#25 第三国の黒い影

 夜、ビルケナウ市の焼け落ちた廃屋。

 そこの廊下を歩く人影が一つ。帝国軍の裏切り者、パーカーだ。


 パーカーは暗闇に包まれた屋内を淀みなく歩き続ける。諜報員としての技術ゆえか、不思議なことに足音がしない。


「……私だ」


 そんな彼がとある一室の扉の前で、そう呟く。


「入ってくれ」


 しばらくしてから、そんな返事がする。

 聞きなれたその声に、パーカーは安堵の息を吐いてから部屋へと入っていく。


「……そろそろ、脱出しないとまずい。帝国軍は、例のアーティファクトの起動を阻止するための準備に入った。今がいい時期だ」


 部屋中央のダイニングテーブルについている男に、そう声をかける。


「まったく……上の無茶振りと、この国の連中の厚顔ぶりには恐れ入るよ」


 愚痴を呟きながら、パーカーは部屋の中を進んでいく。


 上から振られた仕事をきっちりこなしながらも、ここ数日の状況にパーカーは暗澹たる思いだった。


 長年の苦労により帝国軍に潜り込み、パーカーはその存在を隠しながら諜報活動を続けていた。

 だが、王国軍の情報管理の杜撰さから、その存在が露見。そのため、これ以上の諜報活動は危険と判断し、パーカーは引き上げを決断する。


 憲兵隊の監視が厳しかったので、自分からとわからぬよう幾重にも細工をしながら、メリエスを匿っていたラミーを告発。彼が目眩しになっている間に、軍からの脱走を図ろうとしたのだ。


 メリエスを帝国軍へ渡すことに、パーカーは躊躇しなかった。そもそも、さんざん王国に情報を流して手助けしてやったにもかかわらず、その王国の失態でピンチに陥っているのだ。王家の人間だろうが、もう関係ないと思っていた。

