」


 止めるガリアに渋々ながらも同意したルークは、投げようと構えた釘を懐にしまった。


 少女は軽く咳き込みながら、改造した純白のタキシードに付いた埃を丁寧に払う。あくまで俺達と争わないという姿勢は崩さないようだ。


「ハハッ!! ハハハハハハァ!!!! 貴様等はもう終わりだ! ヴィフラム様にかかればこのように全てが灰燼と帰す!! 警備局のゴミ共も! 私の計画を邪魔した壊し屋のお前もだ!!」


 バッテリーを入れ替えたおもちゃみたいに急に元気になるなお前。


「争う気はない」とヴィフラムと呼ばれている少女は言っているが、この男を助けに来た以上戦わなければならない。


「いや、私、あんたなんか助けてあげないわよ? なんで自分だけ助かるって思ってたの?」


「......ふぇ?」


 他人の威を借り、再度勝ちを確信した顔が、またもや絶望へと引き戻される。


「いや......だって、え? あの生物と警備局の三人を殺したら私の仲間を助けてくれるって......もしどちらか片方を失敗しても私だけは呼べば助けてやるって......これは契約だって――――」


「大体さ、あんたは人質取るとか無駄に時間かけ過ぎ。本気で作戦成功させたいんだったら有無を言わさず爆死させるべきだったわね。ま、それでも殺してたけど」


 ヴィフラムは消して質問には答えない。いや、答えないのが答えなのだろう。


 この男は、いや、この男とその仲間は捨てられたのだ。


「契約だなんて言ったかしら? まー利用価値の無くなったあんたらごと戦力を削げたんだから、そこだけは感謝してるわ。じゃあね」


「ふざけん――――ナ゛ッ!!!!」


 憎しみと憎悪に満ちたような狂気の表情を刻み、怒りを燃料に男は立ち上がったが、その瞬間に身体が弾け飛び、一瞬で物言わぬ肉片になってしまった。


 放射状に飛び散った血液のみが、その場に人がいたと思える証拠だった。


「さっきの爆発に巻き込まれて焼け死んだお仲間より酷い死に方になったわね~。ぷッ! 無様!」


 ヴィフラムは飛び散った肉片を嘲笑うように拾い上げ、少し弄った後捨てるように爆散させた。


 今のやり取りは、俺のイライラゲージをマックスまで引き上げた。完全に切れちまったよ......


「トウヤ! いくら依頼人だったからってアンタがコイツの為に怒ること無いわ! 争う気は無いって言ってるんだし下手に刺激しちゃダメよ!」


 いいや限界だ......許せねぇ!!!!


「テメェ......ヴィフラムとか言ったか......? 助けを求められたら助ける約束してたんだよなぁ......?」


「急に何? えーとしたような気がするけど......私の狙いも外れたし、彼の約束も叶わなかったって事でトントンよ」


「舐めてんじゃねぇよ! 約束は守れよ教育に悪いだろうがァァァァ!!!!」


 約束を守らない魔王になったら俺と戦ってくれなさそうで困る! そうならない為に! 今ここでお前はぶっ飛ばす!!

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