第72話 駆け落ち!?
「それじゃあ、今日は九条さんのところに行ってきますね」
「行ってらっしゃいですわ!」
「美琴たちはいつもの席で食べてます」
麗華と美琴ちゃんに手を振って、九条さんから呼び出されてる校舎裏に向かう。
ちなみに紗夜は何か実家の方で用事があるらしく今日は休んでる。
いつも一緒にいる紗夜が朝からいないのはちょっと寂しかったけど、紗夜は何故か妙に九条さんを警戒してるし、今回はよかったかも。
それにしても、ご飯食べよってことだったのにどうして呼び出されたのが校舎裏なんだろ? 普通に食堂とか、あまり騒がしいのが嫌なら個室のサロンとかあるのに。
そもそも校舎裏って食べる場所じゃないし。ボッチとかじゃない限り。
「あ、九条さんボッチだったわ」
え、いつもお昼休みが始まるとすぐに教室に出て行くから気にしてなかったんだけど、まさか本当に!?
「いやいやいや!」
流石に無いか。だってあの九条家の九条さんだよ? まさか校舎裏でボッチ飯をキメこんでるはずがない。そんな姿見たくないぞ。きっと毎日会食とかでお昼も忙しくしてるんだ。
でも、それならどうして校舎裏に‥‥‥。
「——ハッ!? も、もしかして僕に愛の告白!? はわ、はわわわわっ!?」
校舎裏に呼び出すなんて愛の告白をするテンプレパターンじゃないか!
ど、どどど、どうしよう!? 今まで九条さんの事、そんな風に見たことないんだけど!?
確かに初めて彼女を見た時は、綺麗な人だな~とか、お近づきになりたいな~なんて思っていたけど、あくまでそれはお友達としてだし‥‥‥。
それにほら、お互いに立場っていうものもあるし。今の僕はホンモノの女の子になっちゃったわけで‥‥‥。近衛家や九条家にもなんて言われるか‥‥‥。
「あばばばばば!」
まさかまさかの展開に狼狽えていても、足を動かしていればいずれは目的地に着く。
僕が校舎裏にやってきた時にはすでに九条さんはそこにいた。
仏頂面はいつも通りだけど、体育の後に汗を流したからか靡く金髪が湿っていて、纏う透明感や神秘性も相まって湖の妖精のように見える。さっき考えてたこともあるし、思わず熱く見つめてしまう。
「ぽ~‥‥‥」
「やっときた。遅い」
「あっ! す、すみません。お待たせしました。でも、その‥‥‥」
「なに?」
「い、いやその、本当に僕でいいんですか?」
「はぁ? 何を今更、誘ってきたのそっちじゃん」
「え? で、でもそういうつもりじゃなくて‥‥‥。だから僕もいきなりでちょっと混乱してるんですけど‥‥‥。その‥‥‥」
「なに?」
「お、お友達からなら! よろしくお願いします!」
そう言って、頭を下げて手を下げる。
今はどうかこれで許してください!
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥何を勘違いしてるかしらないけど、時間無くなるから早く行くよ」
「はぇ? 行くって?」
「だから、ランチ食べるんでしょ? あんたと二人でいるところをほかの人に見られたら変な邪推されるかもだし、食べるなら外で食べるよ」
「え、え? 外って‥‥‥」
「いいから早く行く!」
「あっ、はい」
咄嗟に返事をしてずんずん歩いていく九条さんについて行ってるけど、何が何だか分かってない。ちょっと整理が必要。
つまり、なんだ? 愛の告白は僕の勘違いで、人目に見られないよう外に食べに行くために、これもまた人目に見られないよう集合場所を校舎裏にしたってこと?
「——っ!?」
え、じゃあ僕、自意識過剰でめっちゃ恥ずかしい人じゃん!
■■
あまりの恥ずかしさに茫然としているうちに、いつの間にか裏門から外へ出ていた。
裏門は寮のほうに続いており、基本的に寮生しか使わないため、僕もこっちの方に来るのは初めてだったりする。寮に呼んでくれるような寮生の友達なんていないし。
「あの、今更ですけど、どうして裏門から? 車を回してもらった方がよかったんじゃ」
「呼んだら家にあんたと一緒に行ったことがバレるでしょ」
「バレちゃダメなんですか?」
「‥‥‥はぁ、このあんぽんたん」
「にゃ、にゃんですと!? それに、まさかそのまま食べに行くとは思って無くて、学園に外出届けを出してないんですけど」
「うちも出してないけど、バレなきゃいいでしょ」
「えぇ‥‥‥」
学園の昼食事情は前に言った通り三種類ある。麗華と食べた時みたいに学食か、美琴ちゃんと食べた時みたいにお
外食で済ませる場合は事前に学園に外に出ることを伝えて許可を貰わなくてはならない。まぁ、大事な、ほんと~~~に大事な生徒さんたちだし当たり前だわな。
そもそもこの外食システムは実家の都合でお昼に会食に向かうためにあるわけで、本来は自由に出入りしちゃいけないはずだ。
そりゃあ普通の高校ならちょっと抜け出してコンビニに買い出し行ったりしても、ちょっと先生に注意されるくらいだけど、この学園でそれやったら最悪は誘拐とかと勘違いされて本当に大問題になるんじゃ‥‥‥。
まぁ、でもこうして九条さんと内緒で抜け出してるのはちょっとスリリングでなんだかドキドキする。
「——ハッ!?」
も、もしかしてこれが俗に言う吊り橋効果!?
この危険な道のりが二人の距離をグッと縮めさせ、始まるのは愛の逃避行。数々の苦難を乗り越えて果たしてその先に何が待ってるのか!? みたいな展開が待ってるに違いない! 姉ちゃんの少女漫画で読んだことあるぞ!
ということは、やっぱり九条さんは僕のことを‥‥‥。
こうして無断で学園から抜け出したのも僕と一緒に駆け落ちするために‥‥‥。
「‥‥‥っ」
分かったよ九条さん。そこまでの覚悟があるのなら僕も覚悟を決めよう。君の気持ちを受け入れる。ここまで態度で示されて何もしないなんて男が廃るってもんだ。元だけど。
だからたとえ女の子同士であろうと、近衛家や九条家に認められることが無かったとしても、二人でこの愛を貫き通そう!
「九条さん、いつまでも二人で」
「‥‥‥。なに言ってるのかさっぱり分かんないけど着いたから」
「あれ?」
色々と考え事していたら、いつの間にか繁華街に来ていたらしい。車通りも多く、たくさんのお店が並んでる。
ここはいつも利用する高級店が並ぶ通りとは違って、以前はよくお世話になっていたチェーン店やカラオケ、ボーリングなんかのお店もある。
近衛澪になってからは近づくこともあまりなかったからかなりご無沙汰してるなぁ。たまにはみんなで行ってみたいけど、名家のご令嬢はこんなところ来ないか。
まぁ、その日本の名家ツートップのご令嬢二人がこうして来ている訳ですけど。
「ほら、早く入るよ」
「え? こ、ここは‥‥‥」
「味は物足りないかもだけど、安いからいいでしょ」
「えぇ‥‥‥」
そう言って九条さんが入っていったのは、九条家の令嬢には絶対に似合わないだろう有名イタリアンファミリーレストランだった。
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