第41話 女の子
落ち着いた。涙が乾いた。
今は何時だろう、お腹空いたな。
これはどうしたらいいんだろう……、ほんとにどうしたらいいんだろうか!
今起こっていることを整理すると、僕は今19歳で、この腕の中にいるのは莉望で17歳……。って犯罪じゃないか!
どうやって離せばいい? 普通どうやるんだ?
てかなんでハグしてたんだっけ。あ、莉望がしてきたのか……。
なら莉望から離してもらおう。
「……莉望。そろそろ離れない?」
「どうして?」
莉望は体をくっつけたまま上を向いた。顔が急接近する。ぐわっと僕の頬は熱くなった。
「その、僕、一応男なんだけど……」
「あ、え……そ、そっか」
慌てる様子で莉望は僕から体を離した。
……やっぱり意識してなかったか。そもそも話を聞いた限り、莉望は男の人と関わってきて無さそうだしな。
照れているのか分からないが莉望は黙り込んだままでいる。
そんな沈黙を「グルルルル……」という莉望のお腹の音が消した。莉望はというと、耳まで真っ赤にしてお腹を押えている。
「お腹鳴ったね、何か食べる?」
「……何が食べれるの?」
「何でも食べれるよ」
「じゃあ、うどんがいいな」
「わかった」
僕はスマホを出して注文をした。それを見て莉望は目を輝かせている。
「スマホだ、いいなぁ」
「莉望に買ってあげるよ。何色がいい?」
「え! ほんとに!? んー、じゃあピンクがいいな!」
「はーい。
でもなんでスマホが欲しいの?」
莉望に聞くと、食いつくように「だって買ってもらえなかったんだもの!」と顔を近づけてくる。僕はまたそれに困った。
「わかったから……、ね?」
僕は莉望からゆっくり顔を遠ざける。その様子に気づいたのか莉望は「あ、ごめん」と謝った。
ほんとに困ったものだ。この心臓の高鳴りは何だっていうんだ……!
莉望に会ってから変だ。こんなことになんかならなかったのに……。
莉望……。
僕は横に座る莉望の顔をバレないように盗み見た。
つるつるの卵肌に長いまつ毛。無邪気な性格に合った童顔に、サラッとした髪の毛。
――見れば見るたび僕の心は吸い込まれるように、これくらいなら気づかれないだろうと莉望に
「あの、景さん。そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
莉望がそっぽを向いてそう言う。
「あ、ごめん」
「近づくと怒るのに、見るのはいいのねっ!」
最後の「ねっ!」を投げるように言う莉望は、多分むすっとした顔をしているだろう。すぐ顔にでるからな……。
って、そうではなくて何か言わなければ……!
「怒ってないよ、困っただけだって。その、僕、女の子に慣れてないから……。
それに莉望の顔を見ていたのはやっぱり女の子だよなぁって――イタッ!」
僕の言葉に起こったようで莉望は僕の太ももをバシッと叩いた。
そして隠していた顔を見せて「私だって女の子だもん!」と勢いよく言う。
表情は……、やっぱりむすっとしている。
僕は慌てて言葉を選ぶ。
「それを言うなら莉望もだよ? 僕だって男だし、それに莉望は言われるまで気づいてなかったじゃん」
「っ!」
莉望の表情が変わった。これは「しょうがないでしょ!」って言われるな……。
「しょうがないでしょ!」
「あははっ」
「何がおかしいの! 景さんのバカ!」
莉望は顔のパーツを全部中央に寄せて、怒った顔に表情を変える。
「ごめんごめん。あまりにも莉望が予想通りの事を言うから……」
「だからって笑うなんてひどい!」
「ごめんってば」
お怒りの莉望はチラッとこっちを見て上がった眉を下げた。
「……いいよ」
「ありがとう」
こうして仲直りした頃に「お届けでーす」という声が聞こえ、僕は頼んでいたご飯を受け取りに行く。それに莉望は後ろから着いてきた。
「夢送り師の人が届けてくれるのね」
「そうだよ。
今日もありがとうございます」
僕は湯気が
「はい。それでは失礼します」
丁寧に深く頭を下げるその人を見てから僕は莉望の部屋のドアを閉めた。
「食べようか」
「うん。いい匂い!」
お腹を空かせた莉望は早く早くとベッドに座った。
「あれ? テーブルが出てこない……」
莉望はベッドの横を撫でながらそう言った。
僕の頭にはてなが浮かぶ。
「景さんどうして!? 普通だったらここからテーブルがでてくるのに!」
僕は莉望が発した“普通”という言葉から、莉望にとっての普通=入院生活の事だと気づく。
「莉望、それは病院のベッドだけなんだ。
テーブルも買わないとだね。
今日は僕の部屋で食べようか」
「そうなんだ。わかった」
こうして僕は人生で初めて女の子を部屋に呼んだのだ――。
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