#4 異世界交流

 朝の日差しを浴びて、目が覚める。


 妙な夢を見た。わけのわからぬファンタジー世界に突然投げ出され、化け物どもに追い回される。変な人形が助けてくれたが、最後は精も根も尽き果てて倒れてしまった。


「お目覚めですか」


 夢の内容を反芻するキミヒコに、声がかかる。


「……ホワイトか?」


「ええ、そうですよ」


「はあ……。夢じゃなかった、か」


 どうやらこの悪夢は終わっていないらしい。キミヒコは落胆した。


「ここは?」


「昨日たどり着いた村の宿です。部屋を案内されて、そのまま横になってもらいました。寝心地はどうです?」


「ベッドが固いな。まあ、贅沢は言ってられんか」


 キミヒコが辺りを見渡すと、小さな部屋の粗末なベッドで寝ていたらしいことがわかった。窓にはカーテンはなく、日差しが差し込んでいる。


「ここの住民に助けられたらしいな。……今はお前一人か。とりあえず、現状確認してから、俺が起きたことを知らせないとな」


 助けてもらって、一晩泊めてくれたのだから礼の一つも言わねばなるまい。


 状況はまだよくわかっていないが、現地人とのファーストコンタクトだ。なるべく友好的にしていきたいとキミヒコは考えていた。ついでに食事も恵んでもらおうかという厚かましい思いもある。


「ああ、それなら知らせなくても大丈夫ですよ。もう気付かれてます」


「気付かれてる? 俺の目が覚めたことをか?」


「ええ。隣の部屋に見張りがいます」


 見張りという言葉を聞き、自分たちが警戒されているという事実を認識したことで、キミヒコは息を呑む。


「あー、まあ、やっぱり怪しまれてる感じか?」


「さあ? その辺の機微は私にはわかりません。とりあえず襲ってきたりといったことはないようですが」


 自分たちは見張りをつけられている程度には怪しまれているらしい。だが、こうして宿の一室に案内されているのだから、話は通じるはず。


 そんな考えでホワイトに村人の様子を尋ねたキミヒコだが、その返答は要領を得ない。


「昨晩、ここに辿り着いてから、どういう流れでここに案内された?」


 この人形は人間の感情の機微には疎いらしい。ならばと、今度は現状へ至る流れをもっと具体的に知るために質問する。


「はあ、どういう流れと言われましても。まあまず、この村に到着したものの、入り口の門が閉じられていたので、こじ開けようとしたのです」


「うん? こじ開けようとした? 無理やりか?」


 ホワイトの説明でいきなり不穏な気配を感じたキミヒコは、その説明を遮って質問を入れた。


「はい。なんだかゴチャゴチャ言っていたような気がしますが、門を開けねば入れませんからね。……で、そうしたら向こうから門が開けられました。その後、ハンターと思わしき人間が出てきて、宿を案内するからおとなしくしていてくれと言われて、ここにいます」


「ちょっと待て。お前、宿に泊めてくれとか、そういう交渉はしてないのか?」


「はい、私はなにも言いませんでした。向こうから案内したので」


 ホワイトのそっけない返答にキミヒコは絶句した。


 こいつはいったい、どんな感性をしていやがる。村内に無理に侵入しようとした挙句に、言われるがままこの部屋に居座ったのか。


 現状のまずさに気がついたことで、起き抜けであることと空腹であることで霞がかかっていたキミヒコの思考が、瞬時に明瞭となる。

 ハンターたちがキミヒコたちに宿を案内したのは、ホワイトを恐れてのことで間違いない。

 一見、可憐な少女のようなホワイトだが、ドラゴンをも屠る戦闘力を持っている。そんな奴が村の門をこじ開けて侵入を試みたのだ。ハンターたちはホワイトの危険性に気が付き、なんとか穏便に済まそうとしたのだろう。


「……監視は、どこに、何人いる?」


 村側の警戒がどの程度か知りたくて、キミヒコが尋ねる。


「今はそこの扉の前で聞き耳を立てているのが一人です。さっきまでは隣の部屋に三人いましたが、貴方の目覚めを確認してから、あとの二人は宿の外へ行きました。行き場所は別々のようです。一人は大きめの民家らしき建物。もう一人は……これはおそらくハンターギルドですね。魔力持ちの人間が詰めている建物に今入りました」


 ホワイトの回答はやけに具体的なものだった。


 それは確かなのか? 部屋の外どころかこの建物の外のことまでなぜ正確にわかる?


