第53話 あるぇ? なかよ‥‥‥く?
身体測定・体力テストをした次の日の昼休み、僕は意を決して九条さんに声をかける。
「九条さん、一緒にお昼を食べませんか?」
まだ作法教室には行っていないけど、身体測定の時みたくサンドウィッチとか、作法があまり関係ないものを食べれば大丈夫だろう。
それに昨日の終わりごろにはちゃんと仲良くなれたはずだ。だからお昼ご飯に誘っても無下にはされないはず‥‥‥。
「え? 何で?」
「‥‥‥え」
あるぇ? なんだろうこの冷たい感じ。いつも通りと言えばいつも通りだけど‥‥‥うん? 昨日、僕たち仲良くなった、よね?
「え、えっと、せっかく九条さんと仲良くなれましたし、昨日みたいにみんなで一緒にと思いまして‥‥‥」
「別に仲良くなってないけど」
「‥‥‥がーん」
「そもそも食事は静かにするのが好きだから、あんたらとは食べない」
「‥‥‥」
「じゃ」
そう言って静かに立ち上がると、九条さんは教室を出て行った。その姿を茫然と立ち尽くして見送る僕。
嘘でしょ‥‥‥。まさか僕の勘違いだったなんて。もしかして、昨日九条さんがおんぶしてくれたのはまやかしだった? 僕の妄想? 家に帰ってからもずっと一人ベットでピョンピョン舞い上がってたのがバカみたいなんですが‥‥‥。
なんというか、今の僕を一言で表すなら‥‥‥。
「哀れですね、澪さま」
「そう、哀れ‥‥‥って、紗夜! どうして僕は振られたんですか!?」
「そんなの、澪さまがあんぽんたんだからです」
「紗夜まであんぽんたんって言う!」
今日の紗夜は辛辣である。かりにもメイドなら主人に対して哀れとかあんぽんたんとか言うのはどうなのか。
紗夜はどうやら昨日のことをまだ怒ってるみたいで、今日はいつにもまして無表情だ。そしてひとときも僕から目を離さない。それこそ授業中もで、紗夜は一番前の席なのにずっと後ろの僕の方を向いてるのはどうかと思うぞ。
まぁ、僕も悪かったと思ってるけどさ。
昨日、九条さんに無理をするなと言われて保健室に連れていかれた僕だけど、流石にずっと保健室いるのはいくら九条さんが誤魔化してくれると言ってもみんなに心配かけてしまうため、少し休んだら戻ることにした。
けれど一番誤魔化したいと思っていた紗夜にはすぐにバレてしまったらしい。しかも幼馴染としての勘か、僕が隠そうとしていたことまでも。
紗夜は九条さんが戻った後にすぐに保健室にやってきて、それはもう怒られた。
どうして私に隠そうとするのか。私は澪さまのメイドなのに。私はまだ頼りないままですか。
なんてことを涙ながらに言われたら、いくら心配をかけたくなかったとか、紗夜は大袈裟に捉えるからとかっていう言い訳があっても、反省せざる得ない。
その後は、本気でドクターヘリを呼ぼうとする紗夜に僕が散々謝って、宥めすかして、説得して抑えてもらい、体調もすぐに良くなったから麗華たちのもとへ戻ったのだけど、紗夜からはずっと厳しく監視されている。
それこそどんな些細な変化でも見逃さない勢いだ。正直、居心地が悪い。
「紗夜、流石にずっと見られてるのは気になります。昨日みたいなことがまたあったら今度はちゃんと紗夜にも言いますから、そろそろ監視を解いてくれませんか?」
「ダメです。澪さまは信用できません。すぐに我慢してしますから」
ぬぐぅ‥‥‥。そう言われると僕は何も言えないけどさ。
「‥‥‥ならせめて、普通にしてくれませんか? どうしてビデオカメラを回してるの?」
そう、紗夜はただ目視で見てくるのではなく、何故かビデオカメラ片手に僕を監視してくる。まるでストーカー盗撮魔のように、どこまでも。
「イヤです。これは私があとで澪さま観察日記に‥‥‥じゃなかった。今日の澪さまと明日の澪さまの些細な変化も見逃さないために必要なことです。あ、ちょっとローアングルで失礼します。‥‥‥おぉ、絶対領域!」
‥‥‥いや、本当に必要なことなの? それ。
でも、紗夜には昨日の負い目があるから強く言えない。紗夜が変なのは元からだし、好きにさせるしかないか。
はぁ、とため息をついていると、麗華と美琴ちゃんがやってきた。
「澪さま、お昼を食べに行きましょう!」
「美琴も一緒がいいです」
「もちろんです。さっそく行きましょうか」
ということで、結局いつものメンバーで昼食をとることに。ただ、この二人ともちょっと顔を合わせずらいんだよね。なぜなら‥‥‥。
「それにしても澪さま、まさか昨日は体力テストの傍らでUFOと戦っていたなんて思いませんでしたわ! 流石澪さまです!」
「美琴もびっくりしました。澪ちゃんには人には言えない使命があるんですよね。美琴も澪ちゃんを支えられるように頑張らないと‥‥‥」
「あはは‥‥‥」
そう、九条さんが二人にどんな誤魔化しかたをしたのかは知らないけれど、なんか戻ったらそういうことになってた。
どうやら僕は知らないうちに、人には言えない使命を持っていて、UFOと戦ってたらしい。‥‥‥意味が分からない。
そして、それに納得してる二人もどうなんだ‥‥‥。
でも実際、僕の心臓のことはバレてないし、昨日少しだけ無理したことも気づかれてない。だからこれでいい‥‥‥のか?
僕は、乾笑いしながら二人の会話に合わせるしかなかった。
■■
閑話 輝夜の誤魔化し
(あいつらに何て言って誤魔化そう? あ、UFOだ!みたいに適当でいいかな)
「輝夜さま、澪さまはどうされたのですか? なんだか覚束ない足取りのような気がしましたわ‥‥‥」
「あ~、あいつなら大丈夫。実は宇宙からここを侵略しにUFOが来てたんだけど、あいつは体力テストをしながら撃退していたから。それで疲れが出たんでしょ」
「ま、まさかそんなことが‥‥‥。澪さまと輝夜さまが言うなら、そうなんですわね!」
(え、本気で今のでいけるの? こいつ、ちょろすぎるでしょ‥‥‥)
「そ、そんな‥‥‥でも澪ちゃん、胸を抑えて苦しそうでした。ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「え~っと‥‥‥そう、あいつは人には言えない秘密の使命を胸に抱えてるんだよ。だから、あんたも支えあげて」
「人には言えない使命‥‥‥。も、もちろんです! 澪ちゃんの為なら、美琴にできることならなんでも!」
(‥‥‥こいつら、本当に大丈夫か。まぁ、あいつの心臓のこととかは誤魔化せたっぽいし、これでいっか)
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