第27話 フィンのお友達
壊し屋さんにてトウヤとプリメーラが不味いコーヒー作りをしていた頃......
「我っは~まおうで~! さいきょうになる~! おとうさんを~、こえる~!」
フィンはウッキウキで街を闊歩していた!!
1メートルにも満たない背丈の男児が“ゆうゆう”と陽気に道を往く。その光景にすれ違う人が皆微笑ましい視線を向けるがそれにフィンは気付かない。
なぜなら、フィンはもう既に自分のお歌の世界に入り込んでしまっているからである。
フィンのお散歩には、未来への希望と夢がいっぱいに詰まっているのだった。
「へっへっへっへっへっ......」
「む? なんだ?」
お歌の世界にいても気が付く、自らが聞いた事の無い音がした。
フィンが音のする方向を見てみると、そこには......
「うにゅん!!」
「......??」
ライオン程度の大きな体躯。薄緑、空色、白が丁寧にグラデーションされた作り物のような毛並み。
鳴き声が『うにゅ』の生物がいた。
「わぁぁぁぁ! お犬さんだ!!!!」
彼ないし彼女は犬だった。
「犬さんはどこから来たの?」
「うにゅっ!」
「好きなたべものは?」
「うにゅっ!」
「我のことしってる?」
「うにゅっ!」
「そうなんだ! すごいね!」
フィンは犬(?)の言葉が理解出来た。
「ぜんぜんわかんない!!」
やっぱり理解出来ていなかった。
「やっぱりトウヤみたいな人がいるよね? 犬さんのことさがしてるのかな......」
フィンは、一人(一匹)でいる。トウヤ(飼い主)がいる。自分も一人だった時(誘拐された時)トウヤが探してくれた。犬にも探してる人がいる。の思考回路を辿りこの犬が迷子である可能性に至った。
「――――でね! 来たの!」
「全然分からん」
フィンは何故かファストレア緊急警備局に来ていた。相対するはルークである。
「それで? ぼくはどうしたんだ? もう一回俺に教えてくれないか?」
「あのね! 犬さんね! トウヤいないの! 見つけて欲しいの!」
「二回目聞いても分からんわ」
分からないとは言いつつも、ルークは頭の中で情報を整理する。
唯一分かるのは「トウヤ」という人名だけである。そしてルークは、その人名に嫌な予感しか感じなかった。
「まさかあの野郎のトラブル......いや、まさかな。見た感じ子供がいるような雰囲気は無かったし――――」
「ただいま戻りましたよぉ~不法な魔獣取引の業者なんてジブンにかかればちょちょいの......あ、壊し屋の旦那の所のガキじゃあ無いですかぁ。どうしたんで?」
「このまえ、トウヤとたたかったおにいちゃんだ!」
ルークの脳が導き出した別人という淡い希望をライが一瞬にして打ち砕き、信じ難い結論を突きつけて来た。
やっぱりか。と、ルークは頭を抱える。
「ライ、実はかくかくしかじか――」
「なるほど、分かりゃせん」
思考停止だった。
「てかぁ、え? 犬?......犬?」
「そう! ね!」
「うにゅっ!」
フィンの問いかけに犬は元気よく応えた。懐いているようだ。
「なぁライ......俺が本で見た事がある犬ってのは......なんかもっとこう......色々と違ったんだよ」
「ジブンも実物は見た事ありませんが......魔狼や人狼族に近い生物だと聞きました......え、本当に犬ですかぃ?」
凛々しさとは程遠いビー玉を磨いたかの様なつぶらな瞳。筋肉質とはお世辞にも言えないもちもちふわふわな肉感の胴体。あらゆる攻撃を弾くどころか、手が沈み込む干したてのふとんの如き毛並み。
目の前にいるソレはルーク達が知る、所謂犬系の魔物、亜人とは余りにもかけ離れていた。
「うにゅっ!」
一方その頃のトウヤ達は......
「そして肝心のインスタントコーヒーの素ですが、よく考えてみたらそんな凄い代物この異世界には無いので、それっぽい黒いつぶつぶで代用します!」
「待て待て待て待て!!!! なんだよそれっぽい黒いつぶつぶって!? え!? あれコーヒーですらないって事!? じゃあなんなんだよこの黒いつぶつぶ!!」
インスタントコーヒーモドキの生物に翻弄されていた。
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