第44話 暴走列車(3)

 沢山のゲームをプレイして、莉望が「勝てないじゃん!」と不貞腐れ始める頃、僕は時計を見て莉望に寝ることを提案した。

 すると莉望は「たしかに眠いかも」と返事をした後、僕のことを見上げるようにこう言った。



「ねぇ、寝つくまで手を握って欲しいんだけど……」


「え!?」



 思いもよらない言葉に僕は驚きを隠せない。



「だから、その、私の部屋に来て手を握って?」


「な、なんで?」


「なんでって、ベッド変わって不安なの」



 莉望はそう言って、いいでしょ? と言うように首を傾げた。

 本当にずるい。そんなお願いの仕方をするなんて、断れるはずがないじゃないか。



「いいよ」



 僕の言葉に莉望はパッと明るい笑みを見せた。



「えへへ、ありがとう」



 こうして僕らは莉望の部屋へと移動した。






 莉望は部屋に着くとふぅ、と息をつき、例の機械を手にした。



「これを腕に巻けばいいんだよね」



 僕は莉望の質問に頷いた。莉望はそのまま機械を腕に取り付ける。そして布団に横になった。



「この布団、少し固い」


「寝れる?」



 莉望の言葉に僕は心配しながらまた彼女の手に触れた。



「多分大丈夫」



 返事をして僕の手を握り返す莉望はゆっくり目を閉じた。


 サラッと莉望の髪が引力の方向に落ちる。それに反応しない莉望の無防備な姿に、僕は何も考えないようにした。






 もう寝たかな……。

 僕は莉望の手のひらから自分の手を抜いた。暖かい右手をにぎにぎしながら部屋に戻り、僕も眠りについた──。






 ******






 目が覚めた。なんか、体が疲れている気がする。


 ガタン! 隣の部屋から物音が聞こえる……。

 隣の部屋!?

 あ、そうか莉望が来たのか……。

 !! 莉望は大丈夫なのか!?






 僕は慌てて莉望の部屋に入った。



「莉望! 大丈夫か?」


「景さん、助けて! なんか布団が変なの!」


「何したの?」


「なんもしてないよ!? でも布団がやっぱり硬かったから柔らかいといいのに、って思ったら、布団が急に餅みたいにとろけだしたの! 嘘じゃないよ? ほら」



 莉望はぽよんっと、人差し指で布団を触った。

 めっちゃ気持ちよさそう……、ってそうじゃなくて!



「じゃあさっきの音は?」


「それはこの布団にびっくりして床に落ちちゃって……」



 そう言って恥ずかしそうにおしりを撫でる莉望。



「ねぇ莉望。布団の上、乗ってもいい?」


「いいけど危ないよ?」


「わかった」



 僕は大の字で莉望の布団に飛び込んだ。

 ポンと跳ね返るそれはまるで、トランポリンのようだ。

 もう一度そのベッドに触れるとき、僕はこう願った。


“これが元に戻りますように”


 柔らかいときに体は沈み、願いが叶うことで布団が硬くなり、体が上に押し上げられた。



「あはは、これ楽しかったけど少し怖いな」



 元に戻った布団と、それに寝転ぶ僕を見て、莉望はぽかんと口を開けている。



「莉望? どうしたの?」


「どうしたの、はこっちが言いたいんだけど」


「冗談だって。莉望、驚かずに聞いてね。

 ここはね、莉望の、そして僕の、さらにここに住むみんなの夢の中だよ」



 僕の言葉に莉望は眉を寄せた顔をする。

 普通の反応だろう。だから僕はこう言った。



「この世界では想像を“ゆめ”と言うんだ」


「想像が“ゆめ”……?」


「そう。この世界事体が眠夢様の想像ゆめでできているんだ」



 莉望は目をキラキラさせた。



「じゃあ、眠夢様は神様なのね!」


「ん~、どうだろ……。でも眠夢様がいなかったらこの世界、夢遊界はできてないよ。絶大な力があることは確かだね」


「そうなんだ。眠夢様はなんでこの世界を作ったんだろうね?」



 興味が移り変わる莉望は、想像するように目をつむりながら手を頬にあてた。

 そしてパチッと目を開けたとき、僕としっかり目が合った。



「また私のこと見てたでしょ」


「え、あ、うん。まだ説明したいことあったから」


「そうなの?」



 そう言って莉望はベッドに腰を掛けた。そして座ったままの僕の膝に頭を乗せる。つまり膝枕だ。



「ちょっ、莉望!?」


「なあに、景さん」



 僕が莉望を見ると、そのまま目が合う。気まぐれな莉望の行動に僕は頬が熱くなった。この心臓の音が伝わってしまいそうで、喉から無理やり音を出した。



「ちゃんと説明しないとだから起き上がって。これは莉望がやらないとなんだ」



 僕は莉望に、僕らが持った不可解な力について説明した――。



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