第78話 【初投稿】ごきげんよう!お嬢様だけどYouTuberはじめます!

 数日後の放課後。


 今日は初撮影をする日だけど、打ち合わせした日から少し日が開いてしまった。


 なるべく早く実績を作らなきゃいけないし、本当は打ち合わせした次の日くらいから活動を始めたほうがよかったのだろうけど、僕たちは毎日部活をしているわけじゃない。


 YouTuberになろうとしてる僕たちだけどこれでも良家のお嬢様たち。麗華も美琴ちゃんも柚葉さんもみんな習い事や家の用事なんかで忙しいわけで放課後にまとまった時間を取るのが難しい。僕だってたまにお父様に頼まれて会食に出向くこともある。


 まぁ、麗華なんかはちょくちょく部室にやって来ては機材のセッティングなんかをやっていたりしていたみたいだけど、ともかく全員揃って撮影時間が十分取れるのが今日だったわけだ。


 職員室に用事が合ったので少し遅れて部室に行くとすでにみんなは集まっていた。


「すみません、少し遅れました」


「お~、澪ちゃん。お疲れ様~」


「柚葉さん、お疲れ様です」


 学年が違うため今日初めて会う柚葉さんに挨拶をして部屋の中を見回すと、麗華と美琴ちゃんがテキパキと機材のセッティングをしていて前回と部屋の雰囲気が随分と変わっていた。


 無骨な三脚と照明用の大きめのLEDライト、ノイズを入らなくするポップガードを付けたマイクに美麗な動画が撮れる一眼レフのカメラ。


 撮影時のスタジオにするため家具も移動されていて、ちょうどカメラの正面にソファとカーペットが配置されている。


「ここだけ見ればもうすっかり立派な収録現場ですね」


 なんというか、ちょっとガチすぎて今更ながら気後れしてきたかも‥‥‥。


 スマホで動画撮るくらいだったら緊張はしないけど、こんなに本格的な機材を前にするとプロ意識を刺激されるというか、ちゃんとした動画を撮らなきゃっていうプレッシャーを感じる。


「澪さま、機材のセッティングにはもう少し時間がかかるようですので、ここに座っていましょう」


「わかりました」


「今、お茶を入れますね」


「ありがとう」


 紗夜に言われてソファの真ん中に座ると、紗夜はそう言ってキッチンにお湯を沸かしに行った。


 多分、僕が緊張してるのに気が付いて、それをほぐすために紅茶を入れてくれるんだろう。こういうところはできたメイドさんだ。


 紅茶を飲みながら麗華と美琴ちゃんがケーブル等を繋げていくのを眺める。


 麗華は経験者だから分かるけど、以外にも美琴ちゃんもこういうことに慣れているみたいだ。


 西園寺家は主にIT関係の企業がまとまってるグループだから、美琴ちゃんもパソコン操作はお手のものなんだろう。さっきからタイピングとかめっちゃ早いし。


 ちょうど紅茶一杯分を飲み終えたところで機材のセッティングが完了した。


「二人とも、お疲れ様です」


「澪ちゃん、お待たせしました」


「さっそく撮影を始めましょう!」


「おぉ~! できたの~?」


 麗華がそう言うと、僕の隣に柚葉さんが座り、前のカーペットには麗華と美琴ちゃんが、紗夜はソファの傍に控えるように立った。まるでそこが撮影の定位置のように。


「‥‥‥」


 いや、え? そんないきなり!?


「あの、麗華? 始める前に打ち合わせなどは?」


「はい? それなら前にやりましたわ」


 確かに、軽い打ち合わせみたいのはこの前したけど‥‥‥。


「そうじゃなくて、もっと詳しい内容とか」


「澪さま、こういう動画はリハーサルをガッツリしました感が無い方が良いですわ!」


「そう、なんですか‥‥‥?」


 経験者である麗華がそう言うならそうなんだろうか? まぁ、ダメそうなところは後で編集とかでカットとかできるんだろうけど。


 でも、その前にもうちょっと心の準備を‥‥‥。


「それではさっそく、撮影開始ですわ! ぽちっとな!」


 しかしそんな暇もなく、こうして唐突に僕たちの初撮影は始まった。



 ■■



【初投稿】ごきげんよう!お嬢様だけどYouTuberはじめます!



