第5話 1年2組 感じるアウェー感


 紗夜が開けてくれたドアを潜って教室に入ると、中にいるすべての人からの視線が突き刺さるのを感じた。


(うぅ‥‥‥)


 予想通りというか僕が入ってきた瞬間、賑やかだった喧騒が静まって、見慣れない僕のこと探るような雰囲気にのまれていく。


 やっぱりとてつもないアウェー感‥‥‥でも、紗夜にアドバイスされた通りに、いつものように一挙手一投足を優雅に振舞って、顔に微笑を浮べる。


 チラリと教室を見回せば空いている席が二つあった。紗夜はその内の一つであるドアにから二番目に近い列の一番後ろの席に案内してくれた。ここが僕の席なんだろう。ここなら前のドアじゃなくて後ろのドアから入ればよかった。


「澪さま、どうぞ」


「ありがとう」


 紗夜がイスを引いてくれたので、そこに腰かける。


「もうすぐ先生もくるでしょうし、紗夜も自分の席に座って」


「はい」


 コクリと頷くと、紗夜は教壇の目の前の左の席に座った。あんな先生の真正面の席なんて、紗夜はついてないな。


 僕は自分の席から教室を見回してみる。後ろの席だからとても見やすい。


 というか、流石は名家が通う私立高校。出資者から入ってくるたんまりな資金があるおかげか、歴史のある学校だっていうのにどこもかしこも新品みたいに綺麗だ。それに綺麗なだけじゃなくて設備も常に最新鋭になっているんだろう。なんと黒板がデジタルだ。なんかテンション上がる。


 僕が入ってきたことで静まり返っていた教室だったけど、流石に見飽きたのか近くの席で話してる人がちょくちょくいる。まぁ、それでも元の喧騒とまではいかないけど‥‥‥みんな遠慮しないでもっと騒いでいいよ?


 僕も隣の人となにか喋ろうかな。‥‥‥いや、僕の家の家格を考えると、ここにいるほとんどの人は僕に話しかけられたら委縮させちゃうかも。それはちょっと申し訳ない。


 でもなぁ、僕も学校の友達が欲しいし‥‥‥。


 ただでさえ内部生としては遅れてスタートすることになった僕なんだから、少しでも自分のほうから歩み寄ってちょっとずつクラスに溶け込めるようになるしかないよね。


 そうすればきっと、他のみんなもフレンドリーになってくれるはず! だからまずは隣の人からだ!


 チラリと隣の人の様子を伺ってみる。話しかけるタイミングを見極めないと。あとなんて話しかけよう‥‥‥?


「おぉ‥‥‥」


 しかし今気が付いたけど、隣の人よく見たらめっちゃ美人! 思わず感嘆の息が漏れてしまった。


 光を溜め込んだような輝く金髪に碧眼で切れ長の瞳。たぶん欧州の血が混じってるんだろう目鼻立ちがはっきりとしていて、すごく大人っぽい。そして極めつけは耳につけたピアスとか、手首に撒いたシュシュとか、着崩した制服とか‥‥‥オシャレギャルだ‥‥‥。


 そんな欧州オシャレギャルが片手で頬をついてる姿はめっちゃ絵になる。ギャルなのに儚げな様子がギャップというか。毎日自分の姿を鏡で見てるから美人耐性はついてると思ったのに‥‥‥こんな、見惚れるなんて。


 ぽ~~~っとした気分で見つめていると、宝石のような碧眼がギロリとこっちを向いて目が合った。


「なに? さっきからじろじろと」


 うわっ、やっぱり美人は迫力がある‥‥‥。ていうか当たりが強い。僕、何かしちゃったのかな‥‥‥?


「あ、え、えっと‥‥‥近衛澪です。‥‥‥よ、よろしくお願いします」


「そんなこと知ってるっつーの」


「あ、う‥‥‥ごめんなさい?」


 やっぱりなんかすっごい当たりが強い! もしかしてこれが彼女のデフォルトなのかな? それともやっぱり僕かなんかしちゃった!?


 もしそうなら謝りたいんだけど‥‥‥でも身に覚えがないしなぁ‥‥‥。


 あ、というか、そもそも僕、彼女の名前をまだ知らないや。まずはそれから聞いてみよう。


「あ、あの~‥‥‥」


「なんだよ」


「名前を——」


「はい、ホームルームを始めます」


 教えてくださいと言う前にドアが開いて担任の先生が入ってくるとテキパキと配布物を配ったり、連絡事項を言い始めた。


 明日からの授業の時間割や日直の順番の話、それから外部生とのトラブルを起こさないように等の注意事項など。どれもこれも一度聞いたことあるようなことなので適当に聞き流していく。


 というか完全に隣の彼女の名前を聞きそびれてしまった。今日はもう始業式が終わったらこのホームルームだけで下校だし、放課後はここにいるような人はみんな予定が忙しいだろうしなぁ‥‥‥。


 僕はまだ病気が治ったばかりということであまり無理のないようにしてるけど、ここにいる生徒たちはみんな偉い人との会食とか、将来必要になることの稽古や勉強で忙しい人がほとんどだと思う。


 もし隣の彼女もそうだったらわざわざ引きとめるのも気が引けるし。


 これは名前を聞くのは明日に持ち越しかなと、そう思っていると。


「はい、それじゃあ最後に自己紹介でもしましょうか」


 おおっ! ナイス先生! それなら別に聞きださなくても自然と知ることができるぞ!


「えぇ~先生~、ここにいる人は初等科から一緒なんだからみんな知ってますよ~。それより早く帰りたいです!」


 おい、そこの男子! 余計なこと言うな!


「いえ、先生があなたたちを知らないので先生に教えてください。とりあえず、前の方からお願います」


 そう言って先生はチラッと一瞬、僕の方を見た気がした。


 あ、これあの先生、僕のためにやってくれたんだ。めっちゃいい先生じゃん! マジ感謝!


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