第33話 クラスの女王


「澪さまより栄誉ある学級委員を任せて頂けることになった徳大寺麗華ですわ! 早速ですが、まずは書記係から決めたいと思いますわ。どなたか澪さまの為に筆を執る者は挙手なさい!」


 学級委員が麗華に決まったので、さっそく仕事ということで先生から係委員会決めの進行を引き継いでいる。


 なんだか言い回しに違和感を覚えるけど、やっぱり麗華はこういうことには向いているようですぐに書記係の担当を決めてしまった。


 というか随分慣れてる様子。もしかしなくても麗華は中等科の時に学級委員をやったことがあるんじゃないか? 徳大寺家は清華家なんだから十分あり得るな。


 書記係の子が綺麗な文字で電子黒板に委員会名や係名を書いている間にも、麗華の進行力で簡単なものからどんどん決まっていく。


 僕はどうしようか‥‥‥。正直、どんな役職があるのかもよくわかってないんだけど。


 そりゃあ、図書委員とか体育委員とか保健委員とか体育祭、文化祭実行委員とか名前だけでどんなことをするのか分かりやすいものもある。係も各教科係とか掲示係とか号令係とか、そういうのならいい。


 けれどここは色々と特殊な藤ノ花学園だ。普通の学校では見ないような委員会や係がある。


 例えば、社交会主催委員会。なんとなく何をするのかは分かりそうだけど、初めて聞く委員会だ。なんだか初心者には敷居が高そう。


 それから検非違使委員会。検非違使といったら平安時代にあった不法を検察する役割だったはずだから、たぶん風紀委員みたいなものじゃないかと思う。なんで名前を変えないんだろ? 


 そんで草履温め係なんかは意味不明だ。マジで何するのさ、今の時代に草履を履いてる人なんていないだろうに。


 あとはさっきみたいな家格のこともある。僕が下手なところに入るとほかの人に迷惑をかけることになるだろうし、あんまりな役職になると僕自身じゃなくて家とかも侮られそうだ。


 見たところたぶんだけど、係の仕事は家格が地下家の子、委員会は家格が堂上家の子みたいな感じで選ばれてる気がするし。


 教科係だったらその教科の配布物とか宿題とかを集めるだけだろうから楽で無難だろうと思って選ぼうとしてたけど、多分僕がやっちゃダメなんだろうな。


 そしてそこら辺の事情は流石は麗華というか、あのお嬢様のことだ。きっとこのクラスの家格とかをしっかりと覚えているんだろう、完璧な手腕を発揮している。


「それでは数学係は熊谷さんにお任せしますわ! 次は草履温め係ですが‥‥‥そうですわね、幸徳寺さんはいかが?」


「私などがいいのですか!?」


「もちろんですわ! 幸徳寺さんなら温かそうですもの。澪さまのためにその温もりを存分に使いなさいな!」


「分かりました! 徳大寺さまがそうおっしゃるなら、引き受けさせていただきます!」


「それでは、任せましたわ! 次は——」


 と、こんな感じに麗華は家格やその人の人となりや適正を見て、任せられそうな人に積極的に声をかけてる。


 家格だけで選ぶなら自己紹介の時に苗字を聞いたから何とかなるかもしれないけど、流石に性格とかは把握しきれてないから僕にはあんなことはできなかった。やっぱり学級委員は麗華に任せて正解だったな。


 これなら僕も下手に立候補なんてしないで麗華に任せた方がいいかもしれない。


 そして幸徳寺さんに決まった草履温め係は本当に何をするんだ‥‥‥。また麗華が僕のためにとか言ってるけど、僕は草履なんて持ってないぞ。


 そんなことを思いながら、僕はもう完全に麗華に任せるつもりでこの時間を過ごすことにした。


 紗夜や美琴ちゃんは何を選ぶんだろう? 


 紗夜は基本的になんでもできるから、どこにいってもそつなくこなせそうだけど、無表情ガールで他人に淡泊な性格だから人間関係で苦労しそうだ。でも検非違使委員会だっけ? たぶん風紀委員にならそういうのはメリットになりそう。


 美琴ちゃんはイメージ的には図書委員とか保健委員とかが似合いそう。図書委員だったら雰囲気が大人しいから静かな図書館にはぴったりだし、保健委員だったら怪我をして保健室に行った時に天使パワーで気力まで回復しそうだ。


 あ、でもそうなると、どっちも美琴ちゃん狙いの有象無象が増えそうだな‥‥‥。図書館と保健室に意味もなく来る野郎とか絶対現れるに決まってる。美琴ちゃん可愛いから。


 それはなんか複雑。控えめな美琴ちゃんは押しに弱そうだし、無理やりな人がいたら僕が守らないと!


 隣の九条さんはどうだろう? 正直、どこ行っても浮く未来しか見えない‥‥‥。


 いかにも風紀とは真反対を行く九条さんが風紀委員なんてしないだろうし、図書委員も保健委員もねぇ? 怪我してる人を保健室に連れて行くんじゃなくて、逆に保健室送りにしそうだ。実際はそんなことしないだろうけど。


「澪さま! 長らくお待たせしましたが、皆の役職が決まりましたわ!」


 みんな何にするんだろうかと考えていたら、いつの間にか係委員会決めは終わったらしい。


 麗華がツインテールをパタパタさせて嬉しそうにこっちに駆けよってくる。


「お疲れ様です。やはり麗華に任せて正解でしたね」


「澪さまにそう言っていただけてとても光栄ですわ!」


「それで、僕はなんの役職になりましたか?」


 僕的には選挙管理委員会とかは穴場だと思ってるんだけど。


 まぁ麗華に任せたのは僕だし、どんなものでも引き受けたからには精一杯がんばるぞ! そんな気持ちで聞いたのだけど‥‥‥。


「はい! 将軍、組長、CEO、校長、理事長、私の主、理想のお姉さま、秘密の恋人、名前を呼んではいけないあの人、天皇、天竜人‥‥‥etcなど、たくさんの候補が上がったのですが‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥は?」


「ここはやはり”女王”が相応しいということになりましたわ!」


「‥‥‥‥‥‥は?」


 ナニヲイテルノデスカ‥‥‥?


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