第29話 情緒

「――――依頼......なんですって?」


「はい、迷子になったうちの子を......探して欲しいんです......獣なんですけど......珍しいっていうか......」


「珍しい?」


「鳴き声が......『うにゅっ!』と......」


「なんだそりゃ」


 俺が知る限り『うにゅっ!』と鳴く生物はいない......やっぱり異世界だからか!!


「コーヒー要りますか?」


「あぁ、いただきます......」


 おいプリメーラ!? 何さっきのクソマズコーヒー出そうとしてるんだおい止めろ!! 飲むな――――


「――――それでなんですけど、私の依頼、受けて頂けますか?」


 半分程一気に飲み干したのに無反応......だと!? なんだこの男すげぇ!!


「? あの......聞いてますか?」


「あ! はい! んじゃまぁ取り敢えず、探しに行ってみます! ここで少し待っててください」


「私も行きます。私が確認しなければどんな生物か分からないでしょうし」


 本当は依頼人を連れ回すのは好きじゃないんだが、本人がそう言ってるならばまぁ良いか。


「じゃあしらみ潰しに、居そうな所を回ってみましょう」


「よろしくお願いします......」


――――


 という訳で、ここら辺にいるのではないかと街の中心部へ来たのだが......


「依頼人さん? そもそも、俺達が今探してるのってどんな生物なんだ? 鳴き声以外も手がかりが探しづらいんだが......」


 依頼人の男は、一瞬思案したあと俯き加減で答えてくれた。


「はぁ、それが......不定形生物というか......言葉では言い表せない程綺麗だというか......見た目は魔狼そっくりなんですけどね」


 狼そっくりだけど不定形で色が綺麗!? 俺達は一体どんな生物を探してるんだ!?


 こりゃぁ、見つけた暁には凄まじい額の報酬が貰えるに違いない!!


(ねぇトウヤトウヤ、この依頼人怪しくない? なんか隠してるわよ絶対!)


 隣を歩いていたプリメーラが耳打ちをする。耳打ちと言うにはそこそこでかい声なのだが、何かを考えているのか依頼人には聞こえていないようだ。


(怪しいって、どこら辺が怪しいんだよ)


(女神の勘よ!)


 はい信用ならない!


(......勘だとしても、それを俺に話したって事はそれなりに根拠があるんだろ?)


(私の不味いコーヒー飲んで吐かなかった! あれはそれどころじゃなかった証拠よ!)


(根拠薄ッ!! あとまずいの自覚してんのかよ!)


――――だが確かに。依頼人はコーヒーを口にする毎に真実も飲み込んでいるような感じはした......が、それがなんだと言うのだ。


(怪しい動きしだしたら速攻ぶっ飛ばせば良いだろ)


(脳筋ねー......)


 そうこう話しながら探し回るうち、時刻は夕方になってしまった。


「――大通り路地裏その他もろもろ......ここまで探していないとなると、今日はもう帰った方がいいな」


「えぇ!? そんなぁ......」


「まぁ安心しろ。見つけたら連絡してやる――――」


「あ! トウヤだ! トウヤー!」


 俺の名を呼びながら手を振り飛び跳ねているのはフィンだ。


「フィン!? どうしてここに......」


「げ、トウヤじゃねぇか」


「おぉ~旦那ぁ~。この前ぶりですねぇ......」


「知り合いか?」


 フィンの周りにいるのは、この前俺とやり合ったルークとライ。そして謎のゴリラだった。


 そうか、いつの間にか俺達ファッ急の局前まで来ていたのか(来たこと無いから知らんかった)


 なんでここにフィンがいたのかは謎だが、まぁ色々とあったのだろう。


「うにゅっ!」


 優しくフィンの首を噛み掴み、背中にモフルンっ! と乗せたのは......うにゅっ! と鳴く、言い表せない程綺麗な毛並みをした生物だった。


 あれはウチの依頼人が探していた謎生物なのでは!?


「良かったですね依頼人さん! 見つかって――――」


 依頼人は俺が思い描いたような優しい顔ではなく、灼ける怒りと天に昇る程の悦が複雑に醜く入り交じったような顔をしていた。


「ええ......良かった......本当に良かった......私はとても! 運が良い!!!! 今ここで殺してやるぞゴミ共ォ!!!!」


 プリメーラの勘は、どうやら当たっていたみたいだ。

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