第47話 サバゲー(1)

「名乗り損ねていたね。綾部あやべ 郁人いくと

 趣味でサバゲーマーをやってる普通の会社員さ」



 そう言って綾部さんは小型とは言えないくらい大きな銃をかついだ。腕の長さくらいはある。



「練習用スペースに行こう。的を撃たせてあげるよ」



 僕らは綾部さんについていき、小屋に入った。

 足を踏み込んだ途端、木の香りに包まれる。

 中には棚があって、その上にアルミ缶が並べて置いてあった。



「これを撃ってみて? じゃあまずは君から」



 綾部さんから翔太へと重そうな銃が渡る。



「ずっしりしてる……」



 翔太は銃を角度を変えながら細部までじーっと見てから、銃を構える。



「もう少ししっかり握って。引き金付近に膨らんだところがあるだろう? それは“セーフティ”と言って、スライドすることで撃っても弾が出ないようにする安全装置なんだ。今は出ないようにセーフティがかかっている状態だからスライドして解除して」


「はい。これであってますか?」


「うん。もう撃てる状態だから、構えて、狙いを定めたら引き金を引くんだ」



 バンッ。鈍い音がした。



「惜しいね。少し右に反れたかな。その銃は“ダブルアクション”というシステムで、引き金を引くだけで連射できるんだ。当たるまで撃ってみようか」


「はい」



 バンッ。バンッ。

 翔太が続けて撃ち、カコンとアルミ缶が落ちた。



「ヒットだね。うまい!

 じゃあセーフティをかけてもう一人の子に渡して」



 綾部さんの言葉に翔太は僕に銃を渡してくる。

 重たい。そのずっしりとした感覚は僕に怖さを感じさせた。

 翔太が立っていた場所に足を運ぶ。

 顔の前まで銃を持ち上げて引き金付近のふくらみ、セーフティをスライドした。

 息をのんでアルミ缶を狙う。指に力を込めた。


 バンッ。カコン、カラカラ……。


 スカッとした。当たるなんて思いもしなかったから嬉しかった。胸がワクワクした。

 後ろに落ちたアルミ缶を拾い上げた綾部さんはこう言った。



「上手いね! 才能あるじゃん」


「ありがとうございます」


「今はこうやって動かないものを撃ったけど、人を撃ったりもするんだ。ここで会ったのも何かの縁だし、興味が出たらここにおいで」



 そう言われて受け取ったのは店舗情報カードであった。真ん中に“fusil”と書いてある。



「なんて読むんですか?」


「それは“フュジ”と読むんだ。フランス語で“銃”を意味する言葉だよ。

それは僕と店長の、さっき僕のところまで連れてきてくれた人の店のカードなんだ」



 僕と翔太はへー、と返事をしながらそのカードをポケットに入れる。



「セーフティエリア、さっきの所に戻ろうか」



 綾部さんの声に僕らは小屋から出て、自然の中に戻ってきた。





 その後はというと、先生にしこたま怒られ、クラスメイトとは別室に隔離され、翔太と反省文を書いた。

 その2人きりになった時、翔太は僕に話しかけたのだ。



「今日、迷子になってよかったよな」


「反省文書かされてるのに?」


「これは最悪だけど、銃を撃ったじゃん。あれ、めっちゃ楽しくなかった?」



 目を輝かせて言う翔太はよっぽど楽しかったのだろう。



「楽しかったね」


「だよな!!

 よかった〜。これでつまんなかった、とか言われてサイコパスなやつだと思われたらやばかった」



 自分で言って自分で笑い飛ばす翔太につられて僕も笑った。そして、カードを出してこう言った。



「それでさ、今度の休みにこの店行ってみようと思うんだ。よかったら一緒に行かね?」


「行く!」



 一瞬も躊躇とまどうことなく発した僕の言葉に、翔太は歯を見せて笑った。




 こうして僕と翔太はサバゲーの沼へと沈んでいった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る