第44話 そこ

 蟲魔人の人差し指が向く先には彼、ないし彼女......? いやそもそも性別なんてあるのか?


 水色で、若干の光沢と爽やかな透明感を持った一等身ボディ......それはフィンに抱かれていて......え? うそぉ......


「そこのスライム。そのものがこの大森林のヌシとやらだ」


「んぇぇぇぇぇぇ!? ショクがぁぁぁぁ!? お前、大森林のヌシだったのか!?」


「嘘よ! ウソウソ絶対に嘘!! だって......これよ!?」


「しょくりょうはヌシさんなんだ! すごいね!!」


 三者三様の反応が森を騒がせる。中でも一際すごい反応をしていたのは――――


「ミ゚ッ!?!? ミ゚ミ゚ミ゚ミ゚ッ......ス!? スゥ......ミ゚ミ゚ッ!! ミ゚ィ!!!!」


 ショクであった。スマホのバイブレーションかってくらい体を震わせ、全身ほぼ水分のはずなのに体表から汗を流しながら、短い手を必死に振り回し俺達に何かを伝えようとしていた。


 この反応は......多分『違う。心当たりがない』と言いたいんだろう......


「......違うって言ってるけど......?」


「ミ゚ッ!」


「........................?」


 おい、無視すんな。


「いや、すまない。言葉が足りなかったようだな。正確には“これから”の大森林のヌシはそこのスライムだ......という訳だ」


「これからのぉぉぉ? じゃあ、これまでのヌシはどこなんだよ」


「アレだ」


 次に指が向いた先には、先程までこの蟲魔人が上で瞑想していた黒く小高い丘のようなものがあった。


 あれは......なんだ?


「アレはこの世界の名称で帝王混蝕粘生体カオスエンペラースライムという変異した魔物だ。記憶を覗き見るに、この森の全ての生物を食い尽くしてしまったらしい。討伐に来た人間も食われていたから恐らくソレの記憶だろう」


 成程つまり、突然変異のスライムが出現する。


 魔力の高まりをギルドが感知して冒険者を派遣。


 帝王混蝕粘生体カオスエンペラースライムは森の生物を食い尽くした後、オマケに冒険者も全員食べる。(ここら辺の前後関係は不明)


 運良く生き残ったショクに俺達が出会い仲間にした。


 的な道を辿り今に至る訳か......


「じゃあなんで死んでるんだ?」


 まぁ聞くまでも無いんだけど。


「あぁ、オレがこの森に降り立った時急に襲いかかってきてな。殺した」


 やっぱり。明らかに強そうな(男の子の童心をくすぐるような)見た目と雰囲気してるもん。


 さて、お次は交渉のターンだ。


 今まで話を聞いて、この蟲魔人は話の分かる男だと知る事が出来た。更に、この死体に特段の興味が無いと見える。


 後はどうやってこの(元)大森林のヌシと言う宝の山を掠め取り金貨120枚を手にするか!!


(うわせっこぉ~さいてぇ~ずるぅ~......)


 えぇいうるさいプリメーラ! これは死活問題なのだ!! あと勝手に俺の頭に入ってくるな!


 せこいずるいと言われようと! 俺はここで大金を手にしておく!!


「――――あのさ、提案なんだけど......」


「何だ? 御仁よ」


「そのスライムの死体さ、俺達に引き取らせてくれないか?」


「? 別に構わないが」


 ビンゴ! やっぱりコレの価値に気が付いてない!


「唯の骸だぞ? なにかに使えるのか?」


 意外と鋭いな......


「いや、実はさ――――」


「あのね! ヌシさんはね! おかねさんになって! おかしいっぱいになるんだよ!」


 ファァァァァァァ!! フィンが言っちまったァァァァァァ!!!!


 瞬間、森の中を完全な静寂が包み込んだ。同時に木のざわめきもありありと感じる事が出来た。


「成程......そういう訳ならば、おいそれと渡す訳にはいかないな」


「どーしても......か?」


「どうしても。だ」


 蟲魔人がその一言。たった一言を発しただけで、彼の言いたい事が全て理解出来たような気がした。


「じゃあ......力ずくでも手に入れてやるよ!」


「その言葉を待っていた」


 全身の細胞が全力で活動を始めた。戦いの感覚が体を支配する感覚......最高だ!

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