第43話 暴走列車(2)
ご飯を食べ終わった僕はふぅ、と落ち着く暇もなく、莉望から質問攻めを受けていた。
「ねぇ、これ何するものなの?」
「プログラミングだよ。ゲームを作ったり、サイトを作ったりするんだ」
「じゃあこれは?」
「それはゲームで遊ぶものだよ」
「へ~」
部屋の中をぐるりと見渡しながら莉望はまた「これって……」と言葉を濁らせた。
莉望が見ていたものは“銃”であった。
「それはおもちゃだよ。撃って的当てしたり、サバイバルゲームって言って人と対戦したりするんだ」
「そんな物騒な……。景さんって実は悪魔みたいな人なの?」
ほんとにこの子は人の事を神様だとか、悪魔だとかひどすぎる。しかもそれを冗談で言わないから、なおさらたちが悪い。
やっぱり純粋まっすぐバカだ。
おまけに本当に怖そうな
「悪魔じゃないよ。サバゲーにも大会があって優勝すると100万円とか賞金がもらえる立派なスポーツだよ」
怖いものでないと説明すると、なんだか逆に言い訳に聞こえる気がして、本当にこれで僕が悪魔じゃないことをわかってくれたか不安になる。
莉望はというと……なんだこの顔。よくわからない顔をしている。
「莉望、どうかした?」
「え! あ、う、ううん。なんでも!」
僕は歯切れの悪い莉望の返事にもやっとした。
「何、莉望。はっきり言いなよ」
「いや、大したことじゃないんだけどさ、私をこの世界に連れてきてくれた継承元の人は私にとって神様だって言ったでしょ? それが景さんであるわけで、今の所景さんの嫌なところが見えなくて、ほんとうに神様なのかなって……」
「そんなわけないよ」
僕は思わずふきだした。でも驚いた。莉望が僕の事で悩んでいるなんて。
「莉望。僕はたまたま莉望を継承先に選んだだけだよ。
こうやって出会っていなかったら、莉望が病気だったことだって、僕の行動によって救われたことだって知らなかった。だから莉望を幸せにしようとする神様じゃない」
「じゃあ、もっと悪い人でいてよね。それこそ銃で人を撃ってみたいから銃を壁に飾ってるとか!
じゃないと神様じゃないってわからないでしょ」
そう莉望は笑った。曇りのない笑顔で。
僕はそれを見て安心する。
「ねぇ、莉望はゲームやったことある?」
「あるわけないじゃん!」
「じゃあやろうよ。たのしいよ」
僕は莉望にコントローラーを渡した。受け取った莉望はそれを逆さまに握る。
「あはは、莉望それ逆さま」
「え! こっちなのね?」
「そうそう。まずは簡単な的当てゲームにしようか」
僕はそう言って風や弾圧などを考えず、ただまっすぐ的を狙い撃つだけのゲームを選んだ。
「左手でカーソルを合わせて右のAボタンを押すと、ほら、こうやって当たる。
時間内にたくさん落とした方が勝ちっていうゲーム」
「えっと、こう?」
「おしい! もうちょい左だね」
練習モードに夢中になる莉望に僕はアドバイスをした。
「こうね! やった、あたった!」
「すごい! センスあるんじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ。初めてのゲームでこんなに早く当てられるんだから」
僕が褒めると莉望は嬉しそうに笑った。その顔にドクンと心臓が跳ねる。でも僕はそれに気づかないように話し出す。
「じゃあ対戦しよっか。制限時間は1分で、僕は最後の10秒だけプレイするから」
「え、それじゃ不公平じゃん」
「絶対勝つから大丈夫」
「なによそれ! 絶対負けないんだから!」
むきになった顔で莉望は画面をかじりつくように見ていた。
「準備ができたらRとLを同時に押して。スタートするから」
「わかった」
莉望はそう言ってゲームを始めた。部屋に銃声が響く。
僕は莉望の手元を見ていた。
ほんとバカみたいにまっすぐなやつ……。
「
残り10秒で画面左上から右下に流れるように僕は銃を撃った。
僕の画面に“WIN”の文字が表示される。
結果は僕が20で莉望が12だった。
「ちょっと20って……、1秒に2個も撃てるの!?」
「撃てるよ、莉望も絶対できるようになる」
「別になりたいわけじゃないんだけど!
でもすごい。こんなんじゃ一生勝てないよ」
莉望は少し残念そうに、でも楽しかったのかふんわりとした笑みを浮かべていた。
「莉望、もう一回やる?」
「やっても結果は同じだと思う……」
「……だから?」
莉望の言葉を僕はうまく理解できなかった。すると莉望は悲しそうな顔をした。
「こんなへたっぴとやっても景さん楽しくないでしょ?」
「楽しいよ!」
僕は迷いなくそう言った。楽しくないわけないじゃないか! 約2年、僕は一人でゲームをしてきたんだから。
そういえば、堀部さんも僕と出会った日、こんな風に思っていたのかな?
あの日を思い出して僕は懐かしい気持ちに
「ねぇ、莉望。莉望さえよければ僕と遊んでよ。
僕は久しぶりに人と対戦して楽しいんだ!」
僕の言葉に莉望は微笑んだ。
「いいよ。遊んであげる。でも次は景さんが一番下手なゲームにしましょ! もしかしたら私にとっては簡単で勝てるかもしれないから!」
こうして僕らは夜が更けるまでひたすらゲーム大会をした。
ちなみにまだ僕が莉望に振り回されるのは終わっていない──。
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