 それに、放っておいても発覚は時間の問題だ。ならば、パーカーの保身のため、役に立ってもらおうという心算だった。


 しかし、ここでとんでもない指令が彼の下へと飛んでくる。メリエスをどうにか帝国軍から逃してやれというのだ。

 どうも王国からの要請らしかった。例のアーティファクト絡みで、なんらかの取引が交わされたのだろう。


 我が身さえ危ない状況なのに、無理に決まってる。そう怒鳴りつけてやりたいのを堪えながらも、パーカーは仕事をこなした。

 相当な無茶をやって、ラミー共々、軍から脱走させてやったが、自身も完全に追われる身となってしまった。


「王国の無能どもめ。どこまでも足を引っ張る奴らだ。情報管理もまともにできないくせに、要求だけは一丁前だな。あんたもそう思うだろ?」


 パーカーが恨み節を続けながら、テーブルに腰掛けるも、対面に座る男からの反応はない。

 椅子に深く腰掛けてうつむいたまま、まるで返事をしなかった。


「……おい、どうした? おい」


 パーカーが不審に思い、席を立って男に近づいていく。そして、数歩進んだところで、察した。


 男は、死んでいる。


 パーカーの呼吸が荒くなり、その額には汗がつたう。


 いったいなぜ。誰に殺されたのか。死んでいたなら、さっきの返事は誰のものだったのか。

 そんなことを考えていると、背後で扉が閉まる音がした。


 ゆっくり、ゆっくりと、パーカーが振り返る。

 そこには、白い人形がドアをその手で押さえるようにして立っていた。金色の瞳が、パーカーを見据えている。


『やあ、少尉。お久しぶりです。私の担当窓口なのに、こんな所に居られるとは……。きちんと仕事はしていただかないと、困りますなぁ』


 朗らかな声が部屋に響く。

 声のした方向。死んだ男の方へと、パーカーは顔を向けた。


 声の発信源は、テーブルの上。水の注がれたコップからしているようだった。


『少尉、こんなボロ屋でどうしたんです? 将軍が探してましたよ?』


 帝国軍に雇われた傭兵。人形遣いと呼ばれる男の声が、コップの水面に波紋を作りながら発せられている。


 ふざけた口調のようで、その言葉には殺意が乗っている。諜報員としての経験が、パーカーにそれを感じさせた。


 パーカーはゆっくりと両手を上げながら、周囲に視線を這わす。

 部屋の中には、同業の男の死体と入口を塞ぐように立つ悪魔の人形。部屋の外、この部屋唯一の窓を見れば、そこにも人影が見える。


 赤髪の暗黒騎士が、楽しくてたまらないといった具合の笑みを浮かべていた。


「どうやってここを……いや、聞いても仕方のないことか」


 パーカーが観念したかのようにつぶやいた。


 この廃屋には、彼の協力者たちがいたのだが、助けは望めそうもない。人形の衣服と部屋の外の暗黒騎士の槍に付着した赤黒い染みが、仲間たちがもうこの世にはいないことを示している。


『さてさてさてさて。パーカー少尉、なにか言いたいこととかありますか? 命乞いとか懺悔とか、ないですかね。情けない感じだとさらに良いです』


「あなたがそんなものを好むとは、驚きだ」


『いえいえ。そういうのが好きなのは私じゃなくて、窓の外の暗黒騎士ですよ。……気付いてるんだろう? サービスしてやれよ。もっとも、その気がなくとも、俺の人形がそうなるようにしてやるがな』


 慇懃な態度から一転、キミヒコの恫喝にパーカーの背筋が震えた。

 ここから一手でも間違えたなら、命はない。それどころか、彼の任務も矜持も尊厳も、全てが踏み躙られるだろう。


「……キミヒコ殿、あなたは、話のわかる方だと聞いている」


 動揺を隠すよう、努めて冷静に、パーカーは声を絞り出しす。


「このまま連れてかれては、私は拷問の末に通信科の連中に頭をいじられて、廃人になってしまう」


『お似合いの末路、と言う他ないな』


「この期に及んで逃げる気はない。この場はあなたの人形だけで十分だろう? ……あなただって、ただの雇われだ。軍に対しては報奨金以上の義理はないはずだし、その動向に興味はあるはず。私が知っていることを話してもいい」


 パーカーの言葉に、コップの水面は揺れることはなかった。


 帝国軍の人間がいない状態で、情報提供をしたい。パーカーのそういう提案を、キミヒコは考慮してくれているようだ。

 窓の外にいる暗黒騎士の女がいなくなったところで、パーカーは逃げることなどできはしない。それはキミヒコにもわかっているのだろう。


『まあ……いいだろう。痛めつける前に喋ってくれるなら、手間が省ける』


 しばしの沈黙の後、キミヒコのそんな言葉がコップの水面を揺らした。

 それを受け、窓の外にいた暗黒騎士は露骨に舌打ちをしてみせてから、姿を消す。


『……で、なんの話だ? 死ぬ前に一服でもしたいのか?』


「私の上司は、騎士ヴァレンタインだ」


 キミヒコの軽口に、パーカーは正直に身の上を明かした。


 騎士ヴァレンタインの名は、人形遣いも知っているはずである。列強の一角、トムリア・ゾロア連合王国において人形遣いが活動していた際に、一時的に協力関係にあったのが騎士ヴァレンタインだ。


『おや……ほお……なるほどねぇ。間諜を忍ばせていたのは、連合王国だったか……』


 キミヒコの反応は平坦なものだったが、かすかな驚きが混じっていることがパーカーにはわかった。


『俺の知る限り、ヴァレンタイン卿は国家警備局……国内向けの公安組織にいたはずだが』


「あなたが協力した分断派摘発での功績で、中央情報局へ栄転された。今は対外諜報組織の元締めのようなものをされている」


『それはそれは、めでたいことだな。あとで祝意の手紙でも送っておかないとな』


 先程までとは異なる、柔らかい口調でキミヒコが言う。


 騎士ヴァレンタインに対して好意的ではあるらしい。上から聞かされていた前情報が正しかったことに、パーカーは内心で息をついた。


『それで? まさかそれだけのことで、俺にお前を見逃せと、そう言っているのか?』


「端的に言えば、そうなる」


『おいおいおいおいおい。ヴァレンタイン卿には世話になったが、それとこれとは別問題だろうが。諜報員のくせに、ずいぶん甘い見積もりだな』


 連合王国や騎士ヴァレンタインに対して悪感情を持っていないようだが、さすがにそれでパーカーを見逃してくれるほどキミヒコは優しくはなかった。


「帝国軍が焦っている理由を、知りたくはないか? どうやら、あなたはラミーからその辺の事情を聞いていないらしいからな」


 そんなキミヒコに対して、パーカーは賭けに出た。


 これまでのキミヒコの反応、そして自己保身の強い彼が、このビルケナウ市から逃げずにまだ留まっている事実。それらから推察するに、彼がまだこの情報を知らない公算は高い。


 だが逆に、状況を完全に把握されていた場合。彼は帝国軍と一蓮托生となるため、全てを知ったうえでこの都市に残っていることになる。

 この場合、どうあってもパーカーの命はない。この可能性は切って、交渉に臨む。


 渡す情報を制限して、どうにか人形遣いに帝国軍への見切りをつけさせる。そうするしか、生き残る道はない。


『御託はいいから、話すことがあるならさっさと言えよ』


「……王国は戦略級のアーティファクトを起動させて、帝国軍を撃滅する気だ。このままだと、あなたも巻き込まれるぞ」


『へえ、そうなの。そりゃすごいっすね。……で、命乞いの妄言はそれで終了か?』


 パーカーの話を、キミヒコは切って捨てる。


 だが、パーカーにはわかった。人形遣いはこの話を完全に与太話と考えているわけではない。本当かもしれないと、頭の隅で考えていると。

 そして、どうやらこの情報についての詳細は知らないらしい。


 諜報員としての経験とそれによる勘が、パーカーにそう推察させた。


「確かにあなたが妄言と言うのもわかる。だが、これは本当のことだ。帝国軍がこの都市を焼き払ってまで侵攻を急ぐのも、ラミーがメリエス姫をここから逃したのもそれが理由だ。ここにいればみんな死ぬからな」


 畳み掛けるように、パーカーが話を続ける。キミヒコはそれを遮ることはなく、黙って聞いていた。


「私はてっきり、あなたはとっくに逃げ出していると思っていた。ラミーは何も言わなかったのか?」


 ラミーは帝国軍の危機について、その立場上、幾らかは知っていたはずである。パーカーも、その全容でないにしろ、ある程度は伝えてもいた。


 あの義理堅い男が、交流のあった人形遣いや暗黒騎士に、何も言わなかったとは考えにくい。

 きっと、警告に近いことはしただろう。それは、この話の信憑性を後押ししてくれるはずである。


『連合王国の目的はなんだ? 帝国と戦う気なのか?』


 キミヒコが話題を変えてきた。

 良い傾向だと、内心でほくそ笑みながらパーカーは口を開く。


「アマルテアにおける帝国の覇権の確立。その阻止が目的だ」


『覇権……か。帝国はそれを狙っているってことか。まあ確かに、このままカイラリィとゴトランタを降せば、アマルテアで敵はないだろうな』


「そうだ。そしてそれを、帝国の政治中枢ではなく軍が狙っている」


 その説明に、キミヒコは「ふぅん」と相槌を打つ。

 パーカーはそれを肯定的なニュアンスだと受け取った。


「武力を背景にした覇権の確立。アマルテア唯一の覇権国家による、新世界秩序の構築。帝国軍参謀本部ではそれを、パックスインペリアーナ構想と呼ぶらしいが……連合王国はそんな秩序を認めはしない」


