第57話 占術部

「必殺技道場部、なかなか面白い部活でしたわ!」


「まぁ、確かにロマンはありましたね。気に入ったなら入部するんですか?」


「いえ、澪さまが入るならともかく、わたくしだけなら入りませんわ」


「そうですか?」


「澪さまと一緒がいいですもの!」


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、無理に付き合わないで自分の入りたいところに入部していいんだよ?


 そう伝えたけど、麗華は本当に僕と同じ部活に入るつもりらしく、ニコニコと「澪さまと一緒ですわ!」って言われてしまった。


 麗華がそれでいいなら僕は何も言わん。僕も麗華と一緒だと嬉しいしね。


 マンガ・アニメ必殺技道場部を出た僕たちは次なる部活を目指して移動していた。次は美琴ちゃんが見てみたい部活だ。


 ちなみにあのシーン通りの返事をした後、部長さんもまた乗って来て、「部員にならないなら‥‥‥」と言って術式展開をしてきた。そのままちょっとだけ鬼滅ごっこをして楽しんだ。


 姉ちゃんがジャンプマンガは好きだったからね。僕も有名どころのやつはちゃんと履修してる。麗華もそういうのは嗜んでるみたいだったから楽しそうだった。


 ただ、あんまり興味ないのか美琴ちゃんと紗夜はちょっとつまらなかったかもしれないね。ちょっと申し訳ない。


 そう思っていると、僕たちを案内していた美琴ちゃんが足を止めた。


「ここですか?」


「うん! み、澪ちゃんはこういうの興味ある?」


「う~ん、あまりやったことないですね。でも面白そうです。美琴ちゃんは好きなんですか?」


「美琴は朝のニュースで見てくることが日課だから。あ、あとはちょっとだけ自分で勉強したりしてて」


「確かに、美琴は昔からそういう本とかよく読んでましたわね!」


 へぇー、そうだったのか。美琴ちゃんとあんまり趣味の話とかしてなかったから知らなかった。でも美琴ちゃんは目隠れだし、ちょっと雰囲気があるかもしれない。


 改めて部室のドアに掲げられたプレートを見る。


『占術部』


 つまりは占い部みたいだ。れいの時もあまり興味はなかったけど、姉ちゃんも一時期はドはまりしてたっけ。やっぱり女の子はこういうの好きなのかな?


「そ、それじゃあ開けますね!」


 早速とばかりにドアを開ける美琴ちゃん。


「し、失礼します」


「あら、これは西園寺様。それに近衛様、鷹司様。徳大寺様まで、ようこそ占術部にいらっしゃいました」


 美琴ちゃんが代表して声を上げると、僕たちに気づいたメガネをかけた女生徒がすぐに駆け寄ってくれる。


「私は占術部の部長、土御門芽衣つちみかど めいです」


 そう言って土御門さんは丁寧にお辞儀をする。


 にしてもなるほど、土御門家か。この家の歴史はかなり古くて、かつては陰陽道に精通していたという。確かに占いとかも得意そう。


「それでどういったご用でしょう? 恋愛運ですか? 金運ですか? それ以外にも温泉が湧き出る位置なども占えますよ」


 お、温泉っ!? そんなこともわかるの? 凄いな占い!


 僕が驚いていると、美琴ちゃんがおずおずといった様子で要件を告げる。


「あ、あの、部活見学をさせてもらいたくて‥‥‥」


「なるほど。もちろん構いません。歓迎いたします」


 土御門さんに案内されて部室の奥へと通される。


 さっき行ったマンガ・アニメ必殺技道場よりは小さいものの、結構大きい活動をしているのか教室二個分くらいの広さだ。


 そこには占いをする場所なのか、垂れ幕で区切られたいくつかの個室があり、壁はいくつものタペストリーが飾ってあった。


 天上には月や星などのインテリアが吊るされてクルクル回っていて、いくつかある棚には水晶やタロットカード、ペンデュラムといった占いで使うだろう道具が置かれている。


 他にもパワーストーンや不思議な模様をした壺など、薄暗い部屋の雰囲気も相まって、いかにも占いの館って感じがする。


 僕はこれでも近衛家のお嬢様。宝石や壺といった美術品は家に結構あり、たくさん見る機会がある。それに近衛家の品位を保つために買わなくてはいけないこともあるため、そういったものの良しあしを見定める勉強もしてきた。


 ふむふむ、あのプラスチックのような透明感。きっと宝石の中でも純度が高い希少なものかな。壺のほうもあの模様はどことなく見覚えがあるし、有名な職人の一品か?


