第46話 高校生活

 それから、僕と莉望はベッドの向きを変えたり、壁の位置を変えたり、軽くだが模様替えをして2度目のノンレム睡眠を迎えた。






 そして3度目のレム睡眠時、莉望はこんなことを言った。



「景さんってどんな高校生だったの?」



 僕は莉望の言葉に驚き、「どうして?」と聞き返す。



「だって私、学校に行ったことがないんだもん。だから知りたいなって思って……、ダメ?」


「ダメじゃないよ。けど聞いててもつまらないくらい普通の生活だったんだ──」



 こうして僕は2年半以上昔のことを思い浮かべた。






 ──────






 僕は本当につまらない人だと思う。

 高校入学して、僕の友達は1人、伊藤いとう 翔太しょうただけであったのだ。

 翔太と僕が仲良くなったのは高1の6月。近くの山に泊まる、林間学校の時だった。

 それまでの僕はというと、特に周りに興味がなく1人でいることが多かった。そもそも普通にしていれば、友達くらいできると思っていたのだ。春が過ぎ去ったにも関わらず、交友関係に焦らなかった僕は林間学校で失敗してしまう。


 その林間学校の内容はオリエンテーリング、山の中のコースを歩いて探索する所から始まり、飯盒炊飯はんごうすいはん、キャンプファイヤーに露天風呂と盛りだくさんなものであった。

 高校初の学校行事に胸が高まるはずが、僕はオリエンテーリングの際、班員とはぐれ迷子になってしまった。仲を深めるための行事であったため、生憎あいにくスマホは担任に預けたまま。

 僕はどこにいるかもわからなければ、その場に立ち尽くしてしまった。そんな時出会ったのが翔太だ。

 なんと、翔太は“何となくこっちに今日の宿がある気がするから”という理由だけで森の中を彷徨さまよっていたらしい。もちろん僕と同じ迷子だったのだが。

 こうしてばったり会った僕らは、協力せざる負えない状況で話すくらいには仲良くなった。


 そして僕らは思うがままに森を突き進んだ。

 ビーッ!

 山を下る途中、少し遠くから大きな音が聞こえた。僕と翔太は一度顔を見合ってから、音の聞こえた方向に進む。


 すると、緑のネットに囲まれた場所にたどり着いた。



「ゴルフ場か?」



 翔太が僕にそう聞いた。だから僕は聞き返した。



「ゴルフってさっきみたいな音が鳴るの?」


「知らねぇよ。とりあえず人がいるみたいだし、学校に連絡してもらおうぜ」



 僕らはそのネットを潜り抜けて中に入り込んだ。

 中はというと、大きな塀が立っており、その入り口付近に迷彩柄の怪しい集団がいた。



「何やってんだ……?」


「もしかしたら入っちゃダメなところだったのかも」


「やばそうだし、とりあえず戻るか」



 こうして僕らは元の所に戻ろうとし、振り向いたとき、でかい図体ずうたいの男が立っていた。



「お前ら何してる?」



 吐き捨てるようにその人が言うから僕の足は震えた。まずい、絶対に見つかっちゃいけなかったやつだ。



「黙っていてもわからないが」



 2度目の低い声に僕は「助けてください」と言った。



 僕の言葉を聞いて、その人は「こっちにこい」と言った。逆らうのも怖いので後ろをついて歩く。



「あ、店長。おかえりなさい。

 って誰その子たち。もしかして店長の隠し子――むぐっ」



 その人は店長と呼ばれている人にほっぺたを両方から潰されている。



「ちげぇ。困ってるんだとよ。お茶入れて話聞いてやれ」


「店長は?」


「練習」



 ぶっきらぼうな言葉を残して、いかつい店長と呼ばれていた人は塀の向こうに大きな荷物を背負いながら消えていった。



「まったく……店長はひとまかせなんだから。


 で、君たちはどうしたの?」


「道に迷ってしまって……。ここには学校行事で来ているのですが、先生に連絡を取る手段を持っていないので、代わりに連絡してもらいたくて……」


「なるほどね。

 じゃあ2人の名前と学校名を教えてくれる?」



 その人は僕らのためにスムーズな対応をしてくれた。



「今キャンプファイヤーをしていて、捜索している先生がこっちに向かってくるって。それまでゆっくりしてて」


「ありがとうございます」



 優しくて丁寧な人に僕は頭が上がらなかった。



「あの……」



 一息つく間もなく、翔太は話し出した。



「ここって何なんすか?」


「あぁ。ここはサバゲーフィールドだよ。君たちもやってみるかい?」



 その人は大きな黒いケースから銃を出した。




 そう、ここからだ。僕の人生の濃度が変わったのは……!





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