第8話ㅤ親睦

「そうか。

 あ、いいのがあるじゃねぇか」



 堀部さんはそう言って僕の前に2Lコーラとグラスを置いた。



「俺はビールだけどな」



 プシュッと缶ビールを開けてグビっと1口飲んだ堀部さんは、頬を上げて幸せそうな笑みをこぼす。



「うっま! お前も飲めよ」


「じゃあ、いただきます」



 と言いながらグラスに注いだコーラを口にする。

 本当にコーラの味だ。



「ここでもコーラとか飲めるんですね」


「あぁ、報酬で向こうの世界のものは頼めるぞ」



〝向こうの世界〟か……。堀部さんの言葉から昨日までいた世界とは全く違うことを実感する。



「報酬ってどんな感じなんですか?」


「俺の場合1等だから夢1個5000円。3等だと夢1個につき1000円とかだったな。これをつけて寝た時に見る夢の量で、報酬が手に入るんだ」



 そう言って堀部さんが手に取ったのは、こう、なんとも言い難いものだった。リストバンドにチューブがついたような、血圧計の手首に撒くバージョンのような、とにかく特別大きな機械とかではなく、輪っかと管のついたものなのだ。

 チューブの先はどこに向かっているか目で辿ると、ベッドの頭の方に伸びている。



「その、何をするものなんですか?」


「簡単に言うと、俺たちが作った夢を取り出すものだ。まず頭から枕へと取り出すんだが、体に負担の無いようにリングから手首の脈を測っているらしい」



 なるほど……。なら管の先は枕になるのか。



「すごい仕組みですね」


「詳しくは講習会に参加すればわかる。案内が部屋に置いてあるはずだ」


「ありがとうございます」



 一旦終わった会話に僕はコーラを喉に流してコントローラーを握り直した。



「次はなんのゲームします?」



 その言葉に分かりやすく反応する堀部さんは「何がいい?」と画面にたくさんのゲームを表示した。



「もしかしてこれ、全部作ったんですか?」


「まあ寝る時以外は暇だからな。ゲーセンの対戦型ゲームを制覇しきってからはずっと部屋に引きこもって生活してる」


「げ、ゲーセン制覇!? ってかここにゲーセンもあるんですか?」



 身近な物があることを知ると、本当に自分が死んだのかさえ危うくなる。もしかしたら僕は長い夢を見ているのかもしれないと。

 まあ、これが夢だったら正夢になるから、結局、車には轢かれることにはなるのだけど。

 なんて余計なことまで考えているうちに堀部さんが言葉を並べていた。



「あるというか作るというか……、想像することで作り出して他の人に共有する仕組みで、作り出した本人はお金をやり取りすることが許されているんだ。環境を整える労力の代わりに金稼ぎができるシステム。幸い、暇を持て余してる人が多いから娯楽施設には人が盛りだくさんだ。

 明日でよければ行ってみるか?」


「ぜひ行ってみたいです! よろしくお願いします」



 こうして決まった明日の予定について話しながら、一通り全てのゲームをプレイした。

 夢中になって時間を忘れていたため、気がついたら夜の23時を回っていた。

 夜……。僕は今日は夢を見れるのか、そんな不安が僕の心をにごらせた──。



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