第51話 お手伝い(1)

「夢送り師の仕事説明をするわね」



 眠夢様がそう言ってスクリーンを照らした。



「あ、その前に。莉望さん、これ」



 眠夢様から莉望へとピンクの箱が渡る。

 莉望は比較的大きな声で「スマホだ!」と喜びの声を上げた。



「昨日注文されていたから今日届ける予定だったの。仕事で連絡を取るのに使いたいから電源を入れてくれる?」


「わかりました!

 ……景さんどうやってやるの?」



 莉望が意気揚々と返事をしたわりに、下がり眉を見せて僕の方に振り返った。

 僕は「ここのボタンを長押しするんだよ」と教える。



「わ! ついたよ! すごいね」



 画面に光が灯っただけなのに満開の笑みを咲かせる莉望に、僕もついつられて笑った。

 その様子に眠夢様が「昨日の今日なのに仲がいいのね」と微笑み、仕事のやり方を説明をしてくれる。



「仕事は簡単よ。荷物番号とスマホに送ってある部屋の番号を確認して、お客様に届けるだけなの。マップも入っているし、間違えることはないと思うのだけど、何かあったらメッセージを送ってちょうだい。

 あと、もし不在だったら“不在連絡”をしないといけないから、その時も連絡して。事務で対応するから。

 なにか質問はあるかしら?」



 すかさず莉望は「景さんと2人で行ってもいいですか?」と眠夢様に質問した。



「もちろんよ。試しに3件行ってきてくれる?」


「「はい」」



 こうして3つの荷物を持って注文者の元に向かった。






「ねぇねぇ景さん。それ重くない? 大丈夫?」



 莉望が僕が運んでいる大きめの箱に心配してくれる。



「大丈夫だよ。中身はそんなに重いものじゃないみたい」


「そっか~。ならよかった!」


「でもスマホ確認できないから、道順は莉望に任せたよ?」


「大丈夫! きっとたどり着くよ」



 根拠のない自信でにへらと笑う莉望に、僕はまたドキドキしていた。






 しばらく歩くと、莉望が「ここ!」と足を止めた。



「よかった。ちゃんと着いた」


「も~。信じてなかったでしょ」


「だって莉望、病院で育ったからマップとか使えるのかなって――」


「使い方画面に出てたから大丈夫だったも~ん!」



 まるですごいでしょ、と言わんばかりのドヤ顔に、僕は思わず吹き出した。

 僕の様子を見て莉望は「そんなに笑わなくてもいいじゃない」とむすっという顔をした。



「だって褒めてほしいならそう言えばいいのに、そわそわしながらドヤ顔するんだもん。そりゃ笑うよ」


「む~。気づいたなら褒めてくれてもいいじゃん」


「だって、面白い顔するから――」


「やっぱりバカにしてたんだ!」



 莉望がじとー、とした目でこちらをにらんでくる。



「ごめんごめん。すごいよ」


「思ってないでしょー」


「いや、でも、莉望がいなかったらたどり着かなかったわけだし、助かったよ。ありがとう」



 僕がそう言うと、莉望は顔を、いや首から上を真っ赤にした。

 その反応に僕はドキリとした。

 僕と莉望の間に、変な沈黙が生まれる。




 カチャッ。

 立ち止まっていた部屋のドアが、僕らの沈黙に音をもたらした。



「部屋の前で何やってるんですか」



 中から青色の服の製造者が出てきて、僕らをキリッとにらんだ。

 僕が思わず「ごめんなさい」と謝る。


 莉望は慌てて僕が持っていた箱をその人に突き出した。



「これを届けに来たんです。部屋の前で立ち止まってごめんなさい。迷惑でしたよね……」



 しゅん、とした顔で莉望が頭を下げる。

 すると注文者はその箱を受け取って「届けてくれてあざす」と小さく呟いて部屋へと戻っていった。






 莉望が頭を上げて笑う。



「あはは、びっくりしたね。何とかなってよかった~」



 肩を落として笑うから強がりなんだと思った。でも実際、僕よりもずっと強くてかっこよかった。



「莉望、ありがとう。すごいよ、あぁやって対応できるの」


「そ、そうかな……?」



 莉望が頬に手を当てて喜ぶ。

 その様子にまた僕の胸は急に熱を持った。



「もう、何か言ってよ!」



 莉望が黙っていた僕を軽く叩いた。

 でも黙っていたかったわけじゃなかった。そもそも、僕が困っている。わけもわからない感情に振り回されて、言葉も選べないくらいに。



「はぁ……」


「えぇっ、そんなに痛かった!? ごめん」



 僕のついたため息に、莉望は心配と謝罪をしてくれた。僕は急いで「ごめん、莉望のせいじゃないよ」と伝える。



「そう? ならいいけど。あと、次の届け先は隣の隣の部屋だよ」



 そう言って、莉望は先を歩いた。








「お届けで~す!」



 お客様の部屋の前でノックをして、莉望がそう言った。



「ありがとうございます。ってあれ? 製造者さんじゃん」



 ドアから出てきたのは若めの女性だった。



「えへへ、そうなんです。夢送り師さんのお手伝いをしているんです」


「そうなんだ。若いのに偉いね」


「ありがとうございます」



 女性はチラッと僕の方を見て、「そうだ! ちょっと待ってて」女性は部屋に入っていった。そしてバタバタと玄関に戻ってきたのだ。



「あなた、これ、あげる。香水なんだけどね、よく考えたらここにいて使うこともなくて……。

 彼氏さんいるならあった方がいいでしょ?」



 そう言って女性は小瓶を莉望の手に置いた。



「あ、いや! その、この人は彼氏、なんかじゃなくて……」



 莉望は慌てながら顔を赤らめて否定する。でもまあ、その反応じゃ誰も信じないだろうけど。



「彼女が言っていることは本当で、僕は彼氏なんかじゃないんですよ。

 でも、ほんとにもらっちゃっていいんですか?」



 僕は莉望のフォローしながらお言葉に甘えてもいいのかと確認する。すると女性はえぇ、と微笑んだ後に「お仕事頑張ってね」と言ってくれた。



「「ありがとうございます」」



 僕らはそう言ってその女性とはお別れした。

 そして、次の届け先に向かったのだ――。



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