「麗らかな放課後にごきげんよう~」


「「「ごきげんよう!」」」


「ご、ごきげんよう‥‥‥?」


「庶民に憧れるお嬢様の放課後チャンネルにようこそ~、藤ノ花学園庶民部の柚葉だよ~! それから~?」


「麗華ですわ!」


「み、美琴です」


「紗夜です」


「え、え? 澪です?」


「今日から私たちがお嬢様だけどYouTubeチャンネルを始めることになりました~!」


「「「わぁ~~~っ!!」」」


「わ、わ~?」


「ということでさっそく始まったわけだけど、最初だしもう少しみんなのことを知ってもらうためにそれぞれ自己紹介しましょうか~」


「ならばわたくしから!」


「それじゃあ麗華ちゃんからよろしくね~」


「はいですわ! 皆さま、ごきげんよう! 楽しく! 元気に! と~くだ~い~じ~! でお馴染みの徳大寺家が次女、企画担当の徳大寺麗華ですわ! 次、美琴!」


「ふぇっ!? う、うぅ~‥‥‥麗華ちゃん、本当にやるの?」


「美琴、こういうのは思い切りが大事なんですわ! 皆様もちゃんとノリますから」


「うぅ~、わかったよぅ。すぅ~‥‥‥——ずん! ずんずん♪ ずんどこっ!」


「「「み・こ・と ッ!!」」」「え、え?」


「~~っ// 麗華ちゃん、やっぱりこれ恥ずかしいって!」


「堂々とするんですわ! それよりほら、自己紹介をしてくださいまし!」


「あっ、えとえと! さ、西園寺美琴と申します。へ、編集担当です。えとえと、あとは‥‥‥つ、次どうぞ」


「まったく西園寺美琴は情けないですね。やると決めたのなら最後までやり切るべきですよ」


「そ、そう言うなら紗夜さんはできるんですよね?」


「もちろんです。可愛さ二割増しでできますが?」


「じゃあ、やって見せてください」


「いいでしょう。こほんっ‥‥‥お帰りなさいませっ! ご主人様っ♡ お嬢様っ♡ きゃるる~ん♡ メイド担当の鷹司紗夜ですっ♡ で~も、お世話するのは澪さまだけだぞっ♡ よろしくねっ♡」


「「「「‥‥‥」」」」


「ふっ、どうですか? 以前、麗華さんに教わったことを元に更に完璧に仕上げました。これなら澪さまもメロメロに‥‥‥」


「いや、やっぱり声だけ萌え萌えでも無表情だと逆に怖いんですけど」


「えっ‥‥‥」


「ま、まぁまぁ、それじゃあ次はお姉ちゃんの番ね~? いくよ~、画面の先のみんな~、こ~んにちわ~! み~んなのお姉ちゃんで部長担当の三条柚葉だよ~! 柚お姉ちゃんって呼んでね~!」


「「「柚お姉ちゃん!」」」「‥‥‥っ」


「そしてそして~、最後に満を持しての登場! その美貌はまさに~‥‥‥よっ! シューティングスター!」


「ミルキーウェイ!」麗華


「レインボーテイル!」美琴


「ティンクルダスト!」紗夜


「ビッグバン!」柚葉


「メテオォォォ!!!」澪


「「「「おぉ~!」」」」


「いやいや、おぉ~じゃないですよ! さっきからのこれなんですか!? ここまでの流れのこと何も聞かされてないですけど!? さっきリハーサルとかガッツリやってない感がいいって言ってましたけど、絶対僕がいない間に打ち合わせしてましたよね!?」


