第22話 朝(2)
「朝なんか食べるか? 食堂とかコンビニとかもあるぞ」
「いえ、僕お腹すいてないですし、お金もないので……」
「お金届いてるぞ。昨日の分」
堀部さんは枕元に置いてある封筒を指さした。僕はそれを手に取り中身を確認すると、きっちり3000円が入っていた。
「大事にしろよ? 今日のゲーセンくらいは奢ってやるから。予定通り11時出発でいいか?」
「はい」
「じゃあ準備してくる。またこっち来るよ」
そう言って堀部さんはドアの向こうに行ってしまった。
1人になった部屋は何故かつんと鼻を刺すような寂しさが溢れる。
そして脳裏に浮かんだ堀部さんの任期が、僕の足を動かした。
コンコン。ドアを手の甲で叩く。
「堀部さん、入ってもいいですか?」
堀部さんの部屋の前。僕の言葉に
「どうかしたか?」
「あ、いや……」
勢いに任せて飛び出してきたから言葉が上手く見つからなかった。
堀部さんはそんな僕の様子に「まあ入れよ」と広くドアを開けてくれる。僕はその優しさに甘えた。
「あ、ありがとうございます」
「なんかあったか?」
「いえ、その……ゲームしたいなって思いまして」
堀部さんの部屋を見て、昨日の夜を思い出す。あのキラキラとした時間をもう一度過ごしたい、という想いが心を膨らませた。それに堀部さんと居れるのが何よりも大事だった。
「お前の部屋はまだ何にもないもんな。
好きなだけやっていいぞ」
「堀部さんは──」
「歯磨きだけしてくるよ」
と言いながら奥に歩いていった。
僕はゲーミングPC前の椅子に座る。
「今な、銃の種類増やしてる所なんだよ」
歯ブラシを口から突き出した状態で戻ってきた堀部さんが言った。
「いいですね」
「弾制限がキツくなるように連射速度をギリキリまで高くしてる所だ」
「弾切れが怖くなりますね〜」
「そうだな。お前も何かこうして欲しいとかあれば言ってくれ。プログラムに組み込むから」
歯ブラシのおかげでかっこよすぎなくて済んだが、話しやすくて面倒見がいい堀部さんは尊敬できるいい大人だ。昨日の今日でそれがわかってしまうのは根っからのいい人だからだろう。
僕は堀部さんを憧れの目で見ていた。
「ありがとうございます。プログラミング出来るってすごいですね」
「楓に教えてもらったんだよ。
……お前さえよければ昨日の話の続き、話してもいいか?」
くしゃっと、でもどこか憂いのある顔を堀部さんが見せるから、僕の胸の奥の、柔らかくて敏感な所がふわりと揺さぶられた。でもそれを隠すように僕は「はい」と淡々と返す。
堀部さんは返事を聞くなり、咥えていた歯ブラシを口から出して洗面所に向かう。遠くからガラガラとうがいの音が聞こえて、また奥から姿を見せた。
その大して長くない時間で、僕は呼吸ができないくらい体が硬直していた。堀部さんの話を聞くのが、少しだけ怖くなっていたんだと思う――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます