生まれ変わったハイスぺ美少女お嬢様は、いつの間にか学園の女の子たちを堕としていた。

しゅん@ものづくりファンタジー執筆中

プロローグ 入学式


「ほられい! そんなにちんたらしていると遅れちゃうわよ!」


「姉ちゃん、そんなに慌ててると危ないよ。というかどこに行くの?」


「ふっふっふ! それはついてからのお楽しみ~♪」


 今日は僕が受けた大学の合格発表日だった。


 今時大学の合格発表なんてわざわざ現地の掲載を見に行かなくともインターネットで確認できるというのに、この姉ときたら「それじゃあ合格した実感が湧かないでしょ!」なんて言ってこうして連れ出されている。


 結果が合格だったからよかったものの、もしも不合格だったらどうしてくれたものか。


 周りが合格者ばかりで、自分だけ不合格だった時のいたたまれなさも考えて欲しいものだ。


 まぁでも、こうしてまるで自分のことのように喜んでくれる姉ちゃんの姿を見せられると「まぁいっか」って思っちゃうんだけど。


 僕の腕を引っ張ってグイグイと進んでいく姉ちゃん。今年でもう二十歳でお酒も飲める年齢になったというのに、相変わらずどこか子供っぽいところがある。


 大学の合格発表を見終わって、どうやらそのお祝いにどこかに連れて行ってくれるらしい。


 姉ちゃんはよく僕をこうしていつもどこかに連れて行ってくれる。


 それは海だったり、山だったりの場所だったこともあるし、ピアノや合気道や習字や水泳などの習い事だったこともある。


 とにかくいつも僕のことを振り回して、何をするにしても巻き込んでくる困った姉ちゃんなんだ。


 僕ももう大学生になるんだし、いい加減姉ちゃんには弟離れをしてほしいんだけど。


 それにしても、大学生かぁ‥‥‥。


 大学生。人生の夏休みとも言われるそれはいったいどんな生活なのか。


 サークル活動やゼミとか、夢のキャンパスライフを想えば今から待ち遠しい。もちろん、勉強もするけどね。


 それに僕には大学生になってやりたいことというか、目標がある。


 それは、女の子にモテることっ!


 今まで生きて来た18年間。僕は一度も彼女ができたことがない。


 別に出会いが無かったわけじゃないし、自分で言うのもなんだけど、客観的に見て致命的に不細工であることもないと思う。


 性格だって良い子ではないと思うけど、人には優しく接してきたはずだ。


 じゃあ、何が原因なのか?


 色々と考えてみたけれど、一つだけ有力な情報をたまたま聞けたことがある。


 それはクラスの女子グループが話していたことなんだけど、どうやら『クラスの男子で付き合うなら?』みたいなトークをしていたらしい。


 その時に、クラスの男子の一人であった僕の話になった時に誰かが言っていたんだ。


『澪くんって、あの子は女の子枠じゃん』と。


 自分でも思った以上にショックだった‥‥‥。まさか、そもそも男として見られていなかったとは。


 でも、言われて思い返してみれば、思い当たる節もいくつかあった。


 例えば姉ちゃんの友達が家に遊びに来た時に、姉ちゃんの服を着させられた僕のことを「可愛い~可愛い~」なんて言ってやけに撫でまわしてきたり。


 プールに行った時とかにも更衣室に向かったら、係員の人に止められて「ここは男子更衣室ですよ」って何故か注意されたり。


 どれもこれも、僕のことを男として見られていなかったわけだ。


 そりゃあ確かに女子からすれば、ナヨナヨしてる男なんかよりは、こう頼りがいがあって男らしい漢の方がイイのかもしれない。


 けれどもうこれからは女の子っぽいなんて言わせない!


 大学生になったからには、僕は自分の中の男を磨いて磨いて磨いて、誰もが認めるような男の中の男! キングオブ男子になってやる!


 そして、キャンパスで女子からキャーキャー言われるくらいにモテてやるんだ!


 そうやって決意を新たにしていた時だった。


 プゥ~~~~ッ! という、大きなクラクションが鳴り響いて、自分が今、交差点のど真ん中にいることに気が付いた。


 僕も考え事をしていて不注意だったけど、姉ちゃんもさっきまでの様子からテンションが上がっていて気が付かなかったに違いない。だから慌てると危ないって言ったのに。


 少し先には結構なスピードでこっちに向かって来る一台の車。運転手の若い男の愕然とした表情が妙に鮮明に見えた。


 だんだんと引き延ばされる時間の中で、自分の中の冷静な部分が数瞬先の未来を見ている。


 この後きっと、僕は死ぬんだろう。


 でもそれは、僕だけじゃない。このままだと今もこうして手を引いてくれている姉ちゃんも‥‥‥。


 そう思った瞬間、僕は自然と次の行動に移っていた。


 もしかしたら姉ちゃんも僕と同じようなことを思ったのかもしれない。さっきまで引かれていた腕を突き飛ばすように押してくる。


 このまま姉ちゃんに身を任せていれば、僕は車の車線から逃れて助かることができるはずだ。


 でも、それは僕だけだろう。このままじゃ姉ちゃんが犠牲になるに違いない。そんなのはダメだ。僕は男で、姉ちゃんは女の子なんだから。女の子は男が守らないと。だから‥‥‥。


