第34話 死
眠夢様の所へと向かっている途中、彼女は繋いだ手を振り回したり、急にスキップし出したり、17歳とは思えないくらい子供らしい笑顔を浮かべた。
「私ね、ずっと病気で病院から出たこと無かったし、歩くのもほとんど許されなかったの。でも先生のところに行く時は歩かないといけなくて、そのとき看護師さんの手を繋いでたんだ〜。
だからね、こうやって自由に歩けるのも最高だし、景さんが手を繋いでくれるのも本当に嬉しいんだよ!」
「そっか、それは大変だったね……」
彼女の事情を知って、僕はさっきより強く手を握った。
「景さんがそんな顔しないでよ。ほら見て! 私の顔!
今とっても幸せなんだよ!!」
歯を見せて目を細めて笑う彼女に、僕はまたドキッとさせられる。
眠夢様の部屋の前に着くと、僕は彼女の手をゆっくり離した。
「ここだよ。この中にいる人に失礼のないようにね」
彼女は「はーい」と言いながら“気をつけ”の姿勢になった。それを見て僕はドアを開ける。
「失礼します。眠夢様、矢澤 莉望を連れてきました」
「あら、中村くんありがとう。
矢澤さんはじめまして。気分はどうかしら?」
眠夢様の言葉を聞くなり、莉望はにっと口を横にして笑い「最高にいい気分です」と答えた。
僕は2年前を懐かしく思いながらその様子を見ていた。その時、1人の夢送り師に僕は呼ばれた。
「この中で待機するように、と眠夢様が」
「わかりました」
「それと、これも眠夢様からです。“矢澤さんには継承者が中村くんってこと言わないから。伝えたければ伝えればいいし、そうでなければ伝えなくていいわ”と。」
「わかりました」
正直、ありがたい。莉望の様子からいくと、継承した僕に対して怒りはしなさそうだけれど、知ってしまえば今みたいな無邪気な姿は見せてくれないかもしれない。
そもそも、なんで私に継承したの? なんて言われたら僕は答えられないし……。
そんなことを莉望の継承が終わるまでぐるぐると考えていた。
莉望が継承を終えて、僕は彼女を部屋に案内した。
彼女の部屋はというと僕のお隣であった。
「ここが莉望の部屋だよ」
莉望は中を見るなり「わ! ここ病院!?」と大きくリアクションをした。
「あはは。そんな嫌そうな顔しないで。莉望の力で模様替えできるから」
そう言うと莉望は難しい顔をした。
「私の力……。でもこの力誰かに継承されたものなんでしょ?」
「まぁ、そうだね」
「いったい、誰が私に継承してくれたんだろう? その人のおかげで今とっても楽しいから、その人が私の神様ね!」
ぱっと明るい顔をする彼女に僕は「そうだね」と流すように答えた。
悟られてはいけない。だって僕が継承元だと知ったら莉望の場合ほんとうに神様扱いしそうだし……。
そんなことを考えていたら彼女は「さっき眠夢様が言ってたけど、仕事って結局何をするの?」と聞いてきた。
「仕事は機械をつけて寝るだけだよ」
「機械? ちょっと教えて!」
彼女はそう言って僕の腕を掴み、僕を部屋の中に入れた。
また胸がドクンと跳ねる。そもそも男の人を部屋に入れるのってどうなんだ? 一体どういうつもりで……。
彼女の顔をみて様子を伺おうとしたが、彼女の目には僕は映らないみたいで「なにこれ〜」と例の機械を持ち上げた。
「あ、ちょっと! 管が切れるよ!」
僕の声にビクッとさせて彼女は「ごめんなさい」としゅんとした顔を見せる。
ころころと変わる表情に胸を撫でられ、僕はあたふたとしてしまう。
「大きな声出してごめん。
それはね、輪っかを手首に通して使うものなんだ。管が切れると使えなくなっちゃうから気をつけて」
「うん、わかった」
彼女はそう言って笑った。試しに腕に通して「これで合ってる?」と聞いてくる。
僕は「合ってるよ」と言いながら仕事説明をした。
「ねぇ、景さんって何歳?」
突然彼女から問いを投げかけられる。
「19だけど」
「そうなんだ、若いね」
「何言ってるの、莉望の方が若いだろ?」
「そうだけど……景さんは病気で死んだわけじゃないんでしょ?」
そう聞く莉望は顔を
「交通事故も、仕方ないことだろ?」
「でも──」
「僕は大丈夫だから……そんな顔しないで」
言葉を間違えてないだろうか。
そして長い沈黙が流れる。
沈黙を断ったのは、またもや莉望の質問だった――。
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