影喰と魔法使い
千慮一失だった。
まさか、俺の行いがこんな悲劇を生むなんて。
予想だにできなかったんだ。
あ。
一粒の雫が横一文字に飛んでいる。
よっぽどの強風が噴いているんだな。
なんて。
意外にも俺は冷静だったと思う。
「っち。影が出てこんとは。まだまだ下っ端か」
あらあら、ご婦人がそんな乱暴な物言いをするんじゃありませんよ。
もっとおとしやかな物言いがあなたにはお似合いですよ。
そっと、たしなめてあげたい。
願望さえ抱く俺はやはり冷静だった。
「朔望。おまえ、こいつが一人前になるまで一緒に行動しな」
「えー。だから私はこのまま御雲様になってもいいんだって」
「じゃあかあしい。巽に拾われたからには巽の言う事を聞きな」
「横暴だー」
「じゃあかあしい」
「あ、あの」
「てめえの影喰が未熟だったせいで、朔望が地に立てなくなるばかりか、地から離れて行っている。てめえのせいだ。なんとかしろ」
「あ」
今までとは違う意味で顔面蒼白になった。
確かに俺は影喰として、まだまだ未熟だ。
だがまさかしかし。
こんな大失態を犯すなんて。
まさかしかしそんな。
「っち」
大袈裟に身体が揺れる。
情けなさ故に。
なんとかできるのならば、瞬殺でやり遂げるのだが、未熟な俺はまだ自分が食べた影を出すなんて高等技術はできない。
「お兄さん。全然、これっぽっちも気にしなくていいよ。私は元々御雲様になりたいと常々思っていましたから、今回の件は神様が願いを叶えてくださっただけのこと。むしろ、感謝します。ありがとうございます」
ほんのりと、ほんわかと、ゆったりと。
まさか、魔法使いの箒に乗って浮いているからではあるまい。
もともとの気質なのだろう。
お嬢ちゃんかお坊ちゃんか判別はできないが、年の割には達観している物言いの幼子に、滂沱と涙を流した。
「朔望さん、と言ったね。俺、絶対君に影を戻すから。それまで手を離さないから」
瞬間、渋面になる朔望に、けれど俺は構わず手を伸ばして、手を掴む。
実際は逃げようとして一度目で掴まえきれなかったけど、やはり構わず何回も挑んで、強引に掴む。
やんわりと、痛めないように。
きゅっと、離さないように。
じりりと、逃げても無駄だと諭すように。
「じゃあ、私も方法を探しに行くから」
「ご婦人。申し訳ないです。ありがとうございます」
「…おまえ、朔望を元に戻すまで影を喰うなよ」
「もちろんです」
「ならいい。なにかわかったら教えに来る」
「はい」
「…せめて箒を掴んでくれませんか?」
ご婦人を見送りながら告げられる提案に、俺はんんと曖昧な答えを返した。
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