「ちっちっち! 澪さま、これは澪さまにYouTuberとしての資質があるかどうかを見定めていましたの!」


「YouTuberとしての資質?」


「はい! YouTuberとしての資質とは、突発的なことが起きた時、それをどう対処するかということですわ!」


「そう、なんですか?」


「そうなんですわ! そしてこの対応力というのは令嬢としても求められる要素の一つ、やはり完璧な令嬢である澪さまにはぷよぷよ~んの連鎖ボイスなど簡単でしたわね! 御見それしましたわ!」


「はぁ? 連鎖ボイスは関係ないんじゃ‥‥‥」


「まぁまぁ、澪ちゃん。試したのはごめんなさい~。でも、せっかくだからYouTuberっぽくドッキリしてみよ~ってなってね? 許してくれないかな~?」


「う~ん、まぁそういうことでしたら」


「「「ちょろいっ!」」」


「——っ!?」


「ありがと~! それじゃあ、改めて澪ちゃんの自己紹介をしてくれるかな~?」


「‥‥‥。はぁ、わかりました。あ、でも、皆さんみたいに特別なやつは何も考えてませんよ?」


「それなら大丈夫ですわ! 澪さまの分も考えておきましたの!」


「そう、なんですか?」


「そうなんですわ! ということで皆さま、いきますわよ!」


「‥‥‥」


「——ひと目見れば誰をも魅了するその美貌」麗華


「——濡羽色の髪は輝くように、紫紺の瞳はすべてを見透かす」美琴


「——眉目秀麗、傾国傾城、羞花閉月、焼肉定食、寿司三昧」紗夜


「——この言葉は全て彼女のために用意された言葉であるけれど、実際には言葉などでは言い表せない。そんな彼女の名は‥‥‥」柚葉


「どうも、近衛澪です。——ってなるか! 持ち上げすぎ! 持ち上げすぎだから! あとなんか僕が言わせてるみたいだしこれじゃあただの痛い人じゃん!」


「えぇ~、結構いいと思いましたのに」


「というか紗夜の最後の四字熟語にいたってはどうしたの!? 四字熟語じゃなくて料理名じゃん!」


「澪さまは焼き肉とお寿司が好きですので」


「いや好きだけど! 前の言葉には合わないよ! 美琴ちゃんも柚葉さんも超真面目な顔で何言ってるんですか!」


「えへへ、澪ちゃんに喜んで貰おうと思って」


「まぁまぁ~、間違ってないんだしこれでいいと思うわ~」


「そう言われると何も言えないし、やっぱり持ち上げすぎだと思うんだけど‥‥‥。はぁ~、もう普通に自己紹介します。この世界で一番有名な近衛家の近衛澪です。よろしくお願いします」


「‥‥‥謙遜してる割には澪さまもなかなかの大言壮語だと思います」


「紗夜、何か言いましたか?」


「いえ何も?」


「それじゃ~自己紹介も終わったし、この後はこのチャンネルの趣旨とこれからやりたい動画なんかについて話しましょうか~」


「そうですわね! わたくしたちが庶民部としてYouTubeチャンネルを立ち上げた理由、それは美琴のトップバストよりも高く、谷間よりも深い訳があるのですわ!」


「うひゃっ!? れ、麗華ちゃんっ!?」


「部長の私から説明しますね~。実は、お姉ちゃんたち庶民部は~——」



 ■■



「それでは、また次の放課後にお会いしましょ~。ごきげんよう」


「「「「ごきげんよう!」」」」


 初撮影を終えて一息つく。


 なんだかんだ一時間以上に及んだ撮影だけど、初めてにしては面白くできたんじゃないかな?


 まぁ、それはそれとして‥‥‥ね?


「‥‥‥皆さん? 少し、O・HA・NA・SI、しましょうか?」


「「「「ひぃっ!?」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る