第16話 煙草

「おはよぉトウヤぁ......って何この大工道具の量」


 プリメーラはこれから壊し屋の応接室になるであろう部屋に散乱する大量のトンカチ、ノコギリ、板etc...に目を丸くした。


「おはようプリメーラ。フィンは?」


 フィンとはちびっ子魔王の事である。一文字しか短くなっていないが、愛称的なものがあった方が良いだろうという事でそうなった。


 ちびっ子魔王はこの愛称をとても喜んでいたので、俺もちょっと嬉しくなっちゃったよね。


「――――まさか魔王と一緒の布団で寝る日が来るとは思わなかったわ......トウヤと一緒じゃなかったらその場で何してたか分かんないわ......あと寝相が悪い!! 夜中何回蹴られたか分かったもんじゃない!! 明日からトウヤと一緒に寝てもらうわ!!!!」


 “寝相が悪い”に並々ならぬ怒りを感じた。余程だったのだろう......てか寝室は一室しか無いのだ。俺も二人と同じ部屋で寝る他ないという事はあと少しだけ黙っておこっと。


「――――あとプリメーラ、お前さっきおはようって言ったけどよ、朝俺に新聞見せた後寝直してるから今午前中も後半戦だぞ?」


 現在の時刻。10時25分。


「ふぁっ?」


「あと、俺これから昼までにやらなきゃならない依頼があるから、もしフィンが起きて来たら朝メシ兼昼メシ作ってやってくれ」


「えぇ!? 私料理なんてした事も――――」


「んじゃ、頼んだぞー! 行ってきます!」


 大工道具を担ぎ、俺は間違いで破壊した家の修復へと向かった。



◇◇◇◇



「――――あら~、壊し屋さんってお仕事早いのねぇ~」


 完璧に元通りになった壁と俺を行ったり来たりしながら、老婆は感嘆の声を漏らす。


「いやぁ、俺の父親が言ってたんスよ。『創造もまた破壊の内』だって。多分壊すだけじゃ店が成り立たないから修理も始めたんでしょうけど、こうして役に立ってるなら結果オーライですよ」


 壊したのも俺だしね。


「お昼の営業再開前に直してくれてホント助かったわ! 良かったらご飯、食べていかない?」


「え! 良いんですか!? ありがとうございます!」


 プリメーラとフィンは......また今度連れて来るとしよう! もう昼メシ食べただろうし!


「――――昨日振りですフサエさん。また今日も少し話を......って、穴が塞がってる......」


 軽くノックをして店へ入って来たのは、長身の爽やかイケメンだった。ちょっと目付きが悪いのが気になるだろうか? 顔が少し怖い。


「あらルークさん! この人が直してくれたのよ!」


 老婆もといフサエさんが俺の肩をポンと叩き、ルークとの距離が少しだけ縮まる。


「へぇ、アンタが......この街で見た事ない顔だが、他の街で大工でもしてたのか? よろしくな」


 ルークは俺の事を一周見回したあと、握手を求めるように手を出してきた。


「トウヤって言います。よろし――――」


 ルークの手を握った瞬間、俺の視界は一回転していた。腕だけで投げられたのだ。


「――――ッハ......ッ!!!! ッてぇ......」


 辛うじて受身は取れたが背中に鈍い痛みが残る。


「なんのつもりだよテメェ......!」


「お前の身体から今ウチで預かってる犯罪者と同じタバコの匂いがした......おっと、俺の自己紹介がまだだったな。【ファストレア緊急警備局】の副局長、ルークだ......身に覚えはあるだろうが壊し屋.......お前を連行する」


「同じタバコの臭いって! それだけでよく俺がそうだって分かったな!! 勘違いだったら罪の無い一般人怪我させる事になるんだぞ!?」


 警備局って事は警察みたいなモンか......面倒臭い奴らに目をつけられちまったか?


 ルークは俺の言葉に対し、心底呆れたような、死んだ魚のような目を向けている。


「......そうだったんだから何も問題は無いだろうが」


 頭ぶっ飛んでんなコイツ!! 想像以上に面倒くさそうだ!


「その通り! 俺は異世界壊し屋のトウヤ!! これからまだ仕事があるんだ。とっととそこどけやァ!!!!」

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