 キミヒコはそう問い返したかったが、扉の前で聞き耳を立てられていると言われては、余計な発言はできない。

 この場所の文化も常識もわからない現状では、聞かれてもいいことと悪いことを判断する材料がまるでなかった。


「……扉の外の人間が気になりますか? 排除しましょうか?」


 黙り込んだキミヒコを見て、ホワイトが言った。


 殺意とも取られかねない発言だとキミヒコは思った。それは聞き耳を立てていた人物も同様だったらしく、ホワイトの発言と同時に扉の方でガタリという音が鳴る。ずいぶんと動揺したらしい。


「落ち着け、やめろ、ちょっと黙ってろ」


 キミヒコが言うと、ホワイトは大人しく黙った。


「……その、扉の前の方、どうもすみませんね。相方が粗相をしたみたいで……」


 ホワイトを制止しつつ、扉の前にいるであろう人物にキミヒコは声をかけた。


 本当であれば、できるだけ怪しまれないようなカバーストーリーを考えたうえで対話を行いたかったが致し方ない。アドリブでごまかすしかないとキミヒコは腹を括った。


 キミヒコが声をかけてから、しばらく間を空けて、扉が開かれた。


 入ってきたのは、顔色の悪い壮年の男。年頃は三十前後くらいだろうかとキミヒコは見当をつける。


「どうも助けていただきありがとうございました。私はキミヒコ。こちらはホワイトです」


「……」


 入ってきた男は黙って、キミヒコとホワイトを交互に見つめている。


 黙ってこちらを見る人間をキミヒコは観察する。

 日本人、人種的にはモンゴロイドには見えない。ネグロイドでもない。コーカソイドに近いようにも見えるが、どことなく違う雰囲気もする。髪色は暗い茶色、染めているようには見えない。


「おい、お前も挨拶するんだよ」


 キミヒコはしばらく相手を観察していたが、そのうちに沈黙に耐えかね、ホワイトにも挨拶するように促す。


「えぇ……。黙ってろと言っていたではないですか。……どうも、主人が世話になりました。私がホワイトです」


 不承不承といった様子で、ホワイトが挨拶をした。


「う、あ……しゃ、喋った……。あ、あんた……そいつはいったいなんなんだ……?」


 ホワイトの挨拶で、それまで黙っていた男がうめく。


 目の前の男の顔色の悪さはやはり、ホワイトを恐れてのことだったらしい。だが、ホワイトが何者かなどと尋ねられても困る。

 動いて喋れる、そのうえ魔獣も殺せるこの人形のことを、どう説明したものかとキミヒコは悩んだ。


 正直に話した場合、どうなるか。魔獣みたいな化け物もいるのだし、人形が動くくらいのことは普通なのか。それとも普通じゃないのか。普通じゃなかった場合、村からの扱いがどうなるのか、まったく予想がつかない。魔女狩りのように迫害される危険性すらある。