「お、おお~! 占いの館みたいだね、麗華ちゃん」


「確かに雰囲気がありますわね!」


「そうでしょうそうでしょう。まぁ、ぶっちゃけますとあの石はクレーンゲームなんかでたまにとれる下敷きの石ですし、あの壺は部員の一人が蟲毒の壺を作ろうとして失敗してできたやつですけど」


「‥‥‥‥‥‥っ」


「澪さま、お顔が赤いですが大丈夫ですか?」


「わ、わかってたし!」


「‥‥‥?」


 紗夜に指摘されて、かぁ~っと顔が熱くなるのを感じる。


 薄暗いからばれないと思ったけど、紗夜は夜目が効くことを忘れてた‥‥‥。


 くっ! やっぱり僕は所詮エセお嬢様なのか‥‥‥。


 というか、その事実を知ったせいで、途端にこのミステリアスな雰囲気がチープなものに感じてきたんだが。大丈夫かな?


 僕がそんなことを思っていると、赤い長イスに勧められて、テーブルを挟んで反対側に座った土御門さんがさっそく部活の説明を始めてくれる。


「改めて、占術部へようこそ。占術部は主に占い全般の勉強や練習、研究をしたりして占いができるようになり、占いの造詣を深めることが活動内容です。一人前にできるようになったら占いに来た生徒の相手をしたり、町の商店街にある『占いの館 藤ノ花学園占術部 出張所』に出向いて一般のお客を占うこともしてますね」


「出張所‥‥‥?」


「はい。近衛様たちは商店街に馴染みがないかもしれませんが、うちの占いの館はよくあたると評判で結構人気があります。あとはインターネットで占いのウェブサイトを運営してますが、そっちも少し話題です」


 ほえ~。それは知らなかった。というか、かなり本格的だ。これ、ただ占いが好きってだけの人とか、ちょっと面白そうとか思ってきた初心者にはハードルが高いんじゃない?


 そう思ったのは僕だけじゃなかったみたいで、ここに来たいと言っていた美琴ちゃんも若干表情が引きつってる。


 そんな様子の僕たちに気づいたのか、土御門さんは安心させるように微笑んだ。


「心配しなくても大丈夫ですよ。最初はみんな軽い気持ちで入部しますから。なんなら『モテたい』『金儲けがしたい』『僕は新世界の神となる』なんて理由の人もいました」


 わぁお。すっごい欲望に忠実。というか最後の奴やべえ人だろ! ‥‥‥え? 持ってるの!? あのノート!?


「そんなわけで、現在は部員32名で活動してます」


「あ、結構多いんですね」


「今は私しかいませんが、ほかの人は出張所に行ったり営業で訪問占いに行ってます」


 ‥‥‥ん? また部活には似つかわしくない単語が聞こえたような‥‥‥。


「え、営業、ですか?」


「えぇ。占いは何かとお金がかかりまして。特に風水についての研究や占星術の儀式などは出費が激しく、学園から支給される部費だけだと足りないんです」


 なるほど? まぁ、確かに風水って色んなアイテムがあるから、本格的に集めるとなるとお金がかかりそう。儀式はよくわからないけど、供物とか買うのかな?


「ですので、たまに飛び込み占いをしに行って、結果次第ではパワーストーンや壺の売り込みを少々。この時期は新社会人や新入生といった新生活を始める人が多くて、稼ぎ時なんですよねぇ‥‥‥ふぇっふぇっふぇ」


「「「「‥‥‥」」」」


 え、待ってそれって詐g‥‥‥。


「おっと、失礼しました。今後のことを考えてつい笑みが。そうです! せっかくなので皆さんも占ってみましょう。私の占いはよく当たるので期待してくださいな。ふふふ‥‥‥」


「「「「‥‥‥」」」」


 ‥‥‥どうしよう。帰りたい。

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