第13話 過去(4)

「あ、堀部さん」



 目を開けると堀部さんが天井に浮かんでいた。僕は寝起きの体を起こしてんー、と伸びをする。



「おはよう。おつかれだな」


「すみません、寝てて……」


「仕事だから謝ることじゃねぇって」



 ハハッと笑った堀部さんは「ここ座る」と言って僕の隣に座った。



「さっき、楓とランチに向かう所まで話したよな?」


「はい。聞きました」


「そのご飯の時に俺は衝撃的なことを言われたんだよ」



 堀部さんは少し遠くに目線を送って、懐かしむような穏やかな表情で話しだした。






 ******






 楓の言われるがまま、引っ張られるがままにおもむきのある喫茶店に入った。



「マスターこんにちは!」


「おぉ楓、久しぶり」


「そうですね。お元気でしたか?」


「おかげさまで。今、お水持ってくから適当に座っててな」



 そう言われて窓側の席へと座った。



「ここのマスターは僕の仕事説明の担当さんだったんですよ」



 やけに仲がいいと思ったら仕事むゆうかい関係の人だと知った。



「マスターのナポリタンが絶品で、ぜひ食べてもらいたいなって思ったんです。

 優紀さん昨日の夜食べてないでしょう?」


「そうだな。腹減ったよ」



 おしぼりとお冷を置きに来たマスターに楓がナポリタンを注文する。

 そしてナポリタンが来るまでの間に楓にこんなことを聞かれた。



「優紀さんにずっと聞きたいことがあったんですけど、どうしてゲームがそんなに上手なんですか!?」


「昔、プロゲーマーだったんだよ」


「プロゲーマー!? 凄いですね! 通りで適わないわけです」



 目を見開いて褒め言葉を投げかける楓に嬉しくなるも、照れを隠すように「大したことじゃない」と俺は言葉を投げた。



「じゃあゲームが好きなんですよね!」


「そうだな」


「これは提案なんですけど、もしよかったら一緒にゲームを作って、ゲーセン運営とかしませんか?」



 ほんとにいきなりの提案で頭にはてなマークが浮かんだ俺に楓は「いきなりで困りましたよね」と焦るような、申し訳なさそうな顔をした。そしてこう続ける。



「僕、マスターみたいに好きなことでお金を稼いでみたくて……。ゲームが好きでプレイも上手な優紀さんと一緒なら最高のゲーセンが出来るんじゃないかなって思ったんです。

 返事は急ぎません。なので、もしよかったら考えてもらいたいなと……。えへへ、かなり図々しくてすみません」



 にへらと笑いながらも下がり眉の楓は、図々しさよりもなんとなく可愛げがあった。

 この時の俺はやりたいことのある楓に尊敬の眼差しを送っていただろう。今まで金を稼いでゲームにつぎ込むことしか考えてなかったからこそ、楓のという意思を聞いて、少しでも力になりたいと思ってしまった。

 それだけじゃなく、1度助けて貰った仲である。楓となら、という風に思えた。上手く言葉にできないが、楓とであれば大丈夫だと、根拠の無い安心感が俺の心の中で生まれていたのだ。



「俺、プログラミングできねぇけどいいのか?」


「もちろんですよ! 優紀さんとやりたいんです!」



 そう、半年と少し前のこの日を境目に俺のここでの生活が変わったんだ……!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る