 帝国軍はすでに政府の制御下になく、勝手な構想を打ち立て、その遂行のために戦争を利用している。

 三つの列強の複雑な思惑が絡み合って発生した現在の大戦争であるが、帝国軍参謀本部の壮大な野望もその一因だ。


 連合王国はそう分析していたし、パーカーもそう思っている。


「キミヒコ殿にもわかるはずだ。帝国軍は強大だが、政治による制御がまるでできていない。狂犬が首輪も付けられずに、野放しになっているようなものだ。……正義がどちらにあると思う? 帝国ではあり得ない。そうだろう?」


 パーカーの言葉に熱がこもる。


『……正義、ね』


「そうだ。帝国を放置しては、アマルテアの秩序は乱され、多くの血が流れるだろう。これは、多くの国々やそこに住む人々のためなんだ。だから――」


『お前の上司はヴァレンタイン卿なんだろ。上司から教わらなかったのか?』


 パーカーの熱弁を遮って、キミヒコがそんなことを問いかけてくる。

 どういう意味かと、パーカーが逡巡している間にコップの水面が波紋を作り、言葉を紡いだ。


『……正義など、この世の中に存在しない。昔、ヴァレンタイン卿はそう言っていた』


 キミヒコの言葉に、パーカーは二の句を継げない。


『お前はラミーを嵌めた。ありもしない、正義とやらに基づいてな』


 続くキミヒコの言葉には、明確な敵意があった。それに当てられ、パーカーの背筋に冷や汗がつたう。


 確かにパーカーは、ラミーを計略の駒として利用していた。昨日今日の話ではなく、昔からのことだ。

 軍学校に潜り込んだ際の、出身地を鼻にかける将校としてのカバーストーリー。それを補強するため、彼の出身を見下すようにさんざん絡んだ。

 そして今回、パーカーは彼の性格を理解したうえで利用した。おそらく死ぬだろうと思っていて、実際にそうなった。


『お前は憲兵隊の捜査から逃れるために、目眩しとしてあの馬鹿を利用した。姫さんを匿っていることを密告して、あいつこそが内通者だと仕立てたかったんだろう? まあ、憲兵隊は引っ掛からなかったらしいがな』


 淡々と、冷たい声色で、キミヒコが言う。


『そうしておきながら、今度は逃がした。なぜだ?』


「……上からの指示だ。メリエス姫を、帝国軍から逃せと」


『それはそれは、ご苦労様。……で、そのために、あの馬鹿を再利用することを思いついたってわけか』


 パーカーは戦慄していた。まさか、この冷酷なエゴイストが、友人のために怒っているとでもいうのだろうか。そんな人物であるとは想定外だった。

 もしそうだとするのなら、非常にまずい状況である。


『お前は俺に、帝国軍とは手を切って逃げた方がいいと言うが、ラミーの言ってたこととどうも違うなぁ。あいつ、俺と帝国軍は、もう一蓮托生だとか言ってたけど?』


 追い討ちをかけるように、人形遣いがそんなことを言う。


『それにテメー、王国に流す情報をあえて制限したな? 空襲の日時は伝えたのに、この都市を焼くことを伝えなかった。なぜだ?』


 キミヒコの問いにパーカーは答えない。答えられない。


 畜生、ラミーめ余計なことを……。それにこいつ、鋭い勘をしてやがる……!


