第61話 みんなの練習
僕が自転車を乗り終わった後、今度はみんなの練習を手伝うことになった。
「そのまま漕いで~漕いで~。今から離しますけど、焦らないで真っすぐ進めば大丈夫ですから」
「はいっ! 行きますわ!」
宣言どおり、僕は押していた台車から手を放す。
すると、少々ふらつきつつも、麗華の乗った自転車はそのまま進んで行って、行けるギリギリのところで止まった。
「澪さまぁ~~! ここまで来れましたわぁ~~!」
「おめでとぉ~っ!」
「うむ、麗華ちゃんはさすがね」
遠くの方でピョンピョンと手を振ってくる麗華に手を振り返す。白ヘルメットからはみ出たツインテールも嬉しそうに跳ねている。犬かな?
そのままもう一度自転車にまたがると、今度はこっち側に向かって一人で進み始めた。
「麗華、前! 下じゃなくて前を向いてください!」
ちょっと危なしかったのでアドバイスを送ると、麗華はその通りにしてスムーズに戻ってくる。
やがて僕たちの目の前で止まると、ヘルメットを脱いで満面の笑みを見せてくれた。
「澪さま、一人で乗れましたわ!」
「お疲れ様です。麗華は呑み込みが早いですね」
「澪さまの師事が上手いからですわ! それにわたくしは徳大寺麗華! 自転車くらい乗りこなしてみせましてよ! お~っほっほっほ!」
「うむ、その意気や良し!」
自転車が乗れるようになってきたのが相当嬉しいのか、胸を張っていつもの高笑いをあげる麗華。
実際言ったことに嘘はなく、麗華は思い切りの良さとアドバイスを忠実にこなす素直さがよかったのか、結構あっという間に乗ることができるようになった。麗華、美琴ちゃん、紗夜のなかで一番上達が早い。
ちなみに、さっきから相打ちを入れてくるのは僕の後ろで後方師匠面をしている柚葉さんだ。僕の方が教えるのが上手いからと言われて、完全に丸投げされてる。柚葉さんが部長なのに。まぁ、いいけれど。
乗り手を交代し、続いては美琴ちゃんがサドルに跨る。
「美琴ちゃんは漕ぐときに身体に力が入りすぎです。もっとリラックスして流れるようにペダルを漕ぐといいですよ」
「う、うん! 頑張るね!」
「台車を押した方がいいですか?」
「お願いしてもいい‥‥‥?」
「任せてください」
後ろに回って両手で台座を掴む。「いつでもいいですよ」と伝えると、美琴ちゃんは恐る恐るといった感じで漕ぎだした。
ただ、その勢いはゆっくりとしたもので、ハンドルもプルプルしておりこのままだと‥‥‥。
「きゃっ!」
「——っと!」
——フニュン
バランスを崩して倒れかけた美琴ちゃんを咄嗟に抱き留める。
その際、美琴ちゃんの豊満なおっぺぇが押し付けられる形になっちゃったけど、僕はわるくないよねぇ?
「はわわっ! 澪ちゃんごめん!」
「大丈夫ですよ。怪我はないですか?」
「う、うん。澪ちゃんが抱き留めてくれたから」
「それならよかった。僕の目の前で美琴ちゃんに怪我なんてさせられないからね」
「澪ちゃん‥‥‥」
「美琴ちゃん‥‥‥」
「うむ、これが二人の世界」
見つめ合う僕たち。お互いに自然と引き寄せ合うように顔を近づけて‥‥‥。
「ごほん! あの! いつまでそうしてるんですか! 次は私ですから西園寺さまはさっさと終わらせてください!」
僕と美琴ちゃんの間に紗夜がピシャリと割り込んできた。
「くっ、また邪魔しましたね鷹司さま」
「な~にが邪魔ですか! どさくさに紛れて澪さまにふしだらなことをしないでください」
「ど、どの口が言ってるんですか!」
「私はいーんですー。澪さまのメイドですからー」
「それを言ったら私だって澪ちゃんの——」
がみがみがやがや。ぐぬぬぬ、むむむむ。
まーたこの二人の言い合いが始まってしまった。もう慣れたものだけど、巨乳と貧乳、そんなに相性が悪いのだろうか。ヒートアップすると、だいたい紗夜が野性に還ることになるからそろそろ止めようか。
「こらこら二人とも、そこまでにして練習に戻りましょ」
僕がそう声をかけると、二人は「「ふんっ!」」と顔を背け合って言い合いをやめる。
