第85話 第二回庶民部存続会議


 なんだか、まだトウガラシの匂いがするような庶民部の部室に僕たちはみんなで向かい合って座っていた。


「ではでは~! 第二回、庶民部存続会議をはじめま~す!」


 復活した柚葉さんが、どことなくゆる~い感じで宣言する。


 こうしてひざを突き合わせてるのは他でもない。廃部の危機にある庶民部を存続させるため、出された条件の実績を得るために始めたYouTube活動だけど、初めて投稿したひからだいたい二週間たったため経過報告をするためだ。


 初めての投稿である動画、『【初投稿】ごきげんよう!お嬢様だけどYouTuberはじめます!』から、なんとかみんなで忙しい合間を縫ってだいたい週二回投稿で活動してきたけど、はてさてどんなものやら。


「それでは麗華ちゃん、発表をお願いします~」


「はいですわ! わたくしたちのチャンネル、庶民に憧れるお嬢様の放課後チャンネルの現在のチャンネル登録者は——」


 ごくり、と誰かが息を呑んだ。


「——1693人ですわ!」


「「「「お、おぉぉ~~~?」」」」


 それって、多いのか? 少ないのか? YouTuber活動したことない僕からするとよくわからないのだけど‥‥‥。


 そんな顔をしていたのは僕だけじゃないのだろう。みんなの表情を見た麗華は補足を付けたした。


「この数字は初心者YouTuberとしてはかなり多いと言えますわ。普通は1~3か月でで100人いければって感じですもの」


「「「「おお~~~~~っ!」」」」


「ですが!」


「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」


「皆様も分かってる通り、目標である銀盾‥‥‥登録者10万人まではまだまだですわ‥‥‥」


 そう、だよね。まだ十分の一すら満たしてない‥‥‥いや、これ行けるの? やっぱりちょっと無謀過ぎない?


「正直、澪さまがいてここまで不発だったのは予想外でしたわ」


 なんかその言い方だと僕が原因みたいに感じちゃうなぁ‥‥‥。


「なので原因としては企画が悪かったのか、編集が悪かったのか、戦略が悪かったのか‥‥‥くっ、澪さまに出演してもらいながらバスりの一つも起こせない自分の力不足が憎いですわ!」


 ぜんぜん違った。それはちょっと逆に自分を責めすぎだよ!


「でも、麗華ちゃん。チャンネル登録者数は今も増えてるんだよね~?」


「はいですわ。上昇速度は緩やかですが、確実に一人ずつ増えてますわ。再生回数もどの動画も1000回は超えてますわね。ちなみに一番再生回数が多い動画は『【澪さまチャレンジ】ママチャリでウィリーしてみましたわ!』ですわ」


 えぇ‥‥‥あれが一番伸びてるの? マジで? ちょっと恥ずかしいんだけど‥‥‥。


 もっと伸びるのあったでしょ絶対。『【抜き打ち!】お嬢様たちの持ち物検査しますわ!』とか、個人的に見て一番面白かったよ? 撮影した時はまさか紗夜のスカートから動画に映せないブツが出て来るとは思わなかったけど‥‥‥。


「もっとも、これは少し調べて分かったことですが、動画を一度でも再生した人は必ずチャンネル登録はしてくれてるのですのよね。その確率は今のところ100%ですわ」


「え、それってすごいですよね?」


「はい! やっぱり澪さまを一目見てがっちりハートを掴まれたのでしょう! コメントを見れば澪さまを絶賛する嵐ですわ!」


 そ、そうなの? アンチなコメント見たらメンタルやられそうだから見ないようにしてたんだけど‥‥‥流石に麗華の言いすぎだよね? 