 人形遣いが生き残りを画策するのなら、帝国軍とはもう手を切れない。そしてその理由は、パーカーがこの都市を焼かれるのを見過ごしたことにも関係している。

 王国の民衆に、帝国軍への負の感情を向けさせる。そのために、帝国軍がビルケナウ市を焼くことを、パーカーはあえて情報として流さなかった。


『ダンマリか。まあ、お前の口を割らせるのは、手間がかかりそうだ。……もういいか。俺とミルヒの溜飲を下げるためのサンドバッグになってもらって、それから軍に――』


「ま、待ってくれ!!」


 いよいよまずいという段になって、パーカーは声を上げた。


「ラミーのことは悪かった! だが、彼の死の責任を、私ひとりに求めるのは筋違いだろう!? 彼が自分で選んだこと……いや、帝国軍という組織が、そうさせたんだ!」


『……なるほど。悪いのは、あいつ自身と帝国軍か。まあそれも、事実ではあるかな』


 底冷えするような声で、キミヒコが同調する。 


「そ、そうだろう? あいつ……ラミーは、帝国軍のような組織に順応できる人間じゃなかった」


『組織に順応……。そうか、そうだろうな。あいつ、どう考えても、組織内でうまく立ち回れるような性格してなかったからな。それで、行き着く先が、あのザマか』


 パーカーの必死の抗弁に、キミヒコは独り言を呟くようにして、そう返す。

 その言葉は、どこか遠く、パーカーの知らない所に向けられている。そう感じられた。


 だが、パーカーの言い分に理解はしてくれている。そう信じて、さらに言葉を続けていく。


「そうさ。ラミーは人間関係とか、協調性とか、そういうことへの努力を怠っていた。軍学校時代からそうで――」


『俺って真面目でさぁ、無遅刻無欠席は当然。会社が来いというなら、休日出勤だってやったし、有給休暇中の呼び出しだって応じたよ』


 唐突に始まったキミヒコの自分語りに、パーカーは瞠目した。

 唖然としているパーカーをよそに、キミヒコの語りは続く。


『残業だって毎日やった。残業代はつかなかったがな。上司の野郎が、定時になると勝手にタイムカードを押すからよ』


「いったい、なにを言って……」


『真面目にやってりゃ、いつか報われることもあるんじゃないかって、そう思ってた。……だが、あいつらは俺を嵌めた』


 語られる話の雰囲気が、変調した。

 キミヒコの言葉にはドス黒い意志が込められているのが、パーカーにもわかった。


『やってねえって言ってるのに、俺を犯人と決めつけた。いや、責任を被せられれば誰でもよかったのかもな』


「な、なんのことだ? それがいったい、私に何の関係が――」


『ホワイト、足を折れ』


 その命令と同時、パーカーは床に倒れ伏した。

 瞬時に接近してきた人形の足払いによるものだ。そのまま人形は、倒れたパーカーの右足の脛を踏み潰す。


 パーカーは声にならない悲鳴をあげた。


『テメーは黙って聞いてりゃいいんだよ。お前みたいなやつは存在するだけで、俺をイラつかせるんだ。そんなお前をぶっ殺す機会に恵まれたからさ、せっかくだから、教えてやってるんだよ。お前が、組織だの正義だの、そんなくだらない名目で、足蹴にしてきた連中の恨みが、どんなものかをよ』


「頼む! 許してくれ! 私は仕事で仕方なく――」


『もう片方もやれ』


 無慈悲な命令に、人形は黙って従う。その小さな足が、今度はパーカーの左足の膝に添えられ、そのまま力が込められた。骨が砕け、ひしゃげる音がする。


 絶叫が部屋に響いた。


 それを聞きつけたのか、部屋の窓が外から乱暴に開けられる。


「ちょっとちょっとちょっとちょっと! 私は!? 私を放置してなにやってんの!?」


 窓の外から暗黒騎士がそんなことを言ってくる。その顔には不平不満の色が見て取れた。


『……ミルヒか。ああ、うん。そうだな。もう聞くこともないし、好きにしていいよ』


「殺っていい? もう殺っていいの?」


『好きにしろよ』


 軽い調子で語られる、あまりに冷酷な会話に、パーカーは顔を引き攣らせた。


「ま、待って、待ってくれ! 私を殺すのか!? 私を――」


「うるさいよ」


 窓から侵入し、近くまで来ていた暗黒騎士が、パーカーの頭に蹴りを入れる。パーカーの視界が揺れ、赤く染まった。


「将軍からは生かして連れてこいって話だったけど、もういいよね?」


『だから、いいっての。偶然会って、つい殺っちゃったとか言っときゃいいだろ』


「やったぜ、イェーイ!」


 頭上で繰り広げられるふざけたやりとりに、パーカーは絶望の表情を浮かべる。

 それを見て、暗黒騎士の女はその口元を歪めて笑った。

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