改めて、美琴ちゃんの練習を再開しようとし、そういえばとあることに思い立った。ギアだ。
「美琴ちゃん、ちょっと失礼」
「ひゃっ! み、澪ちゃん!?」
ギアを確認しようと思って、自転車を支えながら後ろから覗き込む。ちょっと美琴ちゃんの耳をくすぐるようになっちゃうけど許してね。
「あぁ~、やっぱり。重いままでしたね」
「んぅ‥‥‥こえ‥‥‥」
「少しガタッてなりますけど、壊れたわけじゃないから気にしないで」
「は、はいぃ‥‥‥」
なんだか首をすぼめて縮こまってる美琴ちゃん。心なしか耳も赤い。そのままギアを変えると、自転車の振動と共に、すぐ視界の下にある美琴ちゃんの胸も震えた気がした。
「はい、これでさっきより楽に走れるはずですから、もう一回漕いでみてください」
「わ、わかりましたぁ‥‥‥」
そして、さっきと同じように始めると、ペダルが軽くなったからか危なげなく進めるようになった。僕が支えつつだけど、確実に乗れるようになっている。
「わぁ! 澪ちゃん! 美琴、乗れてる!」
「いい感じ! これならもう手を放しても大丈夫かな?」
「へっ!? そ、それはまだ待って! み、美琴一人じゃ怖い‥‥‥」
うっ、そんなか細く言われたら、心配でいつまでも放せなくなっちゃうよ。でも、可愛い子には旅をさせよっていうし、自転車も思い切りが結構大事。ここはいくら美琴ちゃんでも心を鬼にして‥‥‥。
「み、澪ちゃん、一緒にいて‥‥‥」
「いつまでもっ!」
こんなに可愛く、庇護欲を掻き立てられるように言われちゃあ仕方ない。うん、仕方ない。美琴ちゃんが可愛いのがいけないんだ。
そのまま僕が押しながらロータリーを一周して次は紗夜の番になる。
実は紗夜、メイド修行の時に自転車の練習をしたことがあるらしい。
なら、この三人の中で一番うまいのか? と、言われてもそうじゃない。
どうもその時は全く乗れなかったらしい。柚葉さんが自転車を乗ってきた時に渋い顔をしたのはその時があったからだ。
実は馬も乗れる紗夜なのに自転車が乗れないとはどうなんだろうって思うけど、本人曰く「擦れて感じちゃうんです」らしい。
まぁ、まったく上達しない原因はそれ以外にもあると思うんだけど‥‥‥。
「澪さま、もう一度お手本を見せてもらってもいいですか?」
「‥‥‥? いいですけど」
「あ、じゃあお姉さんが見せてあげるよ!」
「いえ、澪さまでお願いします」
「‥‥‥。|ω-`*)シュン」
よくわからないけど、お手本を見せてほしいと言われたので再びロータリーを一周してみた。
「これでいいですか?」
「はい。ありがとうございます。捗ります」
‥‥‥え、なにが?
「はぁはぁ‥‥‥澪さまのお尻の温もり‥‥‥」
「おいっ!」
こいつ、なんてHENTAIなんだ‥‥‥。サドルに頬ずりしてやがる。
こんなことばっかりやってるから全然練習が進まないんだよ。
「はぁ‥‥‥。ほら、へんなことしてないでさっさと乗ってください」
「仕方ないですね。よいしょ‥‥‥ぁっ、んっ」
「ちょっと、変な声出さないでくださいよ!」
「仕方ないじゃないですか。サドルがこんなエッチなかたちしているのが悪いんです」
「サドルのせいにしない!」
「それにさっきまで澪さまが乗ってて‥‥‥まるで澪さまに馬乗りしてるみたいです。ぐへへへ」
「‥‥‥落そうかな」
紗夜に飽きれながらも、先の二人と同じように台車を支えて押してあげる。
うん。ペダルを漕ぐたびに聞こえる小さな嬌声が気になるけど、乗馬できるだけあって筋は悪くない。ちゃんと練習すればすぐにでも乗れるようになるはず。‥‥‥ちゃんと練習すればね。
「わぁー澪さまこけるー」
「わざと! 絶対わざとだよね! こら、どさくさに紛れて抱き着いてくるな!」
「え、自転車に乗れば合法で澪さまに抱き着けるって聞いたんですけど」
「言ってないから!」
あぁ~~~! 練習が進まん!
「うふふ、相変わらず二人は仲好さんだねぇ~」
柚葉さんも見てないで手伝ってよ!
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