第4話ㅤ手紙

『孫へ

 はじめまして、になるな。中村 景梧けいごという、お前さんの実の祖父にあたる。すまないが、お前さんの名前を知らんわけで名前で呼んでやることすら出来ないが、気分を悪くせずに読んで欲しい。』



 乱雑な文字で書かれた手紙、僕は本当におじいちゃんからなのか疑いを持ちながら読み進めた。



『まずお前さんに謝らせて欲しい。夢作りの能力を継承したのは私だ。そのせいでここで働くことになるがどうかそれを許して欲しい。

 本当は晴子はるこに継承しようと思ったがわしにはできなかった。』



“晴子”というおばあちゃんの名前を見て、僕はおじいちゃんからの手紙だとここで確信を持った。

 そして自分の夢作りの能力がおじいちゃんからの継承だと知り、謎が、心にかかったもやほどけていくようで、焦るように2枚目に目を向けた。



『実はわしは生きてる時、いつも晴子に見た夢を報告していたんだ。だがある日、突然夢を見ない日に出会った。そしてその夢を見ない日に私は死んだんだ。』



 この文を読んで僕と同じことが起こっていることに鳥肌が立った。

 全身が偶然ではないと悟った上、おばあちゃんの今朝の行動の意味に僕は気づいたのだ。

 おばあちゃんは今朝、僕が夢を見ていないことを伝えた時にきっと僕が死ぬことに気づいていたんだ。だから寂しそうな顔をして、おじいちゃんにお線香を上げた。

 おばあちゃんは1人になるのがわかっていた。それでも僕をいつも通り学校に送り出してくれたおばあちゃんは、きっと僕が死ぬことを僕に気づかれないようにしていたんだ。

 最後まで優しかったおばあちゃんに僕は一体何ができただろうか……。

 鼻がツンと痛んだ。どうしてこんな能力を持ってしまったのか、どうしてこんなに早く死んでしまったのか……、いや、もっと普段の生活からおばあちゃんに感謝を伝えておくべきだった。心も強くきしむように痛んだ。



『多分晴子は夢作りの能力を持った人は夢を見ない日に死んでしまうことに気づいている。だから晴子に夢作りの能力を継承することが出来なかった。判断に困ったわしはお前さんを継承先とした。

 お前さんに苦労をかけてしまい本当にすまない。

 その上にこの願いを記すことを許してほしい。どうかお前さんも晴子には能力の継承をしないでくれ。

 晴子はわしの最愛の人なんだ。』



 文はここで終わっていた。

 僕にとってもおばあちゃんは一番大事な人だ。

 この消化できない苦しみとも悲しみとも言えない、とにかくやるせない汚い感情をどうにかしてしまいたかった。全部捨てて泣き出したいという気持ちを抑えるために僕はゆっくり大きく息を吸って、その息を次の言葉とともに吐いた――。



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