第28話 生活
「その、楓さんの言っていたことがわかるなって……」
僕の言葉に堀部さんは困ったような
「なんていうか、歳上で、やりたいことにまっすぐで、優しさもあって、いざ頼れる存在で──」
「そんなことない! それに楓は俺に頼ってなどしてくれなかった……」
してくれなかった……? ──もしかして堀部さんは楓さんに頼られたかったのか?
堀部さんは今にも泣きそうな顔を見せる。
「……楓さんに頼って、欲しかったんです、ね?」
「あぁ……」
堀部さんの目元がうるうるとしている。
僕はその涙がこぼれる前に急いで言葉を並べた。憶測の言葉を。
予想だけど、きっと堀部さんが悲しむ必要なんてないはずだから。
「多分ですが、楓さんは頼らなかったのではなくて、堀部さんが隣にいてくれるだけで十分だったんだと思います。
だって考えてみてください。“自分の夢に協力してください”って言って、力を貸してくれる人なんてそうそういません。もしかしたら堀部さんに声をかける前にも、誰かほかにも声をかけていたかもしれません。でも普通の人だったら聞く耳を持たないでしょう。
楓さんは堀部さんが協力してくれるだけで幸せだったんだと思います。ひとりじゃないという安心感を感じていたんだと思います!
だからきっと楓さんの“隣にいて欲しい”という願いを堀部さんは叶えていたんですよ。もちろん、ゲーセン開業の夢も」
堀部さんの頬をスーッと水が通った。そしてこう言葉を落とした。
「そう、だといいな……」
泣いているのに笑っているような、柔らかな声だった。
その声に安心して僕はもう言葉を発しなかった。
もちろん、堀部さんも──。
静かな外から堀部さんの部屋に戻って頼み忘れていたご飯を注文する。
時間が経ったおかげでさっきよりは食欲が湧き、僕もかなりの量を注文した。とはいっても、ゲーム大会をしようと話になって片手で食べられるようなものばかりになってしまったのだが。
こうして僕と堀部さんは昨日みたいにゲーム大会をしていた。もちろんあの罰ゲーム付きで。
そしてそれが日々の日課になった。
初めは夜だけだったが、だんだん昼もゲームをするようになって、罰ゲームの回数も1日2回に増えた。肝心な罰ゲームの内容はというと、ラストゲームの結果に納得いかなくて“もう1戦付き合ってもらう”だとか、“明日ゲーセン行きましょう”だとか和気あいあいとした内容であった。
昼夜どちらも堀部さんと過ごしすぎて、僕らはレム睡眠の時間もいつも隣にいた。相変わらず堀部さんはふわふわと浮いている。
魔法使いのような堀部さんとのんびりコーヒーを飲んで、まったりと過ごすレム睡眠時は僕にとって最大の癒しであった。コーヒーの香りと一緒に口から放つのは“もし生きていたら何をしていたいか”だとか、“もし過去に戻れたらどうしたいか”だとか。それこそ堀部さんのように、ふわふわと地に足のつかない話だった。
そんなある日の、堀部さんと出会って3ヶ月くらい経ったレム睡眠時、堀部さんはふわっとした願望を放ったのだ──。
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