 結局、キミヒコは今のところは適当にごまかすことに決めた。


「ん、んん……。いや、まあ、なんだと言われましても。私の相棒……みたいな……?」


 ごまかすと決めたはいいが、この土壇場でよい言い訳が浮かぶはずもなく、あやふやなセリフがキミヒコの口をついて出る。


「あ、相棒……? 人間……じゃあないよな? その禍々しい魔力は」


 案の定、突っ込んだ質問が返ってきて、キミヒコはまた悩む羽目になった。


 人間でないのはやはりバレているらしい。だが、禍々しい魔力とはなんだ。そんな魔力がどうとか言われてもわからないんだよ。


 なんと言えばいいのかわからず、キミヒコはホワイトを頼ることにした。この人形に気の利いた対応は期待できないが、猫の手も借りたい状況だった。


「ホワイト。お前は、その、人間じゃないけど……なんだっけ?」


「またこの不毛なやりとりですか……。だから、私は自動人形ですってば」


 自動人形。そういえばホワイトは自身のことをそう言っていたなと、キミヒコは昨日のことを思い出した。


「じ、自動人形だったのか……」


「そ、そう! 自動人形なんですよ。こいつは」


 自動人形という言葉が通じた。ということは、動く人形はホワイト以外にもいるのだろう。これでホワイトのことは説明がつくかもしれない。


「あんた、魔獣使いなのか?」


「え、ええ。まあ、そんなところです」


 魔獣使いなる存在を初めて聞いたキミヒコだが、とりあえずこれも肯定することにした。


 ホワイトを自動人形と認識して、魔獣使いかと聞かれたということは、自動人形とは魔獣の一種として存在する。魔獣使いなる職業、あるいは身分の人間がいる。

 この二点から考えるに、魔獣使いを自称するのは悪くない。ホワイトとの関係は魔獣使いと使役される魔獣の関係。そう言っておけば、違和感がないかもしれない。


「喋る自動人形なんて聞いたことないぞ。……それに自動人形は無機型の魔獣。調教不可能だというが……」


「それは……えー、まあ、なんというか……偶然仲間にできちゃった……みたいな感じ……ですかね?」


 自分は魔獣使いである、そういう設定で通そうとしたキミヒコだが、早速ボロが出た。


 自動人形は喋らないし、魔獣使いに飼われることはない。そういう事実を知らなかったのだから仕方ないことではある。

 しどろもどろになりながら曖昧な説明をするが、当然相手は納得している様子はない。


「それにその魔力……。あんたは普通の人間らしいが、いったいどこから――」


「んんっ! いや、まあいろいろ事情を聞きたいのもわかりますが、そろそろお名前だけでも伺っても……?」


 これ以上はまずい。いったん現状についてホワイトと相談するなりして、落ち着いて考える必要がある。


 とりあえず会話のペースを握るため、キミヒコは会話の流れを強引に切って、自分から話題を振ることにした。


「あ、ああ。それもそうだな、すまない。俺はトマーシュ。このシノーペ村でハンターをやっている」


「ああ、ハンターだったんですね……」


 ハンター。魔獣と呼ばれる化け物どもを退治する狩人たち。

 そんな人間が監視についているのだから、やはりそれなりには警戒されているのだろう。


「それで、あんたは――」


「いやあの、ちょっと、いろいろお話をする前にですね。その、厚かましいとは思うのですが、食事を頂けたらと……。恥ずかしながら、昨日は空腹で倒れてしまったものでして……」


