第16話 過去(7)

「やった!!! 優紀さんに初めて勝ちました!!」



 リザルト画面に出る結果を見て、楓は両腕を天井に向かって突き上げた。



「悔しい……。にしてもこれムズいな」


「ムズすぎますかね……?」



 不安そうに顔をしかめる楓に俺は言葉を繋ぐ。



「いや、これくらいの方が大人は夢中になるかもしれないな。子供向け用があったらなおいいかもしれん。

 瞬発力がある方が有利だから俺は楓に一生かかっても勝てない気がする」


「いや優紀さん慣れたら絶対強いやつですよ。

 子供向けですね。ちょっといじってみます!」



 そう言ってプログラミング用PCに座った楓はメガネをかけた。



「よければ遊んで行ってください。普通のゲームも入ってますし、僕が作ったゲームもあるので!」



 こうして、楓の作ったゲームをひたすら遊び、改善点を話し合う日々が始まった。

 俺はゲーム好きだが、素人目線で考えるのは大変だし、リピーターの付くゲームにするためにはどうしたらいいかが分からず頭を悩ませた。






 そんなある日、あの喫茶店で体験ブースを用意してもらえることになった。



「一回僕たち以外の人にプレイしてもらってアンケートとってみようと思いまして、マスターに相談したら場所を貸してくれると言ってくれたんです。

 2週間後に行えるように準備していこうと思っているんですが、手伝ってもらってもいいですか?」



 積極的に話を進めてくれる楓の話に、俺が頷かないわけがない。むしろ、やるからにはいいものを作り上げたいという気持ちに俺の心はいていた。



「それで、優紀さんにはゲーマーさんに声掛けしてほしいんです。宣伝というか……。なので今日はゲーセンに出かけようかと――」


「俺一人で行ってくる。楓はここで仕上げてほしい」


「僕も行きますよ。仕上げるのなんて、夜でもできます」


「お互いやることを分散してやろう、と言っているんだ。ゲーセン運営は2人でやると決めたんだから楓ばかり頑張るのは俺が困る」



 俺の言葉にクシャっと笑って楓はこう言った。



「ありがとうございます。優紀さんと出会えてほんとうによかったです。

 ゲームは僕に任せてください!」


「おう。それじゃ行ってくる」



 照れくさいことを言うもんだから、俺は平然を装って楓の部屋を後にした。そして緩み切った頬ほパンッと叩き、ゲーセンに向かったのだ。






 ゲーセンのドアをくぐり、きらきらとした音を浴びた。入った瞬間にここがゲーセンなのだと理解させる空気感に鳥肌が立つ。そしてそれがワクワクしていることの証明だと感じた。


 対戦型ゲームのコーナーへ足を運び、格ゲー台の列の最後尾に並んだ。じきに俺は台に座り、アーケードスティックをかぶせで掴む。

 始まるまで集中力を高め、楓のゲームで鍛えられた瞬発力を開始の合図で繰り広げる。

 あっという間に俺の操るアバターは敵の懐に入り込んだ。“WIN”と画面に表示をされ、対戦相手が席を立とうとした時、俺は話しかけた。



「2週間後、近くの喫茶店で俺の友達が作ったゲームの体験会を開くので、もしよかったら来てください。

 今日は対戦ありがとうございました」



 ぺこりとしてから後ずさりをするように対戦相手が去っていく。

 そんなプレイヤーばかりで不安が募った。本当に来てくれるのか、俺のせいで楓の苦労が無駄になったら……。

 そう考えながらも勝つ度に対戦相手に話しかけた。






「優紀さん! やっぱり、まだここにいたんですね」



 楓がゲーム台に駆け寄ってくる。



「すまない楓。あまり手ごたえがないんだ……」


「大丈夫ですよ。ゲーマーたちは面白いことに引き付けられる生き物ですからきっと来ます!

 それよりマスターの店にディナーに行きましょう」



 楓の言葉からもう日が暮れていること知る。昼から何も食べていない体は時刻を確認してやっと腹を鳴らしたのだった――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る