 僕は押された反動に合わせて姉ちゃんの腕を引くと、そのまま流れるように姉ちゃんと自分の位置を入れ替えた。


 そして姉ちゃんが僕にやったのと同じように車に轢かれない外に押し出す。


 こんなことが咄嗟にできたのは、姉ちゃんが合気道や柔道に連れて行ってくれたからだろう。


 当時はちょっぴりめんどくさいななんて思っていたけど、こうして役に立ったのなら行ってよかった。


 目を見開いてびっくりした表情をしている姉ちゃんを見つめながら、色々と連れ出してくれたことに対して感謝を想う。言葉で伝える時間がないのが惜しいけど。


 女の子にモテる夢は叶わなかったけど、僕は最後に精一杯の男気を見せられただろうか? もしそうだったらいいな。


 そんなことを思いながら、横から来た身体ごと置いて行かれそうな衝撃に、僕の意識は吹っ飛ばされたのだった。




 ■■




 私立藤ノ花学園。


 その学校は日本で最も格式が高く、最も豪華で煌びやかな学校だと言われている。


 藤ノ花学園の歴史は長く、かつて貴族や華族といった特権階級の子息子女を教育する機関として設立された由緒正しい名門校だ。


 貴族制が廃止された今でもなお、財閥の御曹司や政治家の子供といった富豪名家に生まれ、将来の日本を背負っていくであろう人材が多く修学している。


 元々は女子だけが通えるお嬢様学校だったのだが、少子化による生徒数の減少の影響により同じように名家が通う男子校と合併し共学となり、最近では一般外部生として成績優秀者も入学できるようになった。


 そのおかげかどうかはわからないが、良くも悪くも特別な学校だと敬遠されていた藤ノ花学園は昔よりは親しみやすく、一般の私立高校といった雰囲気に校風も徐々に変わってきている。


 それでもやはり、藤ノ花学園に通う生徒たちの実家を全て合わせると日本を動かしている政治家や企業の著名人が揃っている光景を見れば、この学校がいかにすごいところだということを嫌でも感じるだろう。


 今日はそんな藤ノ花学園高等科の入学式。


 やたらと広い講堂で新入生とその保護者たちが静かに座って次のプログラムに進むのを待っている。


 かくゆう僕も、クラスの子たちとは少し離れた教員たちが並ぶ席のほうに座って、ジッと縮こまっていた。


 なぜなら次のプログラムは‥‥‥。


『続いて、新入生代表の言葉。新入生代表、近衛澪さん』


 ——来た。


「は、はいっ!」


 響き渡るソプラノボイス。やっと慣れてきた自分の声。


 うっ‥‥‥若干上ずっちゃったけど、ちゃんと返事ができたかな?


 そんなことを思いながら、席を立って壇上の上に向かう。


 ——あぁもう! 壇上まで遠い! なんか僕のことすっごく見られてる気がするし、「ほぉ‥‥‥」とか「へぇ‥‥‥」とか「オッフ‥‥‥」とかいろんなところからため息みたいのが聞こえるんだけど! そんなに見苦しいならこっち見るな!


 というかやっぱりスカートが短い~っ! 制服のプリーツスカートってこんなに無防備なの? 歩くたびにヒラヒラして落ち着かないんだけど! これ、階段上る時に後ろから丸見えとかないよね!?


 そんな風に頭をぐるぐるさせながら、僕はスカートが翻らないように気を付けてゆっくりと壇上に登り、演台に置いてあるマイクの前に立つ。


 その間もボクの一挙手一投足がジッと見つめられているのをひしひしと感じた。


 前を向けば、ずらりと並んだ新入生たちと在校生たち。元は女子高だった名残か、若干女子生徒の方が多いと思う。


 その後ろには新入生たちの保護者たちが座っており、そこにボクの両親の姿も見えた。というか、なんか二人ともめちゃくちゃ泣いてる。僕まだ何もしゃべってないのに。


 相変わらずの親バカな様子にちょっと心配になるけど、僕の緊張も少しは解けた気がする。


 お礼に手を振ってあげたいけど、そんなことをするわけにはいかないから、そっと目配せするだけで許して欲しい。


「ふぅ‥‥‥」


 さぁ、それじゃあやるか!


 マイクの電源を入れて、小さく息を吸う。


「新入生代表の言葉。新入生代表、近衛澪。温かな春の訪れと共に——」


 昨日覚えた言葉を口にしながら思う。


 和泉澪いずみ れい改め、近衛澪このえ みお


 今の僕は女の子っぽい男じゃない。正真正銘、生物学的に女になってる。たった一本の染色体がXになってしまっている。


 しかも、もう少しで大学生だったはずなのに少し若返って高校生に戻ってしまった。


 あの時車に轢かれて死んだと思ったのに、本当にどうしてこうなったのか。


 漏れそうになるため息をそっと押し殺して、僕はこの身体になったときのことを思い出していた。



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