第15話 過去(6)

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 その後、楓の家に行くと、家の中は今の俺の部屋みたいになっていた。ゲーミングPCやプログラミング用PC、立体音響のスピーカーなど、高価なものばかり並んでいた。見れば分かる金持ちの楓に思わず足が震えた。



「これ全部楓のか?」


「そうです。ごちゃごちゃしててすみません」



 と足元に落ちていたコントローラーを拾い上げる。



「凄い金持ち、なんだな」


「いやいや……たまたま夢を5個見るんですよ。というか見れてたので作れるんです」


「5個も!? 俺の5倍の給料……」



 俺は頭がクラついた。俺の5倍も差があることを知り、人生のハードモードを実感したのだ。しかし、それを上回る衝撃がこと後に走った。



「まあ、そうですね。

 僕はこの仕事好きじゃないんですけど」


「……無理しなくても金が入るのにか?」



 冗談かと思った。いや、冗談であって欲しかった。俺からしたら嫉妬するレベルで羨ましいことだから。



「はい。なんか夢を見れないって寂しいんですよ。夢を見るのが当たり前だったから、いや、夢を見ることで未来を見ていたから。それが明日を生きる力になってたんだと思います。

 だから今の夢が見れない生活は僕にとっては結構キツいです」


「……そういうもんなのか」



 若いのにしっかりとしたことを言い出す楓はどこか大人びでいた。いや、損得感情でしか物事に取り組めない俺が子供すぎだということを思い知る。

 そんな俺にお構いなしな楓は2台のゲーミングPCに電源を入れた。


「実はもう出来てるゲームがあるんです。それを優紀さんにプレイしてもらいたくて誘いました。

 とりあえずなんですけど射的ゲームです。1度やってみるので、見ていて貰ってもいいですか?」



 俺は楓の問いかけに「おう」と返事をして、椅子の後ろ側から画面を覗く。

 映っていたのは宇宙空間と対象物、ぬいぐるみやロボットなど、それこそ夏祭りの射的をイメージさせるものが浮遊していた。



「ここがリロード、ここが発砲です。この箱を撃ち抜くと、弾が追加で手に入ります。

 イメージとしては背景の通り宇宙なので、射的対象が無重力で浮いている感じです。なので、発砲するとその風圧で周りのものが吹っ飛んでいく形になります」



 説明しながらバンバン打っていく楓を見て、俺はうずうずしていることに気づく。



「ポイントによって対象物が徐々に小さくなっていきます。ここが普通のゲームとの違いかなと思うんですが、これで楽しいか感想をお聞きしたくて……。

 ポイントはここに書いてある通りなります。ちなみに銃弾はポイントが最も少ないので、最低限打ち当てることが勝利の鍵になるかと。

 制限時間は3分で、最終的にポイントが多い方が勝ちです!」



 楓は一通りの説明をし、右上にあるメニューを押した。“ホーム画面に戻る”のボタンを押して画面を元に戻した。



「1人でプレイしてみますか? 対戦モードもあるんです」


「じゃあ対戦がいいな」


「対戦モードは邪魔ができる扇風機の対象があります。これを撃つと相手画面中央に風が吹くように、画面外側に対象が寄ってしまいます。

 ですが扇風機はポイントなしなので、使いどころがものすごく肝心です。

 とりあえずやってみましょうか! 見るよりやってみた方がいいこともあるので」



 と言いながら楓が隣の椅子を引いてくれる。

 俺はその椅子に座ってゲーム開始の1歩手前まで画面を進めた。



「準備がよければ開始を押してください」



 初めてやるゲームのワクワクはどうしても表しきれないが、背筋にブルっと震えが伝わるのが分かる。それを落ち着かせるように深呼吸をして、俺はゲームモードに入った。そしてAボタンを押した。





 カウントダウンが始まると、一気に指先に神経が集まる。開始0コンマ0秒以下でポイントが取れるか、瞬発力が試されるゲームはざらにある。

 多分、最初の一撃は俺の方が早かった。だが、このゲームは無重力設定で次の狙いを定めていても、定めた場所から動いてしまうのだ。それも予想外の方向に。

 これは高度の瞬発力が発砲する度に必要である。

 そして俺はそれに慣れる間もなく、制限時間が終わってしまったのだ――。



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