第42話 暴走列車(1)
莉望は僕の部屋に入るなり、パッと明るい顔をした。
「なにこれ! きれい……!」
莉望が光を漏らすPCに近づいて「こんなパソコン初めて見た!」と嬉しそうに僕の方を振り返る。
「後で触らせてあげるから。
ほらこっちきて。もううどんのびのびだよ」
「う、うどんが……!」
慌てて箸を持って莉望はいただきますの言葉と同時に食べだす。
「あふいよ!? へいはんもひほふへへ」
多分莉望は熱いこと、そしてそれに気を付けた方がいいことを言ってるのだろう。まったく、口に入ったまま喋って……。
困ったものだと思いながら僕はふーふーと、麺に息を吹きかけていた。
「ほんとに熱いからね?」
隣で舌を出しながら悲しそうに下がり眉をしている莉望に、僕は「それは莉望がバカだからでしょ?」と意地悪を言って麺をすすった。
「バカってなによう……。バカっていう方がバカなんだから!」
「それなら莉望はほんとにバカなんだね。さっき僕にバカって言ってきたから」
意地悪を続けると、莉望はほっぺたをぷくっとさせて怒っているものだから、僕はそのほっぺたを押しつぶした。
「冗談だから。ほら食べて?」
ほっぺたが元に戻った莉望は「冗談でも言っちゃダメなんだよ?」と僕をじとー、と見てから麺を口に運んだ。
「そういえばさ、ご飯運んでくれるのってなんで夢送り師さんなのかな?」
「できる人が少ないからじゃない?」
「ふーん、大変そうだね」
「まあそうだね。こうやって頼むか、外に出て趣味でお店をやっているところに行くかしか食べることはできないし、利用する人は多いんじゃないかな?」
僕がそうやって説明すると莉望は突然こんなことを言い出した。
「じゃあさ、アルバイトとかできないかな? それで、夢送り師さんを手伝うの!」
その時の莉望の顔はというと、目を輝かせて面白そう! と言っているような表情だった。
僕は慌ててその暴走列車、莉望を止める。
「いやいや、そんなこと――」
「きっと眠夢様に頼めばできるよね!」
「ちょっと、もう夜だよ!?」
「だって思いついたときにやらなきゃ! いつ死んじゃうかわかんないし!」
いやいや、莉望はあと3年、僕はまだ99日この世界と契約してるんだから……。
頭の中で莉望を止める言葉を考えたが、どう考えたってこの純粋まっすぐバカが僕の言葉に耳を傾ける気がしなくて、ついには「今日はもう遅いから明日ね」と僕が降りることに。その言葉に莉望はなんとか納得したようで「しょうがないなぁ」と一言。
こうして明日は“アルバイトの申し込み”という少し不思議な予定が立った。
でも、その前に僕はまだまだ彼女に振り回されることになる――。
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