ラムネとペンギン
ある海岸に、一匹のペンギンがいました。
大人の両手に乗るほどの大きさで、紺青色の髪の毛みたいなM字型の模様とくちばし、瞳以外、真っ白な、ふわふわもこもこのペンギンです。
名前をラネと言います。
今日はある理由から、仕事仲間でもある友達に会いに来たのです。
海面には月光によって一本の道が創られていました。
ふわふわもこもこな羽毛のラネは水の中を泳ぐ事はできません。
海岸では本来の姿の友達に会う事ができません。
その道を辿った先に友達に会う事ができるのです。
とたとたと、身体を小さく左右に振りながら、月光橋と名付けた道を進みます。
終着地点は、海岸と地平線の真ん中。
カランカラン。
ラネは合図を言いました。
すると月光橋がゆらゆらと揺れ始めました。
友達が来る合図です。
思った通り。ちゃぷんと、控えめな水音を立てて、友達は顔を海面から出しました。
人魚のネムです。
用心深いネムはきょろきょろと当たりを見回してから、月光橋に身体を乗り上げました。
下半身を護り、彩る鱗が月光によって、より一層輝き、美しさを増します。
ネムはラネを見て、呆れ顔になりました。
「また喧嘩したの」
「した」
「毎年毎年懲りないね」
「あっちが悪い」
「仕方ないよ」
「浮気するのは仕方ない?」
「仕方ないよ」
「・・・そりゃあ、さ」
「私たちはこれでしか生きられないんだから」
「・・・・・・・・・」
「ほかに手を出す気はないだろ?」
「そりゃあ、そうだよ」
ふふっと笑ったネム。掌をお月様に向ければ、あるものが出現しました。
涼し気で独特のフォルム。
喉越し最高に爽やかなカーボンテッドドリンク。
音で楽しませ、四苦八苦して取り出す(今は簡単に取れてしまう)ご褒美のビー玉。
ラムネです。
実はラネとネム。
夏の間だけラムネをあげる妖怪なのです。
ラネはその可愛らしい容姿のままで、ネムは人間に化けて、ラムネをあげます。
妖怪なので、誰かに憑きます。
毎年、人を変えてもいいし、変えなくてもいいですが、その年の夏は必ず一人だけと決まっています。
ネムは毎年憑く人を変えていますが、ラネはずっと同じ人に憑いています。
憑く、といっても、一日中ではありません。
妖怪なのに、昼間だけです。
「やれ、コーラ。やれ、グレープファンタ、メロンソーダ、オレンジファンタ、レモンファンタ。ファンタファンタファンタ。夏以外に飲めばいいのに!」
「違う人に憑けばいいのに」
「嫌だ!」
「ラムネは自然と手を伸ばすものでしょ。お店しかり、屋台しかり、私たちしかり。欲しいと言われた時にあげるのが、私たちの役目」
「・・・・・・・・・わかってる」
「どうせまたすぐに仲直りなんだから」
「うん」
「そろそろ月光橋も消えるし、愚痴も言い終わったみたいだし、早く戻りな」
「うん。じゃあ、また」
ラネはダッシュで来た道を戻ります。
(別に、海に落ちるのが怖いだけだし!)
誰にともなく、言い訳を心中で述べて、海岸へと向かいます。
一直線。
立っている人の元へと。
澄んだ空気の中。
カランコロン。
ビー玉の音が響き渡ります。
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