第31話 終点

 そして堀部さんの任期の日、堀部さんは僕に会ってくれなかった。

 ただ「元気でな」という言葉を僕の部屋のドア越しに残して、彼は最後の日を終えた。きっと堀部さんの事だから、会って別れを言うのは柄じゃないのだろう。でも、よかった。この顔を見られなくて。



「ありがとうございました」



 僕もドア越しに、精一杯の感謝を伝え、堀部さんを送り出したのだった。






 そして涙が乾いた頃、眠夢様が僕の部屋にやってきた。



「こんにちは中村くん。元気かしら?」



 僕は眠夢様と出会った時と同じ「普通です」を述べた。状況を上手く飲み込めなず、あの時と何も変わらない。



「そう。知っていると思うけど、堀部くんが任期を迎え、天国へ向かったわ」


「……」



 僕は黙ったままこくりと頷いた。



「それでね、堀部くんはあなたにこれを残したの。はい」



 僕が受け取ったのは『名義変更証明書』と大きく書かれた封筒だった。

 開けてみると、『名義変更品 : 部屋』と書かれている。


 ……? 部屋!?

 驚きのあまりに声が出ない。それを眠夢様に視線で訴えた。



「うふふ、びっくりよねほんと。

 なんと堀部くんの部屋が中村くんのものになったわ。

 それでね、今の部屋どうするって相談しに来たの。今のままにするか、隣の部屋に移って2部屋繋げるか。

 どうする?」


「え、あ、えっと……。その、堀部さんの部屋をそのまま使ってもいいですか?」


「あら、いいの? この部屋片付けちゃって」


「はい。堀部さんの部屋の方が思い出が詰まっているので」



 こうして堀部さんが僕にくれた堀部さんの部屋に入居することにした。

 暗がりにPCから漏れる光が溢れるこの部屋に僕は足を踏み入れ、堀部さんのゲームを楽しんだ。


 そうだ、このまま堀部さんの夢を叶えてやる!

 昨日みたいにゲーム漬けの堕落な生活をするんだ……!








 そして、そんな生活に当たり前に年月は過ぎていった。

 水色から青に、青から紺に服の色が変わり、実年齢19歳となった。さらに、いつの間にか任期まで半年を切り、残り100日となっていた。





 そう、この日。残り100日を堺に、僕が送ってきた堕落な生活に終止符が打たれる──。



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