「……」


 更なる追及を自身の厚かましい頼みで有耶無耶にしようとするが、トマーシュと名乗ったハンターは胡乱な目でキミヒコを黙って見つめる。


「いえ! タダでとは言いませんから! ホワイト! あれを出せ、あれを!」


「……あれとは?」


「ほら、あれだ……あの、魔獣から取った……」


「魔石?」


「そうそれ! 金になるんだろ!」


 魔石は金になる。それがどの程度のものかはわからないが、しばらくの宿代と食事代くらいにはなるだろう。


「あ、あんた……それ、その魔石は……」


 ホワイトの懐から取り出された魔石を見るなり、トマーシュは慄いた。


「いえね、森で迷ったときに魔獣に襲われましてね。ホワイトが返り討ちにしてくれたんですよ」


「返り討ち……? ま、まじかよ……」


 キミヒコとの会話のうちに、平静さを取り戻したかのように見えたトマーシュだったが、再び顔を青くする。


「とりあえず、その魔石はお渡しします。トマーシュさんも他の方といろいろ相談したいでしょうし、詳しい話はまたのちほどということでどうでしょう?」


 トマーシュが狼狽えているのを見るや否や、畳みかけるようにキミヒコが捲し立てる。


「え……? あ、ああ、そうだな……」


「それと、とにかく今は空腹なものでして……。食事の手配もお願いします。その魔石が対価で構いませんから」


「わ、わかったが、キミヒコさん。あんたは――」


「あ、すみません。疲れのせいかまた朦朧としてきました。少し横になります」


 厚かましいお願いをしたうえに、有無を言わさずトマーシュに背を向け横になり会話を打ち切るキミヒコ。


 トマーシュはまだなにか言いたげな様子だったが、諦めて部屋を出ていった。


 扉が閉まる音がしてから、しばらくして。


「……ホワイト、監視はどうだ? 聞き耳を立てられている様子はあるか?」


「特にそういったことはありませんね。なんだか平気そうですね。意識が朦朧としてたのでは?」


「方便に決まってるだろ。この状況で呑気に寝てられるかよ。盗み聞きの心配がないなら、これでなんでも相談できるな」


 盗み聞きを警戒してホワイトに問いかけるが、その心配はないらしい。


「これからは、俺が魔獣使いでお前はその手下の魔獣。そういう設定でいくからな」


 トマーシュとの会話の中で、その場しのぎで考えた設定だが、この村ではもうこれで通すとキミヒコは心に決めた。


「そんな設定、要りますか?」


「要る」


 ホワイトの疑問に対して、キミヒコが短く断じる。


「それと、魔獣使いと自動人形について、お前が知っている範囲でいろいろ聞かせろ。あいつが戻ってくる前に設定を補強して、怪しまれないような経歴にするぞ」



『――というわけでね、いったんここに戻って来た』


 トマーシュがハンターギルドらしき建物に入り、先ほどまでのキミヒコとのやりとりを説明した。


『見張りなしで大丈夫なのですか?』


 黙って聞いていた若い女が声をあげる。


『見張りがいようがいまいが関係ないだろ、あんなの。あのホワイトっていう自動人形、あいつはヤバすぎる。その気になれば村ごと皆殺しくらいわけないぜ、ありゃあよ』


 トマーシュが言う。その声には恐怖が滲んでいた。


『そんなにですか? パッと見た感じでは可愛らしい女の子でしたが……』


『魔力感知しなければ、そんなもんだろうな。だが、その可愛らしい女の子だぜ、あのドラゴンを殺ったのはよ』


『俄には信じがたいですが、この魔石は確かにあのドラゴンのもの……ですね。もう一人の青年が仕留めた可能性はないんですか?』


『ないな。あれは素人だ。あっちはあっちで謎が多い感じだがな……』


 若い女の方はホワイトの力に懐疑的らしく、トマーシュとの間に認識の齟齬があるようだった。話題はもう一人の怪しい人物であるキミヒコの方へと移っていく。


『どっかのやんごとない家の人間かね。肌は綺麗だし、服も……妙なデザインだが上等そうな代物だった。俺はそこまで聞き分けられる方じゃないが、神聖言語の発音は妙に滑らかだったぜ。あれは結構、教会に金を積んだんじゃないかな』


『どこかの名家……ですか。まさか、ゾロア家縁の人間じゃ……。この間、王都で分断派の摘発があったと聞きました。もしかしてそれから逃げてきたのでは……』


『どうかな……。ただ、あの顔立ちは王国由来の人間じゃない感じだった。ゾロア家の血筋って雰囲気じゃないと思うが……』


『まあ、顔立ちは確かに……。流民の方であんな感じの顔の人は見たことあります』


 服のデザイン、神聖言語の発音、教会、ゾロア家、分断派の摘発、流民……。キミヒコが現状を考えるうえで参考になりそうな言葉が飛び交う。


『まあいずれにしろ、その……キミヒコさん、でしたっけ? 彼は話が通じるようですし、彼を連れてきた自動人形も制御下に置いている。今は村の危機ですから、彼にも協力をお願いしましょう』


