第18話 恋文!? 危険!?


 今日は週末だ。明日は学校が始まって初めての休日になる。だからこそ昨日に引き続き今日こそは九条さんをお昼に誘おうと、僕は送迎の車の中で気合いを入れていた。


 麗華のおかげで僕に対するクラスの雰囲気は軟化して、初日の時よりは受け入れてもらえたと思うけど、ただ相変わらず九条さんだけは打ち解けられてない。


 そもそもそれは僕だけに限った話じゃなくて、九条さんを観察していたけれど、そもそも九条さんもクラスで浮いているような感じだった。というか完全に恐れられてる。


 僕の場合は初対面の人も多かったからか、どうやって接したらいいかわからないが半分、近衛家の家柄に委縮してる人が半分って感じだったけど、九条さんの場合は九条家の威光というのもあるかもしれないけど、九条さんその人を恐れてる人がとても多い。


 例えば、九条さんが席を立つと僕の前の人や九条さんの前の人がビクッと肩を震わせる。九条さんと目があった人は「ひぃ~っ」って言って大体逃げる。極め付きは九条さんがいるときは誰も後ろのドアを使わない。


 九条さんは完全にクラスのアンタッチャブルな存在になってると言っても過言じゃないだろう。


 まぁ、僕もみんなの気持ちがわからないわけではないよ? ただでさえ近衛家に並ぶ最上位の家格を持つ九条家な上に、見た目が完璧に金髪ギャルだもんね。


 まだ学園の人を全員見たわけじゃないからわからないけど、たぶん制服を着崩したり、ピアスなどの装飾品を付けてる人は九条さんだけだと思う。


 加えて九条さん自身も常につんけんしてて、言動もぶっきらぼうというか、庶民な僕だから別に気にならないけど、基本丁寧に話す人が多い学園だと九条さんは色々と異質なんだろうな。


 あとは、日本人的感覚からすると北欧系の血が入ってそうな九条さんの顔立ちは、結構迫力があって凄まれると怖い。


 そんなわけで九条さんは高等科が始まって早々完全にボッチだ。


 九条さんはそのことについて気にしてませんよ~って感じで済ました顔をしてるけど、そんなわきゃない。一人っていうのは自分でも思っている以上に寂しいものだ。


 僕だって入院中はあの広い病室にずっと一人だったんだから。その気持ちは十分によくわかる。


 だからこそ、僕が九条さんの友達にならないと!


 最初はただ隣の席になったからみたいな漠然とした気持ちだったけど、今では九条さんの立場を知ってますますその気持ちが強くなってる。というか九条さんの友達になれるのは僕しかいないんだ!


 同じ最上位の家同士っていうのもあるし、学園では異質でも九条さんの個性を僕は受け入れられる。まさにベストマッチってやつだろう。


「澪さま、そろそろ到着しますので準備してください」


「わかりました」


 紗夜に言われて準備をする。準備って言っても僕はほとんどすることない。車に乗ったことで乱れた制服の撚れとかしわとかは紗夜が整えてくれるし、髪もやってれる。精々カバンを忘れないように気を付けるくらいだ。


 こういう時、紗夜はパッパッパと手際よくやってくれるから、優秀なメイドなことがよく分かる。


「どうぞ、澪さま」


「ありがとう」


 紗夜が開けてくれたドアを潜って車から降りる。少し離れて振り返れば、すぐに車はロータリーを出て行った。朝はこのあと続々と送迎の車がやってくるから混雑しないようにすぐに出て行くのがこの学園のルールだ。


 そんなに混雑するほど車が来るのか? と疑問に思うかもしれないけど、その通り。


 もう何度も言ったけど、この学園に通う生徒はみんな大なり小なり偉い人や金持ちの家の子がほとんど。そんな子たちがのんびり歩いて登校なんかすると、身代金目当ての誘拐犯たちからしたら、カモがネギを背負ってるようなものだろう。


 だからたとえ徒歩10分といった距離でも車で送ってもらう。例外は学生寮に住んでいる生徒たちだけど、そのほとんどは一般外部生とかだからそういうことにはならないだろう。


 見えなくなるまで車を見送ったあと僕たちは昇降口へ向かう。そこで外履きから上履きに履き替えて教室に向かうのだけど‥‥‥今日は少し、下駄箱の中に見慣れないものがあった。


「これは‥‥‥」


 絶対に目につくようにだろう。僕の上履きの上に置いてあったのは、一通の手紙だった。


 ‥‥‥ま、まさかこれはラブレター!?


