第59話 探し物

 どこだどこだどこだどこだ!

 焦る僕はもう一度だけ莉望の部屋の中を確認して、廊下を走り出していた。

 できるだけ、多くの可能性を考える。莉望のことだ。眠夢様の所か、夢送り師のお手伝いか、昨日行った場所のどこかだろう。

 とりあえず、眠夢様の所に行けば、お話をしているか、お手伝いをしているかがわかる。そう思い、僕は眠夢様の部屋の前で上がった息を整えていた。






 ドアノブに触れた途端、手に握った汗が気になる。僕は手をズボンに擦り付けて、もう一度ドアノブに触れた。



「失礼します」



 ドアの先には莉望の姿はなかった。それを確認して眠夢様に無礼のないように頭を下げた。



「あら、景くん。どうしたのかしら」


「眠夢様、莉望を探しているんです。見かけませんでしたか?」


「莉望さんね。さっきまでここにいたわよ」



 僕はそれを聞いて腕を下ろしたまま拳を握る。



「なにか言ってましたか?」


「夢送り師のお手伝いについて話に来てくれたの。私が「いつでも大丈夫よ。来る時は連絡をしてちょうだい」と言ったら、「分かりました」とだけ言って帰ったわ。

 それからどこに向かったのかは分からないけど……」


「そう、ですか……。探してみます。ありがとうございました」



 僕は聞きたいことを聞き終わり、眠夢様に背を向けた。すると、眠夢様は僕の背中を押した。



「あんまり焦らないようにね。2人ならすぐに、必ず! 出会えるはずよ」



 と。僕はその言葉にもう一度頭を下げ、「失礼しました」と部屋を飛び出したのだ──。






 次は昨日のパン屋。多分、可能性なら公園の方が高いけれど、公園までの道のりにパン屋さんがあるためチラッと顔だけ覗く。しかし、莉望の姿はなかった。

 パンのいい匂いが僕の鼻を突く。そう言えば昨日の夜から何も食べていない。

 僕は急ぎながら、適当に目についたパンを購入した。

 そしてあの公園に向かったのだ。






 ──莉望の、ホワイトムスクの甘い香りがした。



「莉望!!!」


「あれ? 景さん?

 どうしたの、そんなに息をあげて──うわっ」


「どうしたの、じゃないよ! 心配した……」



 僕は莉望を思いっきり抱きしめた。それはもう、力いっぱい。



「ちょっと、その、苦しい……。

 それに連絡してくれればよかったでしょ?」


「あ! 連絡すればよかったんだ!」


「そうだよ~。でもよくここにいるってわかったね」


「莉望が行ったことある場所は少ないし、手あたり次第って感じだよ」



 僕がそう言うと、莉望は「だからパン屋さんの袋持ってるんだ」と笑った。

 その言葉に恥ずかしくなって袋を背中に隠した。



「あはは。景さんのことだから、ここに来る前にパン屋さんを一応って感じで覗いてきたんでしょ?」



 莉望は僕の心を見透かしてそう言った。僕は「そうだよ」という言おうかと思ったけれど、それは何となく恥ずかしい気がして、「パン、食べる?」と口を濁したのだった。






「帰ろうよ」



 お腹が膨れた僕に莉望は手を伸ばしてきた。その手に僕の手を重ねる。

 莉望の顔は夕焼け空のせいか赤く染まっていて、その様子に、莉望はやっぱり何にでも染まれる白色だと思ったのだ。

 ──僕にも染まって欲しい。そう思ってしまった僕は頭をぶんぶん振って気持ちを紛らわせる。

 そんな時、莉望は急に足を止めた。



「適当に歩いてきちゃったけど、こんな所にお花屋さんがあるんだね」



 並んだ数々の花に莉望は目を輝かせている。

 その様子に僕は「中、入る?」と尋ねた。もちろん、莉望は「はいる!」と勢いよく答え、僕らはお店の中に入ったのだ。

 そして僕の意志はまた揺らぐこととなる──。




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