第45話 圧倒

「よぉしフィン! しっかり掴まってろよ!!」


 合体!!


 俺はこの状態を“スーパーおんぶモード”と名付けた!!


「オレは構わんが......攻撃がその童にも当たってしまうかもしれないぞ?」


「安心しろ。当てさせねぇから」


「そうか――――」


 ふっ......と......いや、実際には音も無く蟲魔人はその場から消えた。


 目が閉じるまでの瞼の動きよりも速く、蟲魔人の気配が後ろへとすり変わった。


「速――――」


 身体ごと回転させ、勢いの上乗せされた拳が背中へ目掛けて飛んでくるッ!!!!


 コイツ!? フィンごと俺を殴る気か!?


「ぬぅぅぅぅえいっ!! 舐めるなぁァァァァ!!!!」


 拳が衝突する直前、俺はギリギリでフィンを避難させることに成功する......だが俺は避けられない――――


「グッ―――!?!?!?」


 胸に穴は......空いてない......くり抜かれたかと思った......


 背骨と肋が軋む音がする。神経から直接痛みが響く!!


「確かに、童に攻撃は当たらんようだ」


「てめっ......ぐっ......あぁ......」


 視界が歪む......一撃でこれかよ!!


「フィン! 今回は離れてろ」


「わかった!!」


 こりゃ間近で見てろとか言えねぇ......


「――どうだ御仁。ヌシは諦める気になったか?」


「あぁ!? 俺だって生活かかってんだよ!!」


「そうか。ならばもう一撃だ」


 予備動作無しノーモーションの上段回し蹴り!!


 避け――――


「ぐっ!!?」


 背骨の痛みが......じゃあ腕をガチガチに固めて防御するしかない!!


「はぁ!!!!」


......は? え、腕爆発した? 足にヴィフラム飼ってる?


「腕に意識が行き過ぎて、体幹ささえが疎かだ」


 意識が追いついた頃には、俺の身体は撥ね飛ばされて巨木へ叩き付けられていた。


「いや、防御してんのに全部貫通して蹴り飛ばせてるお前がおかしいんだよ」


 腕は......折れてねぇな。


「じゃあ今度はこっちの番だァ!!!!」


 まずはどう考えてもカッコイイの言葉しか出てこない黒光りしてる身体装甲......アレを一発叩き割る!!


「オォォォォォォッ!!!! だァッ!!!!」


「ムッ......!?」


 俺渾身の一撃が胸を穿つ。蟲魔人の身体を通り抜けた衝撃波が後方の地面を放射状に吹き飛ばした。


 メギメギと音を立てひび割れる音が響く。


 それが俺の拳の方から響く事に気が付いたのは、数瞬の後だった。


 蟲魔人の胸の装甲には、一切のかすり傷ひとつ付いていない。


「トウヤの攻撃が完全に効かなかった事なんて、今まで一度もないのに......」


 俺の拳圧で吹っ飛ばされたと思われるプリメーラが物陰から驚愕の声を漏らした。てか事実、今俺が一番びっくりしている。


「オレの身体を衝撃が突き抜ける衝撃の感覚。今のは良い一撃だったぞ」


「無傷の魔人サマに言われても嬉しかねぇよ」


「魔人サマ......そうか、いや、なにぶん言葉を発するのが久しぶりなもので名を教えるのを忘れていた」


「今更かよ......」


「オレの名は“コーガザス・ガブド”だ」


「俺も名乗っとくか......壊し屋ニニギノミコト異世界本家! 四木ニニギ トウヤだァ!! よろしくぅ!!」


 なんで余計な事まで付け足しちまったんだろ......まぁいいか。


 この名乗りを皮切りに、俺とコーガザス両名は同時に地面を蹴り出す。


 全身全霊のぶつかり合いは、より激しさを増す。

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