 みんなだって可愛いんだし、僕以外も注目されてるはず‥‥‥ちょっと逆に怖くなってきた‥‥‥これからも見ないようにしよう、うん。


「つまりもっと視聴者を増やせばその分だけ登録者は増えますわ! わたくしたちに必要なのは知名度ですわ」


「じゃ、じゃあさ、学校のみんなに見てもらえるようにお願いしてみるのはどう‥‥‥かな?」


 おずおずといった感じに意見を出す美琴ちゃん。けれどそれは‥‥‥。


「う~ん、確かに効果的だろうけどお姉ちゃんたちがそれを言っちゃうとねぇ~‥‥‥」


「あ‥‥‥そ、そうだったね‥‥‥」


 そう。未だ貴族社会の影響が強く残る藤ノ花学園のめんどくさいところだけど、僕たちから動画を見てって頼んだりするのは、命令と受け取られて強制させてしまうことがある。


 それは”家の力はあてにしない”っていう庶民部の掟に反することになる。


「手っ取り早く知名度を上げるには他のチャンネルとコラボすることですが、同じ理由で徳大寺家のファミリーチャンネルも使えませんわね」


「「「「う~ん‥‥‥」」」」


 いかんせん、僕たちは学園の中や財閥グループの中でならともかく、一般人からの認知は低いからなぁ。


 ”近衛”の家名なら誰でも知ってるだろうけど、その娘ともなると知ってるのはその業界に浸かってる人だけ。有名な企業なのは知っても、その社長までは知らないのと一緒だ。


 なんなら高校生まで入院生活だった僕は、自社グループからも認知されてないかもしれない。幻の令嬢とか噂されてたからね。


 みんなで頭を突き合わせて考えるけれど、なかなか良い案は浮かんでこない。


 そして、だんっ!としびれを切らした麗華が、強く机を叩いた。


「やはりここは炎上覚悟で思い切りの良い起爆剤となるような企画を考えるしかありませんわ! 企画担当のわたくしが情けない限りですが、どうか皆様の知恵を貸してください!」


「あっ、それじゃあこんなのはどうかな~?」


 そう言って、柚葉さんはどこから取り出したのか、大喜利に使うようなフリップボードを掲げる。そこに書かれてたのは‥‥‥。


『【犯行予告!?】藤ノ花学園に爆破テロをしかけてみた~!』


「これならニュースになって知名度上昇バッチリじゃない?」


「いやいやいや! 確かに知名度は上がるけど、犯罪者になっちゃいますよ! 警察に捕まっちゃいますよ!」


「そこはほら~、てへぺろってすれば許してくれたり~? もし捕まっても袖の下で、ね~?」


「お主も悪よの~——じゃない! ダメですよ? ダメですからね?」


 柚葉さん、思い切りがよすぎるよ。そして三条家なら本当に袖の下が出来そうで恐ろしい‥‥‥。


「それでは澪さま、こういうのはどうでしょう?」


 そう言って今度は紗夜がフリップを開ける。ほんとそれ、どこにあったの?


『【ポロリもあるよ】澪さまのストリップヌードショウ』


「——ぶぅっ!?」


 な、なな、なんて企画考えてるの!?


「やりませんよ!? やりませんからね!?」


「澪さま、我がまま言わないでください。数字が取れないのなら脱ぐしかないんですよ。ほかの人もみーんなやってます。わかりますね?」


「どこの悪徳プロデューサーか! というか過激なヤツしたらバンされるでしょうが!」


 紗夜からフリップを奪い取ってゴミ箱に捨てる。


 まったく、油断も隙もない。すぐこうやってエロい方向にもっていくんだから。


「えっと、美琴も考えてみたんだけど‥‥‥」


 あ、今度は美琴ちゃんね。なになに?


『【モフモフ】ワンちゃんネコちゃんいっぱい集めてみた』


 はい可愛い。こういうのでいいじゃん。


「や、やっぱり動物の癒やし動画が良いかなって」


「美琴、わたくしたちのチャンネルの趣旨とは違ってますわ」


「それってあなたの感想ですよね」


「ふぇぇっ‥‥‥」


 し、辛辣! 麗華と紗夜のコメントが辛辣だよ!


「み、美琴ちゃん。僕は美琴ちゃんのいいな~って思ったよ?」


「お姉ちゃんの家、ワンちゃんいっぱい飼ってるから今度美琴ちゃんを招待するね~」


「澪ちゃん‥‥‥柚お姉ちゃん‥‥‥」


 柚葉さんと二人で、なんとか美琴ちゃんが落ち込まないように宥める。しかし、モフモフか、今度僕も柚葉さんちに招待してもらおう。


 そう思ってると、麗華に声をかけられる。


「澪さまは何かありますか?」


「え、う~ん‥‥‥」


 なんだろう。いつも自分がよく見るやつで何かあったっけ。


「あ、歌ってみたとかどうですか? なんて、それくらいじゃ無理で——」


「いいですわね! 歌ってみた! 流行りの曲に乗っかれますし、澪さまの歌声を響かせればトレンド入り間違いなしですわ!」


「え、あ、え? あの、冗談で‥‥‥」


「でも確かに澪さまの言う通り、動画としてのインパクトも欲しいですし、それとは別に力強い企画は必要ですわ!」


「‥‥‥‥‥‥」


 え、えぇ‥‥‥歌うの? ほんとに‥‥‥?


 結局その後、みんなで頭を悩ませるけれどなかなかいい案はそうそう思い浮かばなかった。

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生まれ変わったハイスぺ美少女お嬢様は、いつの間にか学園の女の子たちを堕としていた。 しゅん@ものづくりファンタジー執筆中 @shunki04040430

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