『もう一匹のドラゴンも狩ってもらうのか?』


『ええ。この魔石がオスの方かメスの方かはわかりませんが、ドラゴンをも屠れる戦力です。多少怪しかろうが頼むべきでしょう』


 ドラゴンはもう一匹いて、この村にとっての脅威として存在する。キミヒコたちに宿を用意するなどの待遇は、ホワイトを恐れてのことだけではないらしい。


『あの自動人形の方が、ドラゴンより危険な気もするが』


『そもそも、本当に自動人形なのですか? 喋る自動人形なんて聞いたことがないですが……。それに通常、自動人形は制御できないタイプの魔獣です』


『まあ正直、俺もその辺の判断は悩んでいる。受付さんも一緒に来てもらって判断を――』


 会話の途中で扉を開く音が響き、幾人もの人間の足音が聞こえる。


『すまない、遅くなった』


 年嵩の男の声が聞こえ、そこから場は騒がしくなった。


『食事はあの宿の娘さんに頼んでありま……村長……来れな……あの男……キミヒ……自動に……』


『ですが……危険……』


『そろそ……皆でや……ドラゴンが……』


 キミヒコが横になっているベッドのサイドテーブル。そこに置かれた木製のコップに入った水が幾重も波紋を作りながら、人の声を発していた。

 会話の人数が多くなったため、声が混濁して聞き取り難くなり、キミヒコはいったん聞き取りを中断する。


「……この盗聴は連中にはバレてないな?」


「ハンターには魔力糸の存在はバレてる可能性はあります。盗聴能力までは気が付かれていないと思いますが」


「まあ、話を聞かれていると知っていたら、こんなにペラペラと村の内情を話さないか……」


 トマーシュが部屋から出ていってから、ホワイトから情報の聴取をしていたキミヒコだが、部屋の外のことがホワイトには正確にわかる理由がこれだった。


 魔力糸、ホワイトの体を駆動させている糸。これの能力の応用により、糸を張った周囲の感知や盗聴を行えるとのこと。魔力はその使い手にしか感知できないため、村中に張り巡らした糸は普通の村人には見えないらしい。

 現在はハンターギルドにまで張ってある糸から部屋のコップに繋いでもらって、コップに張った水をスピーカー代わりに、村の内情を探っていた。


「それにしても、あのドラゴン、もう一匹いるのかよ……」


「らしいですね。つがいかなにかでしょうか? この村にも襲撃をかけていたようで」


「ずいぶんとあれに悩まされていたようだな。……俺たちにとっては好都合だ」


 あの化け物がもう一匹いる。その事実はキミヒコの気を重くさせたが、一方で自分たちにとって都合がいい点もあると思っていた。


「好都合? なぜです?」


「あのドラゴンが村の脅威だったらしいからな。ドラゴン退治をした俺は村の恩人ってわけだ」


「ドラゴン退治をした……俺……?」


 ドラゴンを退治したのはホワイトである。キミヒコは傍で腰を抜かしていただけ。にもかかわらず、太々しくもいかにも自分がやりましたと言わんばかりのキミヒコに、さすがのホワイトも耳を疑ったらしかった。


「おいおい、さっき決めた設定を忘れたか? 俺、魔獣使い。お前、使役魔獣。つまりお前の手柄は俺のものと言って差し支えないわけ。わかる?」


「えぇ……。まあいいですけど……。で、我々が村の恩人であるということで、恩着せがましく便宜を図ってもらうと、そういうことですね」


 ドラゴン狩りの手柄云々の話を脇に置いて、村との関係についての話の確認をするホワイト。


「ま、そういうことだ。ついでにまだもう一匹残ってるってのがさらに都合がいい。もう一匹も退治してもらおうとか話してたから、まだ恩を売れる」


「なるほど。では早速、もう一匹も始末しに行きましょう」


「気が早いなお前……。それは状況を見てからだ。もう一匹が村の脅威になってくれている方が待遇はいいだろうからな。なるべく先延ばしにする方がよさそうだ」


 自分たちはしょせん怪しい余所者に過ぎない。ドラゴンがいるうちは待遇がよくとも、用済みとなれば手のひらを返される可能性がある。キミヒコの猜疑心がそれを警戒していた。


「うーむ、いろいろと面倒なことを考えるものですね。まあ、そういったことを考えるのは貴方に任せます。私は貴方の護衛をしてますので、勝手にやってください」


「おう、任せろ。暴力沙汰はお前に一任するからな」


 とりあえずの話を終えて、キミヒコは食事にありつくことにした。ついさっき、この宿の娘らしき人間が暗い顔で食事を運んできてくれていたが、現状確認を優先してキミヒコはまだ手をつけていなかった。


 パンは固いし、スープは味気ない。食事を恵んでもらっているにもかかわらず、そんな贅沢を考えるキミヒコだが、食事のペースは早い。とりあえずの落ち着きを取り戻したことで、急に空腹感が押し寄せてきていた。


「ん、人が近づいてきます。さっきの食事を運んできた娘ではないですね。最初に見張りをしていたハンターとギルドにいた数人です」


 食事を終えて、うとうととしていたキミヒコにホワイトが告げる。


「ああ、とうとう来たか」


 キミヒコに焦りはない。


 ホワイトから聞いた情報と村人の会話の盗み聞き、これらにより自分の立場をある程度掴んでいた。


 ホワイトは特別な自動人形で魔獣使いである自分の使役魔獣。自分は遠くから来た訳ありの流民で過去を詮索してほしくない。

 言うことはこの二点でいい。これで通す。

 余計な詮索をしてくるようなら、ホワイトの暴力とドラゴンの脅威を背景にしたゴリ押しで有耶無耶にする。


 それだけ決めて、キミヒコは村人たちとの会話に臨むことにした。

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