太陽と一歩




 心技体。


 心は技を以て体を成し。


 体は技を以て心を成し。


 技とは動く事であり。


 心技体で以て己を成し。






 三百六十五日の中で日照時間が長いこの日。

 世界で珍妙な事件が起こった。


 太陽の悪戯と言うべきか。


 二人、ないし三人に己が分裂したのである。


 姿かたちは本体と瓜二つ。


 しかし、性格が違った。


 内一人が、積極的に行動するのだ。


 動かない人には動くように駆り立てる。

 動いている人には動かないように宥める。




 この奇々怪々な現象を前に私は思った。


 時折、いや、最近では常々心痛する事。




 走る、はしる、ハシル。


 彼女が私の手を握って、人、ひと、ヒトであふれるこの世界を突っ切って、走り続ける。


 体であろう彼女に、心である私は足をもたつかせながら引っ張られ続ける。




 仰げばまだ、


 日は高い。







 目を覚まし、眠っていた感覚を噛み締め。

 疲れたと布団の上に意識して寝転んで。

 勢い良く上半身を起こし。

 散歩してみるかと。

 月の見える世界へと一歩踏み出す。







 筋肉痛に顔をしかめながら、けれど、意地を張って、さんぽは踏み出した。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る