第42話 森の異変

 諸々の準備を整え! しっかりとした睡眠を摂り! そして次の日の朝ッ!!


「せいれぇぇぇぇつ!」


「「はいっ!」」


「ミ゚ッ!」


 俺の号令に合わせ、きりりとした顔で二人と一匹は整列と敬礼をする。


 顔らしい顔の無いショクも突起のような短い手をスライムボディの上部に持ってきて敬礼のポーズだ。


「これより! 大森林のヌシ捕獲リベンジを行う!! 出発前に持ち物の確認だッ!! プリメーラ! 回復魔法が使えるのはお前だけだ! 残り魔力はバッチリか?」


「任せなさい!」


 よし、これで滅多な事じゃ死なないだろう。


「フィン! 全員分のお弁当は忘れてないか!?」


「おいしかった!」


 口の周りについたハンバーグのソースと食べカスが、本日のお弁当が全てフィンのお腹へと消えた事を物語っていた。


「よし! しばらくおやつ抜き!」


「ガーン!?」


「ショク......はなんでちょっとでっかくなってるんだ?」


 二、三回り程大きくなったような......ふやけたような?


「ス!......ス?」


 なんで? とでも言いたげな顔だなショクよ。


 実はスライムという魔物は、液体、固体問わずに吸収した物を半永久的に体内に貯め込む事ができるらしい。


 なんて事を聞いた俺はショクに大量の水を吸わせた......いや、正確には風呂に入れたらお湯を吸い込んでいた。まさか水を吸ったらでかくなるとは思わなかったが......


「その......ごめんな?」


「ミ゚?」


 上部を滑らせるように撫でると、水を吸う前は“もにもに”という反発力のある手触りだったのが、今は“ぶにぶに”といかにもな触感をしている。あと吸ったのがお湯だったからなのかほんのり温かかった。


「――よし! じゃあ気を取り直して出発するぞー! プリメーラ! 千里眼が切断された所まで案内してくれ!」


「分かったわ!」


 こうして俺達、壊し屋さんの一行はファストレア大森林の奥地へと足を再度踏み入れるのだった。


――――


 歩き始めて、数時間が経過した。プリメーラの言う森の中心部は、まだもう少し先のようだ。


「――なぁプリメーラ......おかしいと思わないか?」


「え? なにが?」


 俺には二日前にこの森へ入った時から気になっていた事があった。


「魔物、いなさすぎやしないか?」


 そう。魔物がいなさすぎるのだ。


 ファストレア大森林は“ファストレア”の冒険者が(ヌシ騒動が起こる以前は)日夜依頼をこなす為に訪れていた場所である。


 それだけ魔物は大量にいる筈なのだが、俺達が出会ったのはスライムショク一匹だけである。


 かと言ってヌシが突然現れて大森林の外へ追い出されたのかと言うとそういう訳でもないらしく、森の外で魔物の討伐を任されている冒険者からは未だ森から魔物が出てきたという報告すら上がっていないらしい。


 つまり、森の内にも外にも魔物がいないのだ。


「確かに......そう言われて見ると変ね。魔物は魔力溜まりさえあればほぼ無限に生まれる訳で、基本いなくなるなんてことはないんだけど......」


「これも大森林のヌシが関係してるのか......?」


 そんな疑問を抱えたまま、俺達は大森林の奥を目指した。

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