第11話ㅤ過去(2)
「おはよう」
目を開けると、すぐ側に堀部さんがいた。僕は驚き慌てて体を起こす。
「すみません、寝てて……。おはようございます」
「いや、仕事おつかれさん」
「え……? 今仕事してたんですか? ただ寝てただけなんですが……」
「夢を見ることが仕事だからな。見ている夢が吸い取られることによって仕事が成立してるんだ」
「……じゃあ僕はもう、二度と夢を見ることが出来ないんですか?」
「あぁ、そうだ」
「なんか、上手く言えないんですけど……、夢を見ないのって寂しいですね」
「はぁ……。ほんと、そういう所だよ」
僕の言葉に堀部さんは下がり眉を見せながら笑った。それもすこし曇った顔で。困った僕を察したのか続けてこう言った。
「似てるんだ、楓に」
「楓さんに、ですか?」
「あぁ。さっきの続きを話すよ」
ゆっくり目を伏せた堀部さんは落ち着いた口ぶりで、続きの物語を話し始めた。
******
ゲーセンで倒れて、楓が眠夢様を呼んでくれた後、俺は眠夢様の力によって回復した。
眠夢様の力は簡単に言うと、常時レム睡眠という感じで、願うこと全てが起こるという奇跡の力だ。眠夢様はその力を使って、俺に体に支障の出ないように願ってくれたそうだ。
「もうこれで大丈夫よ、代田くんがすぐ報告してくれたから助かったわ。それに堀部くんを部屋まで運んでくれてありがとう」
「いや、僕は何も……、大したことしてないです。それに眠夢様が来てくれたおかげですので。本当にありがとうございます」
「それじゃあ、私は仕事に戻るわね。今日もお互い頑張りましょう」
「はい!」
回復した体がはっきりと目覚める前、俺の耳にはこんな話が聞こえた。
しばらくしてやっとの思いで体を起こすと、布団のガサつく音に反応したのか、楓が俺に飛びついてきた。
「睡眠薬の飲みすぎだと聞きました。なんでそんなことするんですか、やめてくださいほんと……」
震えた声は今でも覚えているのに俺はこう突っぱねてしまう。
「何も分からないくせに言うなよ!!!! 好きで薬漬けになってる訳じゃねぇんだよ!!!
お前みたいにへらへらしてる奴にはわかんねぇだろうけどな!!!」
さすがに怒るだろうと思ったが、楓は怒鳴ることなく、体を震わせてこう言った。
「僕はあなたの心配をしてるんです。あなたが倒れるのを見て怖くなったんですよ」
「関係ないだろそんなの……」
楓は泣くのを我慢するように口に力を入れていた。そして「今日はもう安静にしててください」と言葉を残し、部屋を後にしたのだ。
もううんざりしてるだろうと思ったが、楓は次の日も俺のところに来た。
「おはようございます。気分はどうですか?」
昨日のことがうそのように微笑む彼に対して俺は胸が痛んだ。いっそのこと怒鳴ってくれた方がいいと思ったんだ。
睡眠薬を飲む方がおかしいだろ? 助けてやったんだから大人しくしてろ! と。
だからそんな優しい彼に俺は気づいたら謝っていた。
「昨日は、その……すまなかった」
「別にいいですよ」
「その、なんで怒らないんだ? なんで俺なんかのこと助けたんだよ……」
「……僕にとって大切な人が重なったからです」
楓の頬を大きな涙が伝っていったのが見える。そして俺は楓の辛くて悲しい過去を知ることとなった──。
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