第2話ㅤ始まり
暖かい……。目が覚めると、自分の身はベッドに包まれていた。それに驚きながらも身体を起こした。
自由に動く身体。あ、あ、と声を出してみる。いつもと何も変わらない。
僕はこれが死後の世界なのか、と自分が死んだ事実と結び付けて納得した。
「目覚めたか。それじゃ行くぞ」
僕は聞こえた低い声の方を向いた。見ると、40代くらいの男の人がドアの前に立っている。周りを見渡しても、ベッドと時計しかなく、壁は白塗りだ。見覚えのない、まるで病室のような部屋。ここはどこだ……?
思わず名前も知らない彼に問いを投げかけた。
「あの……ここはどこですか?」
「行けばわかる、来い」
僕の質問をぶっきらぼうに答えた彼は、こちらを見ることもせずに、ドアの向こう側へ消えていった。
僕はその人を追いかけるように慌ててベッドから降り、部屋のドアを開けたのだ。
「待ってください」
そう言って男の人に駆け寄った。
「あの……、名前を、教えてください」
「
表情も一切変えずに苗字だけ答える。無愛想な人だなとか下の名前はなんて言うんだろうと考えた。僕は関わる人のことをなるべく知りたいタイプだ。
「堀部さん、ですね。よろしくお願いします。僕は──」
「
僕は驚いた。けれどその驚きを隠すように続けた。
「どうして、僕の名前を知ってるんですか?」
「当然だ。俺はお前の仕事説明の担当者だからな」
「その、答えになっていません。それに、仕事って……?」
僕は身に覚えがない〝仕事〟に疑問を浮かべた。そもそも今まで学生であったし、仕事なんてできるはずがない。そう思っていたから堀部さんの次の言葉がさらに胸に引っかかった。
「俺たちは生まれた時からこの仕事に就く運命だったんだよ。しゃーねぇから着くまでに説明してやるよ」
堀部さんはため息を挟んで、僕にこう言った。
「ここは夢製造所と言われている」
聞いたことも無い“夢製造所”という言葉に、僕は思わず眉間を狭める。
「夢製造所……?ㅤ夢を作ってるんですか?」
「そうだ。俺たちの手で、毎日毎日作るんだ」
ヘッ、と堀部さんは嫌そうに笑う。
「でも、どうやって……」
「お前、夢のでき方は知ってるか?」
彼はそう言って初めて僕の目を見てきた。その純度の濃い黒色の瞳に僕は見入りながらも「は、はい。雑学レベルでは」と戸惑いながらも答える。
「人間界では夢を見る睡眠のことをレム睡眠と言うだろ?ㅤそしてレム睡眠は意識がある睡眠のことだ。だが実際はレム睡眠時に夢を見ていない」
「え……」
どういう事だ。17
「レム睡眠で意識がある時、その意識が夢を作っているという考え方だが、そうじゃない。人間が見る全ての夢はここ、夢製造所で作られている」
「その、よく分かりません……」
「ここで夢を作って現実世界の人間の脳に直接届けているんだ。たまたまその時に意識が薄らでもあれば夢という形で現れる。だから意識がある時に夢を見るのは間違ってはいないが、意識が夢を作っているということは間違いになるんだ」
「待ってください!
じゃあここは……、この世界はなんなんですか!?」
「このドアの向こうに行けばわかる」
堀部さんがドアの前で足を止めた。僕もその隣に並ぶ。
「この向こう側にいる方はここの最高責任者だ。無礼のないように」
そう言って堀部さんはノックしてドアを開け、そのまま床に跪いた。
僕はこの部屋の中で知らざるを得ないことを聞かされる、運命だったのだ──。
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