第48話 サバゲー(2)

 来たる土曜日。

 僕は翔太と店の前で待ち合わせをしていた。

 翔太は時間を少し遅れて到着し、「ごめん迷った」と言って申し訳なさそうな笑顔を見せた。



 店のドアを開けると、綾部さんに「いらっしゃいませ」と声を投げかけられる。

 僕は思わず店内に目を取られた。

 壁一面のラックに、低めのショーケースにぎっしり銃が並んでいる。長さも大きさもかなりたくさんだ。

 そう、彼らの店はサバイバルゲーム専門店だったのだ。


 僕が辺りの銃に気を取られているうちに翔太は「この間はお世話になりました」とあいさつした。



「待ってたよ。今、店長呼んでくるからここ座ってて」



 綾部さんはそう言って奥の部屋に入った。



「すごい数の銃だね」


「ほんとに。こんなにもたくさん種類があるなんて思わなかった」



 僕らがそう話していると、店長、あのいかつい人が後ろからこう言った。



「お前ら、何しに来た。

 ここは大人の遊び場だが」



 急な言葉に僕は何を言えばいいか迷った。



「僕たちはサバゲーをやりに来ました。教えてください」



 翔太がまっすぐな目でそう言うと、店長は「戦場に立つもの、死を覚悟しろ」そう言った。



「死、を……」



 僕は繰り返すようにつぶやいた。そして確認するように店長に問う。



「でもサバゲーはエアガンだから死にませんよね?」


「ヒットされた時点で死人だ」


「僕は、死にません。負けないので」


「ほう。なら俺と対戦しよう。下で待ってる。

 綾部、こいつに銃を選んでやれ」



 もしかしたら大変なことを言ってしまったのかもしれない。

 間違いなく、店長は手練てだれだ。素人の僕がかなうのか……?

 死に、ヒットにおびえた手が震えている。

 その手に綾部さんから銃を押し付けられた。



「君のその体つきから重たいのは似合わない。だから重量が軽くて、撃っている間、引き金を引いてる間ずっと弾が出る銃を選んだよ。でも弾切れしやすいから気をつけてね。

 まだ止まってる物しか撃ったことないだろうけど、店長は多分君をなめていると思う。だからきっと隙はできるよ。頑張って!」



 そう背中を押してくれた綾部さんに僕は「精一杯やってきます」と言った。

 ちなみに、ゲームのルールについては今日までの間に調べていたし、経験者の動画も見漁っていたから何となくこの銃、押している間弾が出る、というのは想像できた。

 ただ、やっぱり実践がない。それは大きな穴だと思っている。

 もし死んだら僕はどうするだろうか。放心状態にでもなるだろうか。それとも逃げ出すだろうか。

 そんな今考えてもどうにもならないことを考えて、僕は店長が消えていった地下室に向かった。

 1段目の階段を降りる前に翔太へ「行ってくる」と言ってから──。




 中に入ると、肌がピリついた。BB弾は床に転がり、フィールドは2mほどのしきりによって形成されている。

 まるで迷路みたいだ。



「聞こえるか?

 ルールは簡単。今から10分の間にお前の弾が俺にヒットしたら勝ちだ。

 俺はこの10分間お前を銃で撃たない。10分を過ぎたら本気で息の根を止めに行く。

 わかったな?」


「待ってください、それじゃ──」


「あまり大人を舐めるなよ?」



 低く重たい声が聞こえた。思わず足が震える。

 怖い。怖いのだ。

 もうすぐ死ぬ、それがわかって上手く立っていられない。

 ──殺らなきゃ、殺らなきゃ僕が死ぬ。

 そう思ったら震えは止まり、銃をギュッと握りしめた。



「それじゃあ始める。よーい、スタートだ」



 店長の声でゲームが勝手にスタートされる。

 まずはここの中から探さなければ……。

 足音に気をつけながら曲がり角や、自分の死角に注意して中を進む。

 目が合った。

 バンッ。

 撃っても交わされてしまう。

 バババババババンッ。

 連射をしてみても、店長は必要最低限の動きで交わし、射線の入らないところに逃げられてしまった。

 僕はそれを追いかける。


 ただ、それの繰り返しだった。

 ひと弾も当たらないし、店長は目こそ人を殺しそうな様子だったが、それ以外は余裕そうで、僕はだいぶ焦っていた。

 嫌だ、死にたくない。そう体が嘆いていた。

 そんな時、店長がこう言った。



「残り1分だ」



 追いかけている途中、声自体はものすごく近い。右側にいる。このまま追いかけ続けても何も変わらない……。ならどうする?

 ──壁を登ろう。

 この高さならギリギリ手が届く。でも銃は? 登るにも邪魔だ。


 刻一刻と近ずいてくる終わりに僕は焦り、思い切って行動した。

 ダンッ。

 しきりを越え、そこから飛び降りる時、僕は店長の服を引っ張った。

 そして店長がよろけた所で店長の腰にかけてある銃を抜く。

 バンッ。

 至近距離だ。外すわけがなかった。



「がははは。ヒットだ。

 まさか上から来るとはな〜。しかも銃を置いてくるとか。“死なない”とか言って、死ぬ覚悟で倒しに来たようなもんじゃねぇか。どうかしてるぜ、まったく……。

 合格だ。俺らとチームを組もう。鍛えてやる」



 そう言った店長は上に戻っていく。

 よかった。生きてる……。

 まだ心臓がどくどくしてる。

 緊張が抜けてくる感じも心地よい。

 あぁ、生きてるんだ。そう、感じた──。



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