第62話 課題その2
「澪さま、わたくしが自転車にしっかり乗れるようになったら一緒にサイクリングにいきましょう!」
「いいですね! 楽しみにしておきます」
「み、美琴も! もっと練習して一人で乗れるように頑張るね!」
「はい! でも、無理して怪我をしないようにしてくださいね?」
「柚葉さま、サドルを買い取らせて頂きたいのですが」
「うん~? 紗夜ちゃん、サドルが欲しいの~? 私に言わなくてもお店に行けば売ってると思うけど~」
「いえ、澪さまが座ったサドルが欲しいのです。あ、でも決してやましい気持ちではありません。イスとかならともかく、サドルは簡単に盗めてしまうでしょう? もしも澪さまが座ったことが知れ渡れば、それを我が物にして澪さまのお尻の感触を間接的に感じようとする不届き者が現れてもおかしくありません。それを事前に防いでおきたいのです。そう、これは澪さまを守るために私がやらくてはいけないんです」
「お、おぉ、なんかやけに早口だね~? そんなに欲しいなら別に譲ってもいいけれど~‥‥‥」
「本当ですか! ありがとうございます」
あれから自転車の練習をある程度やった僕たちは、柚葉さんに連れられてとある場所に向かっている。
自転車の練習はやっぱり麗華が一番上達が早くて、もうほとんど一人で乗っても大丈夫になった。初めての自転車だったはずだけど、思いのほか楽しかったのか上機嫌にサイクリングに誘ってくれるし。
美琴ちゃんも頑張っていて、一人でなら真っすぐ進めるようになった。まだちょっと危なっかしい場面もあるからあまり無理して欲しくないけど、これからも練習するときは近くで見守っていよう。
紗夜は‥‥‥いや、僕は何も聞いてない。相手にするのは疲れる。柚葉さんはもっと警戒心をもって! そいつはHENTAIだよ! サドルは紗夜に回収される前に変えておこう。
それにしてもこれはどこに向かっているんだろう? もう結構歩いてきたし、そろそろ隣町に入るんだけど。
周りを見てみると街並みがガラっと変わっており、あまり馴染みがないだろう景色に麗華たちは興味深そうにキョロキョロしている。
藤ノ花学園がある街や近衛家の本邸がある街は高級住宅ばかりで絢爛な街並みだからね。こういった普通の街というか、たくさんの家が軒を連ねる住宅街を歩くことはほとんどないだろうからかな。
「柚葉お姉ちゃん、これはどこに向かってるのですか?」
「ふっふ~、麗華ちゃんたちはまず行かないところだよ~。そこを右に曲がったらすぐのところにあるんけど」
「‥‥‥あっ」
それを聞いて僕は柚葉さんが何処に連れて行こうとしてるのか分かってしまった。確かにみんなが来るような場所じゃない。
でも大丈夫か? 今更だけどここらへん雑路とか多いし、治安が悪いわけじゃないけど、立場が立場だけに誘拐とかの危険も‥‥‥。
と、思ったけど、意識してみれば近くに護衛らしき人たちの気配がある。
流石に庶民部のルールで家の力は使わないってあっても限度があるか。これなら安心、かな?
それでも一応、僕も注意しておこう。何かがあったときはみんなのすぐ傍にいる僕のほうが早く対処できるし、これでも一通りの護身術は姉さんに叩き込まれてるから、そこらへんの暴漢くらいなら返り討ちにできるしね。
そんなことを思いながら柚葉さんの示した道を曲がると、見えてきたのはアーケード商店街だ。晩御飯の買い出しらしき主婦の御婦人方や、学校帰りなのか他校の生徒で賑やかしてる。
「お待たせしました~! 目的地はあそこ、商店街よ~!」
パッと腕を向けて意気揚々と紹介してくれる柚葉さん。
みんなも初めて来る場所だからか「お~~!」と、興奮したように声をあげた。とりあえず僕も初めて来た風を装っておこう。
近衛家の令嬢が実は頻繁に来てます。なんてバレたら品位を疑われるかもしれない。それに紗夜にバレたら怒られそうだし。
もしかしたら商店街の人に気づかれるかもだけど、今はいつもここに来る時とは服装も髪型も違うし、大丈夫だろう。たぶん。
「そしてここで課題2です! あそこにいる人たちのように、世間一般の学生というのは放課後にこういった場所で買い食いをするの~。ということで、みんなで買い食いをしてみよ~!」
「なるほど! 確かにアニメでも、よく帰りに寄り道して買い食いをするシーンもありましたわ!」
「こ、こんなところ来たの初めてきたけど、大丈夫かな‥‥‥?」
「‥‥‥。澪さま、すました顔してますけど、どうかしましたか?」
「な、なんのことでしょう? わ、わぁ~、コロッケ食べたいなぁ~」
「‥‥‥へぇー、コロッケがあるんですか?」
「‥‥‥」
はしゃぎ気味の柚葉さん。楽しそうな麗華。心配そうな美琴ちゃん。紗夜は何か言いたげな目で見てくるけど、知らんぷり知らんぷり。
「それじゃあさっそく行きましょ~! はぐれないようにお姉さんについて来てね!」
そう言って柚葉さんが先導して商店街へ歩き始める。
みんなもついて行って商店街に足を踏み入れると、どこからともなく僕たちに視線が集まるのを肌で感じた。
「ねぇ、見てあれ。あれって藤ノ花の制服じゃない?」
「ほんとだ! ってことは、本物のお嬢さまってことじゃん!」
「すっげーかわいい子いるじゃん! お前も見て見ろよ! って、おーい?」
「‥‥‥っ」
「お前、ガン見しすぎじゃん」
二度見、三度見は当たり前。老若男女問わず、僕たちは滅茶苦茶目立っていた。中にはこっちを向きすぎて電柱に突っ込んでる人もいるくらいだ。ちゃんと前見なさい。
藤ノ花学園といえばここらでは特別な学校っていう認識は当たり前だし、そこの生徒が商店街に来ることなんて滅多に無いから珍しいのだろう。
それになにより、みんなそんじゃそこらでは会えないほどの美少女だからなぁ。しょうがないとは思うし、気持ちは分かるけどさ。
しかし、そんな視線などみんなは慣れっこなのか、特に気にすることなく奥へずんずん進んでいく。
みんなもうちょっと危機感を持ってほしいなぁ。たぶん僕だけでなく、近くにいるだろう護衛の人も同じ気持ちのはずだよ。お疲れ様です。
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