 僕は自分で言うのもなんだけ美少女だ。実は毎朝鏡でポーズ取ってる。ラブレターみたいのはいつか来るとは思ってたけど、まさか学校が始まってこんなに早くだとは‥‥‥。


 ふっ、いつのまにかつい純情少年の心を弄んでしまったのか。僕も罪な女だぜ‥‥‥って! 違う! 僕は元だけど男だ! こいつ、僕なんかにラブレターを送ってくるんだなんて、とんだゲイだな。同性愛は否定しないけど、僕は答えられないぞ。身体は女の子だからな。‥‥‥あれ? 合ってる?


「澪さま、どうかしましたか?」


「あぁ、紗夜。下駄箱にどなたからかの手紙が入ってまして、ラブレターだったらどうしたもの——」


「いけません澪さま! すぐに手放してくださいっ!」


「え? え?」


 無表情だった形相を険しいものに変えた紗夜に叫ばれて、突然のことにびっくりした僕はサッと紗夜にラブレターを奪われた。


「澪さま! こういった不審物にはむやみに触らないでください! もし毒などが塗られていたらどうするのですか!」


 あっ、そういうことか‥‥‥。んなバカなって思うかもしれないけど、僕の今の立場だと絶対に無いとは言い切れないんだよなぁ‥‥‥。今回は圧倒的に紗夜が正しい。怒るのも当然だ。


「ごめんなさい、僕が迂闊でした」


「分かってもらえればいいです。‥‥‥まったく、澪さまにラブレター? そんなことをするのはどこのどいつですか? こんなものビリビリに八つ裂きにして燃やしましょう!」


 ‥‥‥あれ? 実はちょっと私怨が入ってない?


「とりあえず、これは私のほうで処分しておきますね」


「って、ちょちょちょ! 別に危険なものじゃないなら読ませてくださいよ」


「‥‥‥なんですか、澪さまはこの方が気になるのですか? まさかお答えになると?」


「いや、そういうわけじゃないけれど、せっかく頂いたのに読まずにっていうのは失礼でしょう? それにさっきはラブレターって言いましたけど、中身を見ないとわかりませよ? もしかしたらもっと他に大切なことかもしれませんし」


 まぁ、十中八九ラブレターだろうけど。だって手紙を留めているシールがハートだし。ラブレター以外にこんなシールで留めたりしないだろう。


 ‥‥‥あれ? でも、この手紙を送ってきたのって男なんだよな? 男がハートのシールを使うか‥‥‥? まさかと思うけど、これを送ってきた男はオカマだったりしないよな? 男性の身体の中に女性の性的思考‥‥‥つまり僕と逆ってことだけど、なんだか複雑になってきた。


 とにかく、それも手紙を見ればわかるだろう。


「わかりました。危険がないか検査するので少し待ってください」


 紗夜はそう言うと、少しスカートをたくし上げたと思ったら、そこからリトマス試験紙や薬品といったものや、金属探知機みたいなのを取り出した。


 ‥‥‥いや、ちょっと待って。今のシーン、ツッコミどころ満載じゃなかった?


「紗夜、今のどこから?」


「こんなこともあろうかと常に最善に備えてます。それより澪さまはもう少し離れてください。今は危険な薬品を使ってるので」


「あ、はい」


 なんだかとても集中してる様子なので、邪魔しないように素直に離れる。


 というかその危険な薬品とやらをスカートの中に入れていたのは紗夜だよな? 紗夜のスカートの中が謎すぎる‥‥‥。

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