第24話 ゲーセン開業

 オープンの10時。俺と楓はバタバタしながら入口を開けに行く。

 内カギに手をかけた楓は俺に微笑みかけた。



「開けますよ? いいですか、優紀さん」


「おう」



 俺の返事に楓はコクっと頷く様子を見せて鍵を回す。

 カチャッ。

 そのまま楓はドアノブをゆっくり回して、ドアを押した。向こうには数人のお客様が並んでいた。



「「いらっしゃいませ」」



 俺と楓の声が重なる。楓は緊張の消えた無邪気な笑顔で、でも少し目元を潤ませながらお客様と会話をする。


 待っていたお客様はというと、ほとんどが体験会に来てくれた方で、中に入るなり自由にプレイを始めていた。



「オープン楽しみにしとったで。おめでとう」



 体験会の時に力を貸してくれたあの方からありがたいお言葉をいただく。



「この日のために最善を尽くしてきました。ぜひ楽しんでいってください」


「おうよ! 早速やけど、対戦しようや!」


「!? 今日も負けませんよ」



 お客様と一緒に俺は席に着いた。もちろん負ける気はない。製作に携わったからといって手を抜く方が失礼になる。俺はいつも通り自己ベスト更新を目指してプレイした。




 結果は俺が勝った。がしかし、お客様のスコアとはだいぶ僅差であった。



「あっぶな……、上手いですね……!」


「そりゃもう、たくっさん鍛えてきた。どえらい楽しみにしとったで」



 お客様の眩しいくらいの笑顔に俺は嬉しくなった。

 楓が作った笑顔に、楓が見せてくれたこの景色に、俺はここに来れてよかったと思ったんだ。



 こうしてゲーセンを無事開くことが出来た俺たちは、お互いに支えながら運営をしていた。

 もちろん、終わりに、向かいながら。








 ゲーセン運営開始から4ヶ月後。

 いつも通りメンテナンスをしていた時、楓は座ってコーヒーを飲んでいた。そのまま湯気を口から放って、俺に向かって言葉を落とす。



「言いそびれてたんですが、実は僕、来月の今日任期を迎えるんですよね」



 俺は手を止めた。止めざる負えなかった。なぜなら頭を殴られたような衝撃が走ったからだ。

 いつか来るとわかっていた日がすぐ手の届くところにある事実が、俺に向かって鈍器を振り下ろした。

 呆然としている俺に向かって楓はこう続ける。



「いきなりですみません。本当はここを続けたくて眠夢様と話していたんですよ。

 特に、夢送り師に転職したらゲーセンを続けることが出来るのかを確認してたんですが、それが出来ないみたいで……。

 そもそも夢送り師は夜に行う仕事が多く、昼夜逆転生活になるのに、昼間にも結構仕事があるみたいなんです。

 だから、ここの運営が出来ない。それが分かったのでこのまま任期を迎えようと思います」



 話を聞いても何を言わず、俯いたままの俺に向かって、楓は「すみません」と言葉を付け足した。

 本当は何も言わなかったのではなく、言えなかった、だけだった。しっかりと固まった楓の意思と、それに相対した俺の“まだ一緒にいたい”という思いをぶつけるべきでない、そう思ったからだ――。



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