第49話 サバゲー(3)

 上に戻ると、翔太が駆け寄ってきた。



「見てたけどすげぇよ! なんだあれ! すげぇ」



 勢いよく褒めてくれ僕は「ありがとう」と言った。だが僕は、あまりにひどい翔太の言葉に心の中で、ボキャブラリーどうした、と突っ込んでいた。すごく嬉しいけども。



「ほんとに凄かったよ。まさか勝っちゃうとまでは思わなかった」



 そう言った綾部さんは僕にお茶をいてくれた。僕は緊張で乾いた喉を潤す。



「綾部さんが選んでくれた銃、使いやすかったです」


「よかった〜」



 綾部さんがパッとした笑顔を見せる。



「お前、綾部の銃使わなかったじゃねぇか」



 コツコツと歩きながら店長がそう言った。



「まともにやっても店長には勝てませんもん」


「がははっ。たしかにそうだな。いい判断だ。

 お前ら、名前なんだったか?」



 店長の問いに順となって「景です」、「翔太です」と答える。



「景と翔太だな。わかった。

 どんなサバゲーがしたい?」


「「楽しくやりたい」」



 たまたま声が重なる。翔太は僕の方を見て微笑んだ。それに僕も返す。



「そうか。それは教えてやるが、銃は高い。どうする? ここで働くか?」



 突然の提案に思わず「いいんですか?」と図々しく僕は聞き返した。



「あぁ、その方が空き時間に練習もできるしな」


「じゃあ、お願いします」



 こうして、土日の生活に〝バイト〟と〝練習〟という2つの予定が経った。


 そして僕らはサバゲー漬けの生活がスタートしたのだ。




 長期休みは店長たちがフィールドや試合に連れて行ってくれ、僕らはどんどん上手くなった。

 バイトのおかげでコミュニケーション能力がつき、学校での友達も増えた。

 問題があるとすれば、おばあちゃんに怪我を心配されることくらいだった。BB弾とはいえ、威力はある。あざを増やすと、おばあちゃんはオロオロとしていたっけ。申し訳なかったなぁ……。




 とはまぁ、こんな感じで、サバゲーのおかげで僕の高校生活は一変したのだ。

 そういえば、僕と翔太がやっているのが広まって、文化祭のクラスのもよおしが射的になったこともあったっけ。今思えば楽しかったかも。





 ──────





「僕の高校生活はこんな感じ。サバゲーが中心だった」



 莉望は「そうだったんだ〜」と言いながら座っていたベッドに横たわった。



「だから死ぬのが怖かったんだ。死ぬことを1番知ってたから」


「そっかそっか。でもいいなぁ、楽しそうじゃん。

 私もなにか好きな物に出会いたい人生だったよ」


「そっ、か……」



 莉望の“人生”に比べると、僕の人生は恵まれていた、と心から感じてしまう。どうしてこんなにも違うのだろう。

 莉望に羨ましがれると、どんな反応をしたらいいかわからなくなった。



「でもここでの生活が楽しければいいよね!」



 ……今“ここでの生活”って言ったよな。“人生”じゃなくて。

 莉望はこの世界をどう思ってるんだ?

 あれ? 僕はなんだと思ってたんだっけ。


 ……死んだ、そう思ってた。莉望のように。堀部さんといた時はたしかにもう死んでいると思ってたんだ。


 じゃあなんで今は、莉望が発した言葉に反応してしまったんだ?

 ……聞こえる。心臓の鼓動が。

 莉望にドキドキしている。

 彼女の笑顔に胸が高鳴って、彼女の反応にいちいち困って……。


 そうか、莉望が僕を生かしたんだ。

 莉望が僕の“人生”を変えたんだ。僕が莉望にしたように。






 僕は莉望の隣に寝そべった。



「莉望、楽しいこといっぱいしよう」



 気がついたら僕はそう言っていたのだ――。



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