第36話 病(2)
私はまた息を飲むことになったのだ。
お腹が空いた正午。いつもどおり運ばれてきた病院食。
当たり前のように体を起こして、私は看護師さんに向かって疑問を投げた。
「あれ? ご飯昨日と同じ?」
「え、何言ってるの? 莉望ちゃん。昨日の昼はチキンで夜は野菜炒めだったでしょ?
ん~、検査で疲れちゃったのかしら。午後はゆっくり休むといいわ」
看護師さんの言葉を耳から流して、昨日を思い返す。
確かに昨日の昼も夜も、今目の前にある
でも、私はあの検査結果の夢を見る前に餃子を食べて……。
――息を飲んだ。
頭の中で考えて整理したとき、さっきの事が胸に浮かんだ。
また夢と同じことが……。
美味しい。
頭を使って疲れた体に、私はわけも分からないまま、餃子を運んだ。
食べ終わって、歯磨きをし、横に置いてあるノートに私は今現在起こっていることをまとめた。
本当に理解ができなかった。歯磨き粉のようにスカッとしたらよかったのに……。
夢の事を考えていると、昨日見たもう一つの夢を思い出した。
普段めったに来ないお父さんが仕事帰りに姿を見せにくる夢。
流石に今日に限って来るはずないだろう、そう思い私はベッドでゴロゴロと過ごした。
――部屋のドアが開く音がした。
私は看護師さんかと思い、体を起こす。
「なんで……」
「莉望の検査結果を聞いたんだ」
ドア前に立つお父さんがそう言った。
また夢の通りだ。背筋が凍るような感覚がした。
「都合よく来ないでよ」
私は混乱のあまり、お父さんに心にもないことを言ってしまう。
「すまなかった莉望。仕事を言い訳にして顔も出さず――」
「聞こえなかったの!? 帰って! 帰ってよ……」
私は怒鳴り泣き散らかした。何が起こっているかわからない。怖い、怖いよ。死ぬ前兆なのかな……。
制御できない私の姿に、お父さんは申し訳なさそうな顔をして「また来る」と背中を見せた。
お父さんが帰った後、私は布団にもぐりこんだ。
どうして、何が起こっているの? 急にこんな……。
17と未熟な私には、普通教育を受けたことがない私には、胸に咲いた不可解な感情はうまく飲み込めなかった。それどころかお父さんにまで吐き出して、もう取り込みたくないと夕飯を食べることもできなかった。
******
「今考えると、私の神様が能力をこの日の前日に継承してくれたんだと思う。
って、景さん!?」
僕の視界は歪んでいた。それを気付かせたのは莉望の驚いた声だった。頬に伝った涙を手で拭いながら「ごめん」と声を落とす。
でも僕はこの“ごめん”が継承してしまったことになのか、涙をこぼしてしまったことなのか、それともどちらもなのか、よくわからなかった。
「全然大丈夫だけど、景さんは大丈夫……? 泣くことないよ? 安心して、困ったことばかりじゃなかったから」
そう言ってパッと笑顔を見せる莉望に心なしか、僕の心臓がドクドクと反応した。
莉望はそれにお構いなく、続きを話すのだった──。
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