第54話 部活動


「そういえば澪さま、部活動は何にするか決めましたか?」


 ビュッフェ様式にも慣れてきて、みんなそれぞれ料理を持っていつもの窓際の席に着くと、麗華がそんな話題を出してきた。


「部活ですか‥‥‥」


 確か、今朝のホームルームで部活のパンフレットみたいのを渡されたな。


 藤ノ花学園は、一応原則として何かしらの部活動に入部することは必須とされている。


 だからかどうかはわからないけど、藤ノ花学園の部活は数多く、係委員会の時のように意味不明なものも多かった。部活を作る条件が部員数五人以上、兼部も可っていうゆる~い条件だということもあるかもしれない。


 かくゆう僕も部活には興味がある。れいの時は放課後は姉ちゃんに付き合うことが多かったから部活に入る暇なんて無かったからね。


 パラパラとパンフレットを見た限りだと、『宝くじ当選確率特定部』とか『呪術部』とか『温泉発掘部』なんてものもあった。


 なんというか‥‥‥お金を持て余した貴族の享楽といった感じがすっごいする。


 もちろんそんなゲテモノだけじゃなくて、正統派な部活もある。野球部とかサッカー部とか。


 ただ、運動部でもやはりここは高貴な身分の生徒たちが通うからか、そういう暑苦しい体育会系!といった部活よりも、『ゴルフ部』や『クリケット部』、『テニス部』といった、英国生まれのスポーツ階級の高い部活が好まれるみたい。


 特に最近では近代五種に含まれる『フェンシング部』、『水泳部』、『馬術部』、『射撃部』、『陸上部』が運動部の中で人気らしい。


 なんとなくその傾向は分かる。近代五種はヨーロッパの方では王族や貴族のスポーツって呼ばれてるみたいだし、近代五種の選手はキング・オブ・スポーツって言われるくらい高い人気を誇るみたいだから。


 日本全体で言えばまだまだ競技人口は少ないのだろうけど、藤ノ花学園に通うような身分の生徒たちからすれば関心がある競技なんだろう。


 文化部の方だと『茶道部』や『華道部』、あとは『社交部』や『クラシック部』といった、それこそいかにも貴族な部活が人気らしい。


 ただまぁ、この学校に通う大半の人は幼い頃から貴族の嗜みといった感じで習わされてる人が多いからか、そんなに入部する人は多くないみたい。


 そして更に、そんな人気部活を抑えて新入部員獲得数が毎年一位の部活がある。それは‥‥‥。


「やはり、近衛家である澪さまは忙しいでしょうし帰宅部ですか?」


 そう、この藤ノ花学園。しっかりと名義された『帰宅部』があるのだ。しかもそれが毎年新入部員獲得数一位を誇るみたい。


 パンフレットを開いたときに、一番最初に堂々と乗っているその部活名を見た時、「いいのかそれで!?」って叫びそうになった。


 当然だけど部活のするもの部費だなんだと多額のお金がかかるのだから、年に一度は活動実績を上げなくては部活の存続は認められない。


 にもかかわらず、『帰宅部』はちゃんと活動実績もあげて、しかも二学期にある文化祭での出し物は名物になるほど人気なのだとか。


 活動実績の方も意外としっかりとしていて、実は学校前ロータリーの使用ルールを”暗黙の身分順”から”迎車が来た順”に変えてスムーズな下校を促すようにしたのは『帰宅部』の成果らしい。


 風邪の噂では更なる速やかな帰宅を目指して、国土交通省に掛け合い道を作るのだとか‥‥‥。


 なんかもう凄いよな。そこに帰宅の執念を感じるよ。そりゃあ学園も部として認めるしかないわ。しかも所属してるのが堂上家の者が多いっていうのもあるんだろう。


 それも分かる。僕も近衛家という最上位格の一員だから、会食だ習い事だと割と忙しい。


 それでも僕は退院してからまだ一年だし、無理せず慎重にってことであまり予定は詰められてないから余裕があるけど、ほかの人は本当に忙しいんだろう。


 というか僕のメイドである紗夜はともかく、ここにいるのはその忙しいはずの清華家の二人なんだから、実は僕よりも忙しいんじゃないのか?


「僕は放課後は実はそれほど忙しくないので、帰宅部じゃなくても大丈夫ですよ。麗華と美琴ちゃんの方こそ帰宅部に入るべきでは?」


「わたくしは澪さまと同じ部活に入ろうと思ってましたわ。お父さまにも好きに選んでいいと言われておりますし。なんでも学園でのコミュニティーも大事にしなさいとのことですわ」


「美琴も澪ちゃんと一緒がいいな。う、運動は苦手だけど澪ちゃんと一緒なら、どこでも頑張れる気がするから」


 う~ん、そう言ってくれるのは嬉しいけど、なんか責任重大じゃない? 紗夜はなにも言わないけど、どうせ僕と同じところに入るだろうし。


「とりあえず、まだ僕もどんな部活があるのか全て把握してませんし、パンフレットを見てみましょうか。ちょっと教室に取りに行ってきます」


「それには及びません。こんなこともあろうかと、パンフレットはここに」


 僕が立ち上がろうとすると、それをとどめて紗夜がスカートからパンフレットを取り出した。


 おぉ‥‥‥。どこにいれてんねんっていうことはともかく、紗夜が久しぶりに優秀だ。


 紗夜から受け取ったパンフレットをみんなも見やすいようにテーブルの真ん中に置いてひらく。さてさて、なんか面白そうなのはあるかな。


 最初は人気部活がまとめられたページで、さっき話題に出た帰宅部や五大部活の紹介が載っている。


「帰宅部ではないとしたらやはり五大部活のどれかでしょうか? 澪さまは体力テストも凄かったですし」


「う~ん、正直運動部は少し遠慮したいですね」


 体型や体力の維持のため、ある程度の運動はしているけど、もともとの僕はどちらかというと家でゲームをやっていたいインドア派だし。それに楽しくやるのはいいけど、競争心を燃やすようなガチなやつはちょっと苦手。


 そもそも、あまり激しそうなものにするとドクターストップならぬ、紗夜のメイドストップがかかる。昨日の今日でまた心配はかけたくない。


「ならば文化部ですわね」


 麗華がパンフレットのページをめくって文化部の一覧をひらく。まるで名簿のようにずらっと綴られている部活・サークル名に目がチカチカした。


「相変わらず数が多いですわね‥‥‥」


「や、闇鍋って言われてるもんね‥‥‥」


 そこまでか‥‥‥。いや、そこまでだな。今チラッと見えたやつも意味わからんもん。なんじゃい『しゃぶしゃ部』って、ダジャレか!


 それからみんなで顔を突き合わせてあーでもないこーでもないと話し合う。


 こういう時、意外と情報通なのが紗夜で、どこから仕入れて来た情報なのか、ヤバそうな部活のことはしっかりと教えてくれる。


「う~ん、本当に数が多いですね。一応、気になる部活は見つけましたけど」


「それならせっかくですし、いくつか見学してみませんか? わたくしもちょっと見てみたいところがあるので」


「み、美琴も行ってみたいところが」


「私はどこでも澪さまについて行くのでかまいません」


「なら今日の放課後はみんなで気になる文化部の部活見学に行きましょう!」